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ALLYOURSと僕 第二章1日インターン編

2019年3月1日。クラファンのリターンで1日インターン券があり、即申し込んだものがついに実現した。

集合時刻は昼だったのだが、万が一にも遅刻はいけないと思い、2時間ほど早く池尻に降り立った。時折、Twitter等で拝見していたグッピーなるコーヒー屋さんへおれも行ってみようと散策をした。相変わらず都会の地理に弱く、迷いながら歩いていると、いきなり1人の男性が「うちの服ですよね!着てくれてありがとうございます!」とお辞儀をし握手を求めてきた。最初は訳がわからず、その人に圧倒されたまま握手をしていた。しかし、顔を見るとあれ?見たことがあるぞ。そう、なんとその男性は紛れもないオールユアーズの社長木村まさしさんその人なのであった。

「え、木村さんですか⁉︎」「え?」
「今日、昼からインターンに伺う予定の者です!」「うおー!まじ?ちょっ、とりあえずコーヒーでも飲まない?」

そう言って木村さんは、コーヒー屋へと僕を招いた。あれ?ここがグッピーじゃんか!と思っているのも束の間、美味しそうなコーヒーが差し出され、木村さん、僕、グッピーのともしさんで大おしゃべり大会が始まった。ともしさんが何やら葉っぱを巻いて吸うかっちょいいたばこを吸っていたことを覚えている。

「何勉強してるの?」
「表象文化論っていって死ぬほど漫画オタクしてます」
「いいね〜!」
「例えば、作品は世に放たれてしまえば作者に出来ることはなくて、物語の解釈は受け手によって構成されるっていう作者の死という考えがあって」
「あーそれすごいわかるなーうちの服もああいう売り方してるけど、服の解釈自体もお客さんが好きにやってくれていいと思ってる」

地方の一大学生がやってることに、僕自身のことにすごく興味を持ってくれて、話を聞いてくれて議論を交わしてくれて、大人とちゃんと向き合って話せたのはすごく楽しくて貴重な体験だった。この時以来、オールユアーズに行く時は必ずグッピーによってから行くことがルーティーンになった。

それじゃそろそろ行こっかということでオールユアーズの店舗に行くと、ちょっぴり強面でダンディなこれまた関西弁を話す男性がいて「じょうくんで合ってる?インターンの前に捕まってしまったんか〜」と気さくに声をかけてくれた。あきらさんである。さらに店の奥のミシンではかわべさんが縫い物をしていた。かわべさんにも挨拶をすると「あっ!RADWIMPSのライブの!山形から来た子やん」と半年以上前の初来店の時のことを覚えていてくれた。単純に嬉しかったしびっくりした。後で話を聞くと、大学生っぽい子が遠慮がちに入ってきたのに、最後にはめっちゃ買っていったからすごい覚えてたよ〜とのことだった。

その後は実際に店舗に立って、接客をさせてもらった。ちょうどお客様が試着をされており、1か2かどちらのサイズでも着られるけど、どうしようかなと悩んでいた。気のいいご婦人がそちらの若い人の意見も聞いてみたいと気を回して話を振ってくださった。あきらさんも目配せをしてうなずき「ほれ、今や!いったれ」と言わんばかりに合図を出してくれていた。僕は正直に自分なりの感想を伝えたり、他の商品の説明をさせてもらった。オールユアーズの服についてめちゃくちゃ説明を読み込んでいたので助かった。そのお客様は、ありがとうと言ってくださった。インターンの何も知らないペーペーに接客されてもありがとうと言ってくれる器の広い方で本当によかった。

接客もほどほどに、今度は木村さんとオールユアーズについて話をした。

消費は投票だと思ってます。自分のお金を落とすってことは応援してくれてるってこと。僕自身もそうやって買い物をしてるつもりだし、うちに来てくれるお客さんにも納得して投票してほしい。」
「ファッションは自己表現の場じゃなくなった。今は映えるってあるけど、昔は映えるのは自分の服装だった。でも今は映えは自分で撮ったものに対して使う。なら、インスタに限らず映えを撮る上での私たちの服装をできるだけ楽にしてあげて活動を阻害しないほうがいい。」

