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「目が覚めたら乃木坂4期生の○○でした」 第25話

ある朝、目が覚めると女の体、しかも乃木坂の4期生になっていた××(現世名:○○)。
ライブを終え、初めての4期生楽曲のレコーディングを終え、そして初めてのグラビア撮影に挑んだ○○だったが、散々に打ちのめされて帰ってきたのだった…。
そして今日も4期生達は今日も仕事に臨むのだった。

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今日の4期生は…結構にぎやか。

というのも、先日、アルバム「今が思い出になるまで」発売記念、4期生ミニトーク&ミニ握手会を終えて来たばかりなのである。

このイベントは、名前通り、アルバムが発売になった記念イベントとして、4期生たちが数人の組に分かれて各地方のデパートを回り、アルバムの宣伝と販促、ファンとの交流を行なっていくイベントだった。

今事務所のレッスン室は、自分たちはどこの地方を回った、ここはこうだったなどの会話で盛り上がっている。

しかし。

掛橋「どうせならご当地名物とか食べたかったのに全然食べられなかった~!」

田村「私たちもだよ~!もう本当に私たち東北行ってきたんだよね、って感じで、自覚さえないの!」

そう、みんな特に出張した地方を堪能してきたわけではないのだ。

なぜなら、そこでの握手会が終わったら直ちに次の現場へと向かうべく隣の県へ移動するという仕組みだったので、入り浸れたのはせいぜい当日の数時間のみ。

周辺にはファンがうようよしていたわけなので、自由時間が与えられるはずもなく。

結果的に、特に地方の醍醐味を味わうことなく帰ってきてしまったメンバーがほとんどなのである。

✕✕(どうせ全国ツアーで存分に地方とかそこのグルメを回るんだからよかろうに。)

等と思いつつも、○○も先日のそのイベントを回顧してみる。




その地方を回る組み合わせも、××のいた世界とは大きく違った。

単に、○○の存在が原因だろう。

○○のチームにいたのは、柴田、遠藤、○○。

このイベントは、いわゆるレーンと言われるものが一つしかないので、一度並べば必然的に3人全員と話す権利を手に入れられるシステム。

なので、当然目の前で握手しているその人間が自分を推してくれている、とは限らないわけで…。

「あ、○○ちゃん、可愛いですね!応援してます!」

○○「え〜ありがとう〜!嬉しい〜!」

「おぉ!さくちゃん!俺もうめっちゃファンで!いや実物超可愛いですね!」

遠藤「えへへ〜?そんな事ないよぉ〜。」

××(あの人、絶対遠藤さくら推しだったやつだなアレ…。)

なんてこともしばしば。

スタッフ「次、来ますよ!」

○○「あ、はい!」

「○ちゃんだ!初めまして!私、○ちゃん推しなんです!」

○○「えー!本当!?嬉しい!」

「本当です本当です!これからも推し続けます!頑張ってください!応援してます!」

○○「うん!ありがと〜!」

スタッフ「お時間でーす。」

○○「バイバ〜イ!」

今まで××は握手会にいいイメージがなかった。

握手会に集まる人間が皆んな善良だとは限らないのでメンバーがどんな目に遭うかわかったものではなかったし、そういった悪質なファンにまで笑顔を振り撒かなければならないメンバーが不憫にしか思えなかったから。

だが、少し悪く考えすぎていたのかもしれない。

実際、自分がアイドルの側に回ってみて、××はそう感じた。

それに、さっきファンの人から言われたあの言葉。

(〇〇ちゃん推しなんです!これからも応援してます!)

〇〇「…結構ちゃんと嬉しいじゃん…。」


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時は現在に戻る。

○○「フッ…。」

筒井「○ちゃん何ニヤニヤしてるの?何か嬉しいことあった?」

○○「え?そんな顔してた?」

筒井「してたしてた。」

○○「いやぁ、こないだ地方回った時のことちよっと思い出してただけだよ。」

筒井「ふぅ〜ん。」

清宮「あやちゃ〜ん!」

とそこに、清宮が筒井に抱きつく形で話かけてくる。

筒井「わっ、レイちゃ〜ん。」

清宮「ねぇねぇ、今日何でこの時間に私達集められたんだろ?あやちゃん○ちゃん、なんか聞いてる?」

筒井「いやぁ、私は何も…?〇ちゃんは?」

○○「私も全然…。何だろうね?」

実は○○は薄々感づいている。この後のスケジュールを知っている✕✕からすると「そろそろ」だと思い始めていた。

と、そこへちょうど今野がレッスン室の扉を開けて入ってくる。

今野「はい、みんな揃ってるな~。」

その声に4期生達は反応しすぐさま集合する。

今野「それでは今日は、次の乃木坂46 23枚目シングルに収録される4期生楽曲のフォーメーションを発表します。」

「「えっ…。」」

○○「…。」

現在はアルバムのプロモーション期間真っ最中だが、まもなく乃木坂は23枚目シングルを発売する。

時期だけで考えればそろそろ選抜発表など発売に向けた準備が行われてもおかしくない。

唐突な今野の発言に周囲は落ち着かない様子。

今野「それでは発表していきます。」

××(そういや俺どこに入るんだろ?)

