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メタバース住民はインフルエンサーの活動を雰囲気で無条件に肯定していないか?

はじめに

怒り、である。
不登校生徒のケアをそれで出来るのか?という怒りである。
そしてそれを無条件に肯定してやしないか?という疑問である。

これまでも筆者は「メタバースインフルエンサー」たちに対して反旗を翻してきた。メタバースはお前たちのおもちゃでもなければ、飯のタネじゃないぞと言い続けてきた。

だが、今回問題にしたいのは、筆者のそういった性根にかかわるようなレベルの話ではない。

今回問題にしたいのは、「ゆずあっと」なる団体が行おうとしている「メタバース不登校学生居場所支援プログラム」である。

HPには「世界初のVRメタバースを使用した不登校学生対象の居場所支援プログラムです。メタバース内にて2週間計8日間に渡り仮想世界のプログラムに参加して頂きます。また実際にメタバース内で活動している方から話を聞くことで自分の興味の再発見が出来ればと思っています。」と、文字だけ見れば素晴らしい理念が踊っており、すでにMoguraでも取り上げられ、Twitterでは「素晴らしい!」の声にあふれている。

ついでに言えば本プログラムは「広島市社会福祉協議会「ひろしま地域福祉推進チャレンジ応援助成事業(2022年度)」の支援を受け実施しています。」とのことなので、かなり「公的」な活動ということができるだろう。

既に一定数いる筆者が嫌いな人物や、タイトルにつられてヒトコトもの申したい人々はどうせ読みもしないで「社会貢献活動にまで噛みつくとか嫉妬がヤバすぎるw」とか思って言うのであろうが、今から以下に示していく通り、この活動は非常に危うい…というかその実用性・実効性がどれだけあるのか不透明だと感じている。

そして、その割に手放しで賞賛されすぎているように思うのだ。
これからこのプログラムに関する疑問点を並べていくが、なかなか危ういプログラムだと思える。
素人の私がパッとみてもこう思うのだから、他にも似たようなことを思う人だっているはずだ。なのに全然表にでてこない。

何故?

インフルエンサーがやってるから無条件で信頼のおける活動だと、そう思い込んで無批判に賞賛していないか?
本noteでは、これを問いたい。

1、筆者の疑念と懸念

活動の概要と疑問点の整理

あらためて「ゆずあっと」HPをみながら、問題点を暴き出していこう。

以下「HPから」はゆずあっと公式HPより。
https://www.yuzuatto.com/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0

https://www.yuzuatto.com/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0

本プログラムがどういうものかは、はじめにで示した通りなので割愛して、ここに紹介されている人物をみていこう。(敬称略)

まずは代表の水瀬ゆず。肩書は「メタバースシェアハウス事業」、「NPO法人バーチャルライツ 企画課長」、「Ashton Lab LLCのCOO」であるが、いきなり全然不登校生徒のケアや福祉に関する実績がないのが目を引く。

次にサトウタツヤ。この人物は立命館大学の教授であり、Ciniiを参照した限り、現役で論文もバリバリだしていることが確認される。権威には盾突かないわけではないが、この人物についてはバックグラウンドも所属もはっきりしているのでいうことは特にない。

最後になーたん。不登校当事者である。本質的な問題ではないのだが、メタバースが自身の社会復帰に繋がった、というようなことが書いてあるわけでもないので、メタバースが不登校から脱却するためにどう役立つのか、イメージがわかない。そのため、効果的なアピールとはなっていない印象がある。

次にスケジュールを見てみよう。
2週間のプログラムで実働は6日。内容は

  1. 「景色のいいワールドにいってみよう」

  2. 「VRCで活動している人から話をきいてみよう」

  3. 「元不登校の人から話を聞いてみよう」「ワールドを制作している人から話を聞いてみよう」

  4. 「VRで小説を書いている人から話を聞いてみよう」

  5. 「VRの国内名所にいってみよう」

というものである。


基本的には、不登校の生徒に対して「話をする」「話を聞く」ものとなっていることがわかる。

以上を見て、筆者が疑問を覚える点は以下の3点である。
1点目:HP記載の人物のなかで、メンタルヘルスなどの専門的な研修を受けたような人物がみあたらない
・HP掲載の3名にそういったアピールはみあたらない。
不登校支援は子供のメンタルケア/メンタルヘルスの問題であり、プロが介在する必要があると考える。
もちろん、法的な根拠があるわけではないので、「プロがいなくてはいけない」わけではないが、プロがいないならば何をどうやって効果的な支援に結び付けていくのかがわからないというのが筆者の疑問である。

