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「目が覚めたら乃木坂4期生の○○でした」 第21話

ある朝、目が覚めると女の体、しかも乃木坂4期生の17人目になっていた×✕(現世名:○○)。工事中の体力測定回の収録を終え、今日はどんな仕事が彼…いや、彼女に待ち受けているのか。

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4期生たちはひたすらに歌う。踊る。

いつもの事務所内のレッスン所ではない。

乃木坂がライブのリハーサルの時に使う大きめのレッスン所。

周辺に控えるは先輩メンバーの面々。

「水玉模様」、「サイコキネシスの可能性」。

今やっているのはday1の4期生担当曲。

といっても、たったの2曲。あとは全体楽曲にちらほらといった感じだ。

ライブ3時間という点から見ても、先輩たちの担当楽曲量から見ても、4期生の出張る箇所は圧倒的に少ない。

まだまだ4期生は入りたて。未熟。

アイドルとして、乃木坂としての基盤の形成途中。

ある種当然と言えば当然だった。

しかし、その中を4期生は必死に頑張っていた。

自分たちに先輩たちの楽曲を割り振ってもらったありがたみを噛みしめ、責任をしっかりと果たそうとしていた。

たった一曲の中でも、精密な集団パフォーマンスが求められる。

立ち位置、動きのきれいさタイミング、向く方向表情、歌い方、音程、声量。

心がける点は多い。

コーチ「そこ!もっと右!バミリよく見て!」

○○は下のバミリを見ながら少し右にずれる。

コーチ「ストップ!その位置!そこ忘れないように!」

○○「はい!」

そして、曲が終わる。

コーチ「ハイ次の曲に行くよ!移動移動!」

4期生はあわただしくはけていく。

舞台袖にはけるというのはつかの間の休憩。

○○は深呼吸をして、穴をあけた風船のように大きく息を吐く。

しかし本番はこの時間も次に備えての着替えや移動時間に充てられるのでこうはいかない。

✕✕(昔からライブのメイキング映像なんかでライブの裏側は軽くは知ってたけど、当事者になるとここまで違うとは…。)

そう、大変。

室内で真冬だというのに、汗水を流し、ペットボトルを空にし、ポケットから取り出した小さなメモ帳を真っ黒になるまで書き込みをし…。

でも、それ以上に…。

遠藤「楽しい。」

筒井「うん。いろいろ注意されたり、プレッシャーを感じることもあるけど、それも含めてすごく楽しい。」

賀喜「ライブを作ってるって実感させられるよね。」

4期生たちは大いにその時間を楽しんでいた。

そして、4期生の仲間たちのそんな言葉や笑顔を見て感化された○○も、自然と顔がほころんでいた。

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コーチ「じゃあ明日はDAY2と3の内容を通しでやるから!各自備えておくように!解散!」

一同「はい!ありがとうございました!!」



桜井「4期生ちゃん~、お疲れ様~。」

話しかけてきたのは、2019年当時の乃木坂46キャプテン、桜井玲香。

4期生「「お疲れ様です!」」

高山「お〜、皆んな初々しいね〜!」

真夏「皆んな可愛い!」

高山「ほら、あすも4期生ちゃん達と話したくてついてくるって言ったんでしょ?ほらもっと前出ないと!」

齋藤「まぁ、うん…。」

桜井の後ろから声をあげて出てきたのは、高山一実、秋元真夏、齋藤飛鳥の3人。

いずれも一期生の大先輩。

加入時の挨拶や工事中の収録で何度か顔合わせはしているものの、特に面と向かって会話したことはなく。

むしろ今までずっとテレビの中の人だったが故に、至近距離に本人がいるというスペイベ並の状況が未だ信じられないでいるのが現状。

4期生全員、どうも気後れしてしまうといった感じだ。

桜井「どう?ライブの練習で困ってることとかない?」

矢久保「は…はい!ちょっとここの時の動きについて聞きたいことが!」

矢久保「この、最後全員でステージの通路を回って歩く時どのくらいのスピードでどんなところを見ればいいんでしょうか!」

金川「あ、それ私も聞きたいです!」

高山「う〜ん、そうだなぁ、スピードは結構皆んな自由だよ〜?ファンの人達のペンライトとかうちわとか見てると自然と遅くなるしね〜。」

秋元「うんうん、指示にあった通り、最後にはステージにいれば基本はどこにいても平気かな!」

桜井「じゃあその辺は私が詳しく教えようかな。聞きたい人はおいで〜!」

その声に3人ほどのメンバーが寄っていく。

遠藤「あの、私はここの振り付けについて聞きたくて…。」

飛鳥「あ、じゃあそこは私が教えようかな…。」

遠藤「お、お願いします…!」

そこにまた数人のメンバーがついていく。

残ったのは○○を含む数人。

真夏「○○ちゃんは聞きたいこととかない?さっきダンスの先生に色々指摘されてたけど…。」

○○「あー…私は平気です!私の事はお気になさらず、他のメンバーのサポートにまわってあげてください!」

真夏「そう?ならいいけど…。なんかあったら言うんだよ?いくらでもアドバイスするからね?」

○○「はい、お気遣いありがとうございます。」

○○は一礼をして真夏に背を向け歩き出した。


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『ハルジオンが 道に咲いたら』

スマホから流れる音声。

ステップを踏む音。

ガラスの反射を利用して練習する影。

○○だった。

「はぁ…はぁ…ふぅーっ…。」

音源を止め、タオルを手に取り、水分を口にする。

○○は練習場からは死角になっている影で一人で練習をしていた。

××(俺は元々、乃木坂の人間ではない。)

