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この時久しぶりに思い知った。自分がどこまで弱いかを。
忍差は手を見た。手に力を入れようとしたが自分の未熟さを知った今、もう力が入らなかった。
前を見ると2人がにらみ合っていた。その場は静かだ。聞こえるとしてもカラスが悲鳴を上げながら逃げていく音だけだ。
風が鳴ると埃が舞った。「君たちはためだね、こんなところでそんなことをしては」埃の中に一人の男が現れた。
足音も気配もしなかった。今でも気配がしない。厳格だと思ってしまいそうだ。灰色のスーツに灰色の帽子、そこら辺にいる人と姿は変わらない。
忍差は茫然と男を眺めていた。見たことがある。何度も、何度も。
2人は後ろに下がった。「誰だ」少年が目を吊り上げた。とても警戒している。「なぜ気配も感じ取れなかった」少年はしゃがんだ。理由はわからない。
「それは周辺のことを気にしていなかったからだよ」男は告げる。「どういうことだ。警戒はずっとしている」すると、男の口調が少し厳しくなった。
「それならなぜ、周辺のことを気にしなかった。なぜあのビルをぼろぼろにした。あの中には大切な何かがあったかもしれないだろう」少年は言い返すことができなかった。
「それは…」少年は少し動揺する。少年は壊したビルを見上げた。「それなら直せばいいのだろ」少年はいらいらしたような混乱したような口調で言い、両手を上げた。
「時間よ、戻れ」すると、散らばっていたビルの破片が空中に浮いた。「え?」忍差の口から言葉がこぼれ落ちてきた。
破片はビルに飛んでいき、元の位置に戻り始めた。「これは…」彼女自身は自分が話していることに気が付いていない。
少年は軽いため息をついてから男を見た。「これでいいのか?」男は頷いてからとことこと去っていった。

取り残された3人はただ立っていた。忍差以外。小四郎は意識が戻ったのか周りを見た。「何が起きたんだ?」
すると少年が刀を手にして小四郎に降りかかった。「もう限界だ。負けたよ、負けだ」両手を宙に挙げて小四郎は降伏した。
少年が着る方向を変えた。「よかった」そのまま地面の中に突っ込んでいった。まるで地面が液体化のように彼は沈んでいき、上がってくることはなかった。残ったのは刀だけだ。
私はササっとその場を去った。小四郎がどうしたのかはわからないが、忘れようと思った。

家に帰るといつものように部屋に入りベッドでゴロゴロとした。
やることはないが、本当にあの男は何者なのかを知りたかった。少年も同じだ。
だが、あの男は少年よりの強い予感がした。いや、核心だ。
その後スマホをとると小四郎にテキストを送った。昔は友としていたから連絡先は好感してあった。
そして返事が来た。どうやらまだ同じ電話番号を使っているようだ。
そのままテキストで話していると時間がどんどん進んでいき、最後には一番上に行くまで1分間以上かかるほどになってしまった。
だが、テキストの中では博の口調で話していた。もう少しで博が実は小四郎だったということを忘れそうだった。
しかも苗字からしておかしいと思っておくべきだった。名詐は名人の詐欺師という意味にもなる。
忍差はもっと考えておくべきだと心の中から反省した。

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