2点目:サトウタツヤ氏の専門は心理学史であり、子供のメンタルケアのプロとは言えないのではないか?
・Wikipediaから単著のタイトルをみると『日本における心理学の受容と展開』『学融とモード論の心理学 人文社会科学における学問融合をめざして』のように、必ずしも子供のメンタルケアにかかわるジャンルではないように思える。

3点目:行われる活動がそれぞれどのような意図を持っているのか不明瞭である。
・基本的に「話を聞く」タイプのプログラムであることは明確だが、これをなぜメタバース上でやらなくてはならないかが明示的でない。
・例えば、折角メタバース上で出来るのであれば、日本各地から参加者を集め、全然違う土地の人々同士で自分達がなぜ不登校になったのかの体験を語り合うことを通じて社会復帰する、ということは場所的制約がどうしても付きまとうリアルの事情とは異なり、メタバース上で行う意義があると思われる。しかし、募集は広島在住の5名だけである。
・さらに言えば、行われる活動それぞれの意図も不明である。なぜメタバース上でワールドを創る人の話を聞くことが学校/社会復帰や「居場所づくり」に必要なのか?これを説明できるのだろうか?

以上3点の疑問を持った筆者は、HP上の「お問い合わせ」から以下のように箇条書きにして質問を送った。

質問事項
1、HP上に紹介されている人物にメンタルヘルスなどの専門的な研修を受けている人物が見当たらない。代表の水瀬氏がそのような資格を持っていたり、教育をうけているのだろうか?
また、そういった人物がいないとしたとき、専門的な見地からどのようなケアを行うことができるのか?

2、HP上に紹介されているサトウタツヤ教授の業績を見たところ、心理学史が専門のようであるが、不登校支援にどのようにかかわっていくのか?どのような指導ができるのかが不透明ではないか?

3、各プログラムがそれぞれどのように不登校支援に資する活動なのかが不明瞭ではないか?居場所づくりを構想しているのかもしれないが、期間が短すぎるため類似の活動を展開しているNPO法人カタリバのように、長期間かけて継続的に居場所づくりを行うようなものでもなく、行われる活動の意味が不透明ではないか?

個人からでは質問が送れない「問い合わせ」

実を言うと、このお問い合わせフォームには実はトラップがあった。
質問をしたいと思ったのだが、まず「ばーちゃるケア ゆずあっとへの活動、取材、講演依頼等のお問い合わせにつきましては以下のフォームよりお問い合わせください。」と記載してあり、「団体名・貴社名」が必須項目であり、個人がコンタクトする道は閉ざされているのだ。

また、フォームの概要が「活動、取材、講演依頼等のお問い合わせ」に限定されており、質問は受け付けていない。

取材以外はお断りというのは、違法や脱法とは思わないものの、公的な活動を行う団体としては不誠実だと感じざるを得ないし、広島市社会福祉協議会の支援をうける公的な活動でありながら、市民には解放されていないプログラムだと感じられる。

個人が連絡をとれる連絡先が掲載していないこと、「活動、取材、講演依頼等のお問い合わせ」以外を聞くことができないような連絡先の設定の仕方はやはり問題ではないだろうか?

不登校生徒のケアということになれば、親も介在するだろうし、親や当事者が何かを問い合わせることだってあるかもしれない。
その窓口すら設けていないで、丁寧に取材の窓口は設けてあるとなれば、ゆずあっとが向いている方向は不登校生徒ではなく、「取材、講演依頼」をしてくれるメディアであるということを示しているようにみえる。

以上のトラップがありつつ、一応質問事項は送付した。

しかし、回答がない。
質問してから1週間経過したが返信がない。
正直なところ、水瀬氏とは顔も知らない間柄というわけではないので、個別に上記の質問をぶつけることも可能なのだが、あくまで「公式」な回答が欲しかったので、実名を握られることを受け入れた上で質問をしたのであるが…。

2、回答がないので筆者が事実関係を整理した

回答がないので、上記3点の疑問に対して、関連する情報を筆者が集め、整理した。
ここでは事実関係を提示にとどめるが、事実の積み重ねの上に真実があると信ずる筆者は、この項目で整理された事実から上述の質問に対する「真実」が浮かび上がることを期待したい。

専門家が見当たらない件

まず、代表としてHPに掲載されている上述の3名からみていこう。
水瀬氏・なーたん氏のTwitterのプロフィール及びHP上の文章に、不登校ケアの専門家としての資格・実績がないことは確認した。
サトウタツヤ教授に関しては、後述するのでカットする。

