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『君は放課後インソムニア』を読んでむせび泣く土曜深夜

「君は放課後インソムニア」を読んで今日も枕を抱え布団の隅で眠っている。
読後は一層自身の孤独感が増すのがわかっていながらも眠れない夜は読み返してしまう、麻薬のような漫画である。
例に漏れず今日も読み返してしまったので、読後の感情と感想を吐き出す。

ただの恋以上に尊い主人公とヒロインの関係

不眠症に悩む男女が、お互いを理解しあう唯一の存在として惹かれあっていく本作。
恋愛漫画でよくあるハーレム主人公争奪戦的なことは一切なく、ソロヒロイン一本道ど真ん中ストレートを投げ込み続けている。

この作品の魅力の一つは、主人公とヒロインの関係値がお互いだけで完結していないことにある。
好意の矢印がお互いに向いていく、恋愛を描いた漫画であることに違いはない。しかしその前提として、不眠症という“病”及びそれに付随する“不安を孕んだ世界“という共通の敵に矢印が向いているため、戦友・バディとして関係は始まるのだ。

恋の刺激を求めるためではなく、共に絶望に立ち向かう理解者として向き合っている。
だから異性と深夜に二人で出歩くという行為も、彼らにとってデートではなく初めて得た同志との新しい世界への冒険なのだ。
共に眠るという、字面だけだとやらしく感じる行為をあそこまで綺麗に描けるのも、根底にこの想いがあるからではないか。

“こんな景色が見れるなら、眠れないのも悪くないね”

このセリフがこの作品の全てを表していると言っても過言ではない。

そして

“いつの間にか眠ってしまったのか まるで夢に中にいるみたいだ”

と、不眠症の主人公にとって憧れであるはずの夢に2人きりの時間を例えられるほど、彼女と過ごす時間を愛おしいと感じるようになっていく。

主人公たちは、恋をしてから理解しあっていくのではなく、お互いの1番弱い部分を理解した上でそこに根付いた恋心を育てていく。
一度でも他者との違いや世界が生きづらさを感じたことのある人間にとって、この関係がどれだけ羨ましいことか。

だらだらと話したが、
・唯一の理解者
・二人だけの秘密の場所・時間
・夜と美少女
ただシンプルにこの3点が死にたいレベルで羨ましいだけである。本当に妬ましい。伊咲ちゃんに出会いたいだけの人生だった。

余白がより引き立たせる少女の魅力

少ない台詞でこれだけ緻密な心の動きを表現できるのは、あだち充先生とオジロ先生くらいではないか。
セリフに至るまでを邪魔しないことで二人の微細な動きに集中させられ、臨場感がリアルに伝わってくる。シンプルな背景の中で描かれる二人の姿は、本当に世界に二人きりしかいないかのように尊い。

その中でもやはり、伊咲ちゃんが可愛らしい。
アップでコロコロ変わる表情もそうだが、全身を場面として切り取ったようなシーンが印象深い。

これはきっと主人公がヒロインに見惚れている瞬間なのだと思う。
教室でもお祭りでもどれだけ人がいようとも、周囲がぼやけて彼女だけがくっきりと映る、学生時代の純粋な恋の感覚が漫画の中で表現されている。
この感覚が特別であることを、当事者たちは気がつかない。
大人になり恋愛に打算と妥協が生まれ、誰の姿も目で追わなくなった後にこそ、この作品はより刺さるのだ。
ほんの少し青春時代の感覚を思い出す心地よさに負けてついつい毎夜手を出してしまう。
そして自分には一緒にいてくれる存在がいなかった事実と、あの頃には戻れない絶望を抱いて眠りにつく。

この気持ちを供養するために、誰か学生の時の私と共に寝てあげてほしい。
願わくばそれが、天真爛漫で表情豊かな美少女でありますように。


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