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明日の叙景 - アイランド


昨年、世界的にバズった下北系覇権アニメこと『ぼっち・ざ・ろっく!』から生まれた結束バンドによる、アジカンの”転がる岩、君に朝が降る”の神カバーのソロワークとアウトロのビブラートが、完全にDeafheavenのアキバ系ギタリスト=ケリー・マッコイが得意とする慟哭のビブラートのソレ、すなわち”シスコゲイズ”とシンクロしてて独りでに感動した話はさておき(ちなみに、そのカバー曲のボーカルを担当した声優の青山吉能は、独りブラックメタル界で天下を獲れる才能の持ち主だ)、奇しくもアキバ系リスペクトな90年代アニメ風のアートワークを掲げた、いわゆるブラックゲイズの申し子=Deafheavenのフォロワーとなる存在が、2022年に素晴らしい作品を発表したのをご存知だろうか?

ネージュ氏率いるフランスのAlcestと日本のenvyの間の子として生まれたサンフランシスコ出身のDeafheaven、その更なる子供すなわち孫世代に代々受け継がれてきたブラックゲイズを東京から発信しているのが彼ら明日の叙景であり、その音楽性は今さら語るに及ばない。

2ndアルバムにあたる本作の『アイランド』は、祖父母にあたるenvyから受け継いだポエトリーリーディング・スタイルのポスト・ハードコア/スクリーモの激情性と、始祖Alcestから受け継いだ伝統的なブラックゲイズ、そして親であるDeafheavenから受け継いだ現代ポストメタルのオルタナティブな素質、厳密に言えば2014年にリリースしたシングルの”From the Kettle Onto the Coil”以降のDFHVNが確立させた、いわゆる”シスコゲイズ”を正統に受け継ぐかのような、それこそ2022年のヘヴィミュージックを象徴するような一枚となっている。

代々伝わる秘伝のブラックゲイズ然とした#1”臨界”を皮切りに、まるで「踊れるブラゲ」とばかりのグルーヴ感溢れるリフのリズム感やハードロック然としたメロディアスなギターソロの質感からは、祖先からの影響というより北欧ノルウェーの次世代ブラゲを代表するMØLを彷彿とさせる#2”キメラ”、そして#3”見つめていたい”や#9”子守唄は潮騒”における、Alcestさながらのピースフルなアルペジオを駆使した、全盛期のOpethに肉薄するジャジーなメロディセンスが光るインストを耳にすれば、明日の叙景を司る真髄的な部分そのバケモン級の凄さが嫌でもわかるハズ。

確かに、アルバム後半の#7”忘却過ぎし”では始祖Alcestの3rdアルバム『Les Voyages De L'âme』からの影響を、続く#8”甘き渦の微笑”におけるソリッドなリフや緊張感溢れるドラミングからは、DFHVNの3rdアルバム『New Bermuda』の影響を如実に感じさせるが、#5”歌姫とそこにあれ”やシスコゲイズ然とした#11”遠雷と君”における日本人らしいJ-POP的なクサメロからは、先代にも引けを取らない独創的なオリジナリティとソングライティングの高さを窺わせる。また、本作のミキシング/マスタリング・エンジニアとして、UK新世代メタルのRolo TomassiやLoatheの作品でもお馴染みのLewis Johnsを迎えている点も、新世代メタルの旗手として抜かりない。

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