今野「まず三列目の一番端、6番と12番から。」

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今野「そして2列目最後、9番が、〇〇 〇〇。」

〇〇「…はい。」

〇〇は2列目の真ん中だった。

良いのか悪いのか、わからない。

今野「次に1列目。1番から5番。まず1番。田村真佑。」

田村「はい。」

たかが期別曲。されど期別曲。

今野「2番。掛橋沙耶香。」

掛橋「はい。」

普通の選抜でもそうだが、今回のこのフォーメーションは、いわゆる運営からの期待度の序列に近い。

今野「5番。筒井あやめ。」

筒井「はい。」

フロントに並ぶのは、言わずもがな、人気で力のあるメンバー。

××視点、未来では全員エース級になるほどの、逸材。

今野「4番。賀喜遥香。」

賀喜「はい。」

彼らがフロントに並ぶと言う歴史は××の世界通り。

この歴史を塗り替えて〇〇がフロントに来た日には、誰かフロントになるはずだったメンバーが2列目に行ってしまうことになる。

今野「最後にセンター。」

だが、それはそれで良いのだろうか?

曲がりなりにも今この〇〇は乃木坂46の4期生だ。

歴史を大きく変えてはならないからと、このまま〇〇を中途半端なポジションに、言ってしまえば、手を抜いた状態の活動を続けても良いのだろうか?

それは〇〇という人間に失礼ではないだろうか?

いや、今考えることではないか。


今野「3番。今回の曲のセンターは、遠藤さくら。」

遠藤「…。」

遠藤は返事さえできず一礼をしてセンターの位置に着く。

〇〇の、正面。

逆に言えば、〇〇はセンターである遠藤の真後ろのポジション。

〇〇「…。」

今野「今回の4期生楽曲は、このフォーメーションでやっていきます。よろしくお願いします。」

4期生「「よろしくお願いします。」」

今野「早速今日、音声デモのデータを配布します。明後日からはフリ入れを開始して、来週にはMV撮影の予定です。」

××(はっや…。)

柴田「今回はMVもあるんだ…。」

賀喜「手裏剣の時は音だけだったもんね…。」

今野「では解散。」

4期生「「ありがとうございました。」」

今野が部屋から出て行く。

沈黙。

「…。」

××(おっも…。空気…。)

遠藤「センター…。MV…。」

遠藤がポツリと呟く。

××はいつぞやの、乃木坂の活動に不安を覚えていた遠藤の涙を思い出す。

××(やっぱりまだ不安か…。)

こういう時、皆んなに辛い思いをさせないためにはどうするべきか。

ちょっとぐらい、バカになろう。

重い雰囲気?そんなの知らない。

○○は正面に立つ遠藤に駆け寄り背中をバンッと叩く。

○○「何しんみりした顔してんの!センターおめでとう!」

遠藤「○ちゃん…。」

○○「不安?」

遠藤「まぁそれは…。」

○○「だーいじょーぶ。さくちゃんなら出来る。私が保証する。いざとなれば、私が後ろにいる。」

遠藤「…うん、ありがと!」

その様子を見て田村と賀喜も駆け寄ってくる。

田村「さく〜!頑張ろうね〜!」

賀喜「隣で全力でサポートするからね!」

遠藤「まゆたん、かっきー、2人ともありがとう…!」

近くにいた掛橋と筒井はそんな遠藤や○○達の様子を見ながら静かに笑っている。

こういう時積極的に声をかけないのも2人らしいというか。

○○「さぁ!初めてのMV!緊張もするけど、皆んな気合い入れて頑張っていこ〜!」

その一声を皮切りに、皆んなの表情が緩む。

4期生「「お〜!」」

確かに何かを重く受け取るのも大事だけど、私はそれでメンバーに負荷を感じてほしくなくて、女になったあの日、乃木坂として生きていこうと決めたんだ。


第25話 終

続く


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