見出し画像

オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第3回 オーストラリア型農法が示唆する未来

今回は、農業事業のベースとなる栽培農法について考察します。栽培条件を画一化し、設備に投資するためには、栽培農法について十分に理解することが必要です。栽培農法は大きく分けて「土耕栽培」と「養液栽培」の2つがあります。

土耕栽培

土耕栽培は主に屋外で行われる露地農法であり、ハウス栽培のような施設を必要としないため、初期コストを低く抑えることができます。このため、土地をそのまま利用できるメリットがあります。しかし、季節や天候に左右されやすく、虫や病気などの外的要因による被害を受けやすいというデメリットもあります。

日本の土耕栽培の現状

日本の土耕栽培は、天候や気候の変動に大きく影響を受けています。例えば、2020年の台風や豪雨により、多くの農地が被害を受けました。農林水産省の報告によると、2020年の自然災害による農作物の被害額は約1,630億円に上ります(※1)。さらに、日本の農業は高温多湿の気候のため、病害虫の発生リスクが高くなっています。
※1) 農林水産省, 「令和2年の農作物被害について」,
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r2/r2_h/trend/part1/chap5/c5_3_00.html

養液栽培

養液栽培は、植物の根を水中に浸して養分を供給する方法です。この方法には、太陽光利用型や完全閉鎖型植物工場などがあります。養液栽培は、土壌を使用せずに植物を育てるため、成長速度が速く、天候に左右されない利点があります。養液栽培は、植物によって育て方がいろいろあります。太陽光利用型(※2)や完全閉鎖型植物工場(※3)などで普及している栽培方法は、養分の入った水中に植物の根を伸ばす方法(DFT水耕栽培〔根を養液に浸す仕組み〕またはNFT水耕栽培〔培養液の水深を浅くして流し続ける仕組み〕)、培養液を霧のように根に直接スプレーする方法(エアロポニックス)、植物の根元に液肥を間歇的に点滴する方法(点滴養液栽培)等の栽培が普及しています。

水耕栽培でも養液の与え方に違いがある
水耕栽培(左)と点滴養液栽培(右)

※2)太陽光利用型植物工場:温室等の半閉鎖環境において、太陽光の利用を基本として、雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制技術等により、周年・計画生産を行う植物工場のこと。

※3)完全閉鎖型植物工場:外部と切り離された閉鎖的空間において、完全に制御された環境、すなわち人工的光源、各種空調設備、養液培養による生産を行う植物工場のこと。

オーストラリアの事例

オーストラリアでは、天候に左右されない施設内での点滴養液栽培システムが普及しています。施設園芸団体「Protected Cropping Australia (PCA)」(※4)のサポートの下、トマト、パプリカ、キュウリなどが栽培されており、規模は30~50ヘクタールの大規模施設が増加しています。オーストラリアの施設栽培は、乾燥した気候や水資源の制約に対応するための効果的な方法として注目されています。

※4)Protected Cropping Australia, 「Protected Cropping in Australia」, https://protectedcropping.net.au/

日本での応用

日本においても、養液栽培は安定した農業生産を実現するための有力な方法です。例えば、完全閉鎖型植物工場を利用することで、年間を通じて計画的な生産が可能となり、気象条件の影響を受けにくくなります。農林水産省のデータによると、2020年時点で日本には約200の完全閉鎖型植物工場が稼働しており、主に葉物野菜が生産されています。これにより、都市部や耕地面積が限られている地域でも高品質な農産物を供給することが可能となっています。

結論

土耕栽培と養液栽培のそれぞれの利点と課題を理解することは、日本の農業の発展にとって重要です。土耕栽培は初期コストが低く、既存の土地を活用できる一方で、気象条件や病害虫のリスクがあります。一方、養液栽培は初期投資が必要ですが、安定した生産と成長速度の向上が期待できます。オーストラリアの事例を参考にしながら、日本でも科学的なデータと技術を活用し、持続可能な農業生産システムを構築することが求められます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?