次に、HPの「各種資料」に掲載されているプログラム関係者の名前には「VR世界旅行 NEKO旅」「アーク師匠」「VR小説家SUN」「ワールドクリエイターおつまち」の4名が掲載されていた。
全員Twitterをやっており、全ツイートを把握することはできなかったが、直近のツイート及びプロフィール欄をみてみることにした。結果として、特に不登校生徒のケアに関する資格や実績を有している旨の文言は確認できなかった。

以上のことから、公開されている事実だけをみれば、本プログラムには(サトウタツヤ教授を除けば)「専門家・不登校生徒のケアを行った実績のある人物はいない」ということになる。

一応、一部は「私立VRC学園講師」という肩書だったが、VRC学園は本当の学校でもなんでもないことには留意したい

サトウタツヤ教授の業績と活動内容の齟齬の件

サトウタツヤ教授の業績については、単著をみる限り中心となるのは心理学史のように思える。

しかし、改めてリサーチマップや立命館大学の研究者データベースを探ってみると、2015年に「通学型の通信制高校において教員は生徒指導をどのように成り立たせているのか――重要な場としての職員室に着目して」、2018年に「ボランティアと連携した学級復帰の支援体制づくり――全日制単位制高校におけるフィールドワーク」、2020年に「教育を心理学的に考えるとどうなるか? 育つ側・学ぶ側について理解して主体的に意味づけて生きる方法を身につける」という論文を書いていることがわかる。

これらの論文からは、「教育」、特に「教員と生徒指導」というテーマについては関心を持って取り組んでいることは把握できる。今回の活動に関わったのは、2018年の論文の延長線上と考えることはできるかもしれない。
そのため、「どのような指導ができるのかが不透明ではないか?」という部分の疑問については大きく解消されることになった。

ただし、具体的な実践やカウンセラー資格の有無などについては情報を集めることはできなかったので、実践的な部分については多少の疑問が残るというのが本音である。

また、もう一つ提示できる事実としては、水瀬氏がかつて「立命館集会」をVRC上で行っていたことがある、ということだ。

現在水瀬氏が立命館大学とどのような関係性を有しているかまでは把握できなかったので、詳細は不明である。

活動プログラムの実効性の件

これに関しては、適示するだけの事実がない。「実効性があるのか?」という効果に対する疑問には、活動後の実績という事実をもって答えるしかないからだ(だからこそゆずあっと側からその意義を聞いておきたかった)。

ただし、神奈川県がだしている「不登校対策の基本と支援のポイント」という文(https://www.pref.kanagawa.jp/documents/4610/r303leaf.pdf)をみると、「子供/保護者によりそう」ことが必要とされており、「こどもに寄りそう」ことの例としては「あなたのことを知りたい」という項目がある。
少なくともプログラムは、「話を聞いてみよう」というものが並んでいるので、不登校生徒の側から悩みを相談したり、それを受け止めたりするような場面が用意されているとは言い切れないだろう。

また、HP上の代表の言葉にあるように「気が付いたら自分の居場所がなくなっていた」生徒向けに「居場所」を見つけるアシストをするとするならば、プログラム14日の内実働6日、しかも2100~2200までの一時間ずつでそれが可能なのかという疑問は生じる
普通、居場所づくりというのはより継続的なものをさすのではないのだろうか?

以上のように、筆者が抱いた三点の疑問にかかわる事実関係の整理をしてみた。
これらから、この項目の最後に少しだけ雑感を記しておく。

補:これらの諸点に関する雑感

このパートは雑感である。決して明示的な事実を記載したものではない。

個人的には、「メタバース」を強調する以前の問題として、やはり不登校生徒のケアをできる「プロ」が居たほうがいいと思うし、在籍しているならば、その存在は表に出した方が絶対にいいと思っている。
不登校は本人の問題だけではなく、親も関わって来ることが多いはずなので、親を納得させ、説得させるにはそうした「見える実績」が必要だろう。

プログラムに関しては、この内容なら普通にVRChatのイベントで行われている程度のものだと感じる。この程度の活動で大々的に「不登校生徒の支援!」と言ってしまうことに懸念を覚える。
普段行われていることがプログラム組んでやりさえすれば、それが不登校生徒のケアに様変わりするとは到底思えない。

あと、やっぱり今のところ説明会以外の活動もないのに、沢山の「掲載実績」がHP上に設置してあるのに違和感をどうしても覚える。
比較するために、同様に不登校生徒支援をやっている「認定NPO法人カタリバ」のHPを例に取れば、「活動紹介」はあっても「掲載実績」はタブとしては存在してない。

お問い合わせだって、目的別の専用窓口のほかにフリーの窓口があるし、そっちは会社名必須じゃないので個人の質問・疑問も受け付けられるようになっている。

こうした部分から、本当に不登校生徒の支援を考えての活動なのか疑問が生じてしまう。向いてる方向が不登校生徒じゃなくて自分たちの活動を取り上げてくれるメディアだと見えてしまう。

