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ジョンホン身辺雑記_39_『関心領域』

映画『関心領域』を観た。

ナチスのアウシュビッツ強制収容所と壁を隔てたところで幸せな生活を送る収容所トップの家族を描いた話題作だ。収容所内は一切見せない。

ユダヤ人虐殺の銃声や、死体を焼いて出るトンネルの煙等がBGにずっと流れている。

『生きる』(1952、監督:黒澤明)の、ガンを宣告された余命わずかな主人公・志村喬と若い女が神妙に会話している後ろで誰かの誕生日パーティーが行われており、誕生日ソングが合唱される演出を、全編通してやっている感じ。

冒頭の「黒味」にずっと劇版が流れる演出は、キューブリックの『2001年宇宙の旅』かと思った。この「黒味」はガス室。
劇中版にスクリーン全体が「赤味」になる演出も初めて観たし、字幕を「赤字」にする演出も初めて。
この「赤味」は焼却炉。長時間聴くと人体に害を及ぼしそうな周波数の音楽に耳を塞ぎたくなる。
そして、「黒味」でサンドイッチして終劇。

映画は何を見せて、何を見せないか。
Aを描くのに、あえてBだけを見せる手法。

よく素人は、人物二人の会話をカットバックする際に、セリフを発する人物だけを常にONで映しがち(まぁ、基本はそれでいいのだけど)。
敢えて、セリフを聴いている人物のリアクションの表情を映す方が効果的なこともある。
『関心領域』は、この後者を終始やっているようなチャレンジングな映画だ。

「画」も全ショットFIXでキューブリックさながら完璧なシンメトリーの構図が多く、どこのコマを切り取っても「絵画」になる美しさが逆に「皮肉」に感じられた。

キャメラと被写体との距離感も抜群。

「音響」にとても拘ってつくられているので、劇場で観ることをお勧めする。

劇場で観るのと家で鑑賞するので一番大きな差異は「音響」だと思う。

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