××のいた世界では当時4期生は11人。

つまり先ほどのあの場面でも、本来であれば先輩が気にかける人間は11人しかいないはずなのだ。

○○は存在しないはずの12人目。

4/11>4/12。

先輩たちが○○まで気にかけるということは、××の世界に比べ先輩たちの労力も時間も分散することになる。

それが××としては申し訳なかった。

××(俺は一人で完璧になればいい、そうすれば、先輩たちは他の11人だけを気にかけてあげればいい。俺のいた世界と変わらなくなるはず。)

✕✕なりの、気遣いだった。

○○「…もう一回。」

スマホから音源を流して練習を開始する。

フリを確認していると、突然スマホの音楽が止まった。

○○「……?」

それに合わせて○○の動きも止まる。

スマホの方に目をやると。

飛鳥「よっ。」

○○「…飛鳥さん。」

飛鳥「まったく~。どうしちゃったのさ、こんな隅っこで一人で練習なんかしちゃって。」

○○「…飛鳥さんこそどうしたんですか?さくちゃんたちを教えていたはずじゃ?私のことは心配しなくていいので、みんなのことを見てあげてください。」

飛鳥「いやぁ、ね、あの子がどうしてもあんたのこと気になって仕方ないみたいでさ?」

飛鳥がさす方向をみると、柱の後ろから頭を出してこっそりとこちらを覗く遠藤の姿があった。

…バレバレだが。

○○「…さく。」

遠藤「…。」

遠藤は口をぎゅっと結び、不安そうな表情でこちらを窺っている。

飛鳥「あんまりお仲間を心配させるでないよ。それとも、先輩たちはそんなに頼りないかい?」

○○「いえ、そんなことは…!」

飛鳥「じゃあ決まり。こっちで一緒に練習しよう。」

○○「え、あ、えっと…。」

飛鳥「一人で完ぺきになろうとしてた?」

○○「…。」

飛鳥「私たちの頃はいろいろ聞ける先輩とかいなかったけどさ、今のあんたたちは私たちっていう先輩がいるじゃん?変なとこで意地はるもんじゃないよ。」

○○「…すいません。」

飛鳥「ほら、いこ。」

○○は飛鳥に手を引かれて歩き出す○○。

遠藤の横を通り過ぎると、遠藤は伏し目がちに○○のもとへ寄って服の裾を掴んできた。

遠藤「ごめんね。余計なことしちゃったかも。でも、ほっとけなくて…。」

○○「…ううん、そんなことない。私こそごめんね、心配かけた。練習、一緒にやろ?」

遠藤「うん!がんばろ!」

✕✕(まぁ、いっか…。こういうのも。)

遠藤の不安そうな顔を見せられたら、○○はもう何も言えなくなっていた。



飛鳥「ほら、ここちょっと違う!よくこんなんで一人でやろうとしてたなぁ!?ん~!?」

○○「え、こう、ですか!?」

遠藤「…フフッ。」

飛鳥「ほらさくらちゃんよそ見しない!あんたもあんたで違うからね!」

遠藤「え、ごめんなさい~!」


高山「んー、飛鳥も先輩してんねぇ。」

秋元「ね~。あーんな小っちゃかったのに。」

桜井「…。」

桜井(そろそろ私も卒業かなぁ…。)






「人が変わった?」

「はい、お見立て会の二週間ぐらい前だったかな?急に人が変わったように振る舞いが変わったんですよ。んで、今の感じに。」

「それはあれじゃない?記憶喪失の影響もあるんじゃない?」

「記憶喪失?」

「あ、こら、それは言っちゃいけないって○ちゃんに言われたじゃん!」

「あっ…。」

「ん、どういうことかな?」

「あー、○ちゃん、そのお見立て会のちょっと前に記憶喪失気味になっちゃって。名前とかある程度の情報は覚えてたし、体は快調らしいので、そのままお見立て会には参加したんですよ。ただフリとかは全部飛んじゃってたんですけど。」

「そうそう、一緒に出掛けたこととかも全部忘れちゃって。寂しかった~。」

「んで、後々面倒なことにしたくないからって、その記憶喪失のことは秘密にするように、○○ちゃん本人から言われたんです。」

「あー、なので、一応お話ししたんですけど、このことは、内密に…?」

「もちろん、言わないよ。」


「記憶喪失、ねぇ…。」






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