不登校生徒のケアというのは大きな社会問題であり、いうまでもなく背後に家庭環境・本人の知能レベル(「ケーキが三等分出来ない」みたいな話)・本人の精神的な状況・経済状態・地域の治安など、複合的な問題が絡み合っているので、これに本気で取り組むのは大変な問題である。

それなのに、専門家の存在も見えてこず、プログラムに意味も見いだせず、取材は受け付けるが質問は受け付けないこの態度では、「メタバース初の」という冠を付けて自分の実績にしたいだけなのではないかと考えてしまう。

さて、最後にこれを踏まえて、インフルエンサーの活動に惑わされるな、という話をしておきたい。

3、活動は名声ではなく内容で判断しなくてはならない

以上見てきたように、ゆずあっとプログラムは非常に危うく、実効性に疑問が残るプログラムであるように思える。
そして、そんなプログラムがどのような決定プロセスを経たかは当然わからないものの、公的な「後ろ盾」を獲得した。
それは役所のお偉いさんたちが色々考えた結果かもしれないが、それはそれとしてこうした、他人の人生に深く関わるプログラムについては、特に内容は精査しなくてはならない。

それがどうだ?筆者が簡単に指摘できる程度でもこれだけの疑問点があるのに、Twitterの引用RT欄をみたらもろ手を挙げた賛同ばかりだ。
なんで賛同したのか?内容まで見た上で、「これはいい!」と感じたならそれはいい。筆者とは見解が違うというだけで、感想や期待は人それぞれだ。

だが、よく振返ってほしい。
ツイートの概要だけ、「不登校支援」という部分だけみて、あるいは報道のタイトルだけ見て、手放しで賛同してはいなかったか?
本当にどのような活動を行うか理解した上で「素晴らしい」だとか「オレたちが学生だった頃にもこんなプログラムがあればよかった」とか引用RTしたのか?

大体そんなことしてないだろう。なんかPanoraやMoguraで取り上げられたし、水瀬氏は色々集会もやってるインフルエンサーだし、なんかいいこと言ってるっぽいから賛同しとこう、みたいな感じで賛成しなかったか?

「素晴らしいです!」と賞賛一色になるほど素晴らしいプログラムか?これが。素人の筆者でもこれだけ疑問があるのに?
それともインフルエンサーがそれっぽいこと言えば賞賛するのか?
内容を精査したか?
「権威」に盲従してないか?

そんなのだと、いつかもっとうさんくさかったり、それこそ筆者がずーーーっと懸念を示しているようなハゲタカ、金儲けの虜になってメタバース住民を顧みない者が現れた時、必ず足元をすくわれるのだ。

だってそういったハゲタカや金儲けがしたいだけの連中、そして詐欺師は耳に聞こえの良い言葉を吐きながら、キチンとした身なりでやってくるのだから。

名声だって関係ない。
権威だって関係ない。
「マスゴミに扇動されて云々」と日々喚き散らしている人物が沢山いるTwitterに住んでいる諸君、あなたたちは「マスゴミ」が「インターネットのニュースメディア」にとってかわっただけで、本質的には同じように、ニュースメディアやインフルエンサーに「扇動」されていないか?

メタバース住民が、メタバースがどんどん取り上げられてうれしいのはわかる。本音を言えば筆者だってうれしい。
だが、それとこれとは別だ。中身を見なくてはならない。内容を自身の目で検討しなくてはならない。
本当にこれはもろ手を挙げて賛同していいものか、信頼がおけるのかを自分の頭で考えなくてはならない。
そういうクセを付けなくては、いつか必ずメタバース住民は誰かの金儲けや名声の餌になる。

まとめ

長々とまとめてきたが、要約すれば以下の2つに集約される。

一つ目は「このプログラムで不登校生徒のケアができるようには思えない」「福祉事業はあなたの実績作りのエサじゃない」である
もう一つは「インフルエンサーの活動だからといって無条件に肯定していないか?それを見直すべきじゃないか?」ということだ

たかだかこの2つを召喚するためだけに8,000文字必要なのだから、評論や論証と言うのは厳しいものである。
いや、読んでいる方もお疲れ様である。

本noteに対する批判、批評などは全て開かれている。Twitterなりコメント欄なり、あらゆる場所で「常識的な範囲で」何を言ってもらっても構わない。思うことはしっかり、言葉に残してほしい。以上でまとめを終える。

そしてゆずあっとさんへ。
公益に資する事業を行おうとしている団体として誠意のある対応を、筆者はいつまでもお待ちしております。

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