いや〜勉強になるな〜と聞き入っていると、そろそろ飯でも行こかとまたまた関西弁の帽子をかぶった人が声をかけてくれた。我が東京の父、原さんである。オールユアーズから少し歩いたところにあるウィムスというご飯屋さんに着いた。「カレーとハンバーガーどっちがいい?好きなもん選びや」と言われ、「チーズバーガーでお願いします」と言うと、「あかんあかん!今大学生やろ?もっと腹一杯食べなあかん。このいっちゃんでかい顎外れるみたいなバーガーにしとけ!」と言われた。
東北人である私にとって、原さんの関西弁はめちゃくちゃ新鮮で強烈で若干怖かった。絵に描いたような関西弁でぐいぐいくる怖めなおっちゃんというのが原さんの第一印象だ。やっぱ社長は威厳と迫力あるな〜と原さんに対しては思ったが、木村さんはなんだか気のいい親戚の兄ちゃん感がすごかった。

バーガーを待っている間に世間話をする中で、「なんか夢とかあんの?」と言われた。
私はこの質問が大の苦手だ。昔からこれといった夢や、やりたいこともなくそれがすごくコンプレックスだった。どうせまた、じきに見つかるから頑張れと言われるんだろうなと一連の流れを想像した。

「すみません。夢がないんです。それがコンプレックスでもあって。」
「えー!いいなー!」

え?今この人いいなって言った?
そっかーまだまだこれからやという返事が来ると思っていた私は、びっくりしてしまった。

おれはもう服に関して半ば夢を叶えてしまったところもある。もちろん今の会社をもっと良くしたいって気持ちはあるけど、今のじょうみたいに真っさらな気持ちはどうしても持てん。だからおれはお前が羨ましい。まだ何者でもなくて何でもできるお前が羨ましい。おれも夢ないって言いたいもん。もし夢ないんですか?って言ってくるやつおったら夢なんかないわアホって言ったれ!

衝撃だった。きっと原さんからしたらなんとなく言った一言だったと思う。でも僕にとっては雷に撃たれるほどの衝撃だった。大人なのに、社長なのに、夢叶えてるのに、夢あるのに、おれより何でも持ってる人なのに、そんな人が夢がないことをいいなーって言った。「夢がないということをおれは持っていない。可能性の大きさとしては、おれはお前に負ける。」そう原さんは言った。きっと今、原さんに聞いても、もう忘れたわと言ってお茶目にごまかすかもしれない。でも夢を見つけることを応援するのではなく、純粋にいいなーと言ってくれた原さんは、明確に他の大人とは違う感性を持った人だと分かった。

強烈な大人との出会いだった。
木村さんは思想のオールを漕ぐ人だ。めちゃくちゃ優しく僕の話を真摯に聞いてくれる。自分の考えてること、思ってることを余すことなく伝えてくれる。「うんうんうん、そそそ、いいねいいね」木村さんの相槌を聞くと、不思議ともっとこの人と話していたいと思う。
原さんは大船のような人だ。誰よりも大人なのにシンプルで気持ちの真っ直ぐさがある。学生の僕をものすごくかわいがってくれるし、頼りにしてくれたりちょっと張り合ったりしてくれる。誰よりも貪欲に真っ白なキャンパスを持とうとしてる人だと思う。

僕にとって情報や製品だけじゃなく、それを作ってる人を深く知る機会になった1日インターンだった。きっと将来、僕の原体験を聞かれたらこの日だと答えるだろう。

そしてインターンが終わり、池尻大橋駅の階段を降りようとした時、木村さんはおかしな誘いを僕にした。

「丈くん明日暇?暇なら一緒に山梨行こうよ」
「え?あ、はい」

その日初対面の人にプチ旅行に誘われて一瞬フリーズしたが、友達がやってるイベントがあっておもしろいだろうからということでふたつ返事でお供することにした。

次回、第二章外伝発酵マルシェ編に続く。

では、道が交わればまたどこかで。

大体コーヒーか漫画に使います。もし万が一この若造にコーヒーや酒の1杯おごってやってもいいと思う方がいらっしゃるのなら嬉しい限りです。