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『AI:ソムニウムファイル』クリア後感想(ネタバレあり)

AI:ソムニウムファイルとは

打越鋼太郎×コザキユースケ による新作本格アドベンチャーゲーム登場!プレイヤーは主人公の伊達となり連続殺人事件の犯人を追っていく。現実の世界で調査、聞き込みや取り調べを行う『捜査パート』と夢の世界で意識の奥底に隠された真実を見つけ出す『ソムニウムパート』を行き来しながら犯人を見つけ出す本格アドベンチャー。

PlayStation Store 商品紹介ページ より

2019年9月、Xbox版を皮切りに発売されたADVゲームソフト。2022年現在はPS4/Nintendo Switchにまで対応ハードが広がっている。なんと、8月17日迄の間PlayStation Store/Nintendo Storeにて80%OFF(税込880円)セール中

あらすじは引用にて。

ナノマシンや自我を持つAIが開発され始めた近未来。 廃園となった遊園地「ブルームパーク」のメリーゴーランドで、左目をくり抜かれた女性の死体が発見された。現場に向かった警察の特殊捜査官・伊達は、それが親友の元妻であることに気付く。さらに、被害者の娘であり、伊達と同居している少女・みずきが、血の付いたアイスピックを握りしめて現場に隠れているところを発見する。

Wikipedia より

プレイ後の率直な感想は、「定価で買っても満足していた」。また、フルボイスである本作、主人公・伊達 鍵(だて かなめ)役の声優・新垣樽助さんの演技がすばらしい。
普通にプレイしていても好感が湧く残念イケメン・時々ダンディなお声だが、クリア後にある背景を加味して考えるとよりいっそう「すっげえ……」と感じられる作りになっている。二重にすごい。

刀剣乱舞好きのそこのフォロワー!買ってくれ、あなたは樽助さんに2度惚れ直すことになる。エスケーのオタク!買ってくれ。三宅健太さんがゲイバーのママやってるぞ。しかもめちゃくちゃ喋る。

推理モノADVってなんか難しそう……と思って躊躇している方、この感想を読んでくれ。随所にネタバレを含むが、それを見たことによって初見プレイ時の感動が損なわれることはおそらくない。文を読むのが面倒な人は、ぜひこちらの配信者さん(しばりゲーマーugさん)のレビュー動画(ほぼネタバレなし)を見てください。
わたしはこの配信を拝見して即買いました。ありがとうugさん。

では、全編クリア後の熱々ほやほや感想
いくぞ。

以下、解決編の核心部分以外は躊躇なくネタバレを挟みます。ご注意ください。

ルート分岐について

本作には、大きく分けると「右ルート」「左ルート」。小分けにすると「解決編」「全滅編」「応太編」「みずき編」「イリス編」というふうに、複数のルート分岐がある。大団円の「解決編」に至るまでには、それ以外のすべてのルートを踏破しなければならない。小ネタまで遊びつくして、総プレイ時間30時間~40時間程度のボリュームだ。

ルート分岐図はこんな感じ。

クリア後の図面/Yボタンでいつでも飛べる

右ルート

ざっくり言うと、ヒロインの「イリス」が中心となるルート。彼女とその母についての描写は濃いが、刑事もの推理ADVとして致命的(?)な要素がある。なんたって、ヒロインのイリスちゃんがものすごく電波

突然の宇宙スケール

あれっ、このゲームって推理ものだっけ?オカルトものだっけ……?

私は初見時「右ルート」の「イリス編」に進んだため、だいぶ混乱したし、インパクトがすごすぎてついていけなかった。だってイリスちゃん、まるっきりオカルト陰謀論信者なんだもの……(ム〇とか読んでたしな……)。それを「信じる」選択をする警視庁特殊捜査官、主人公。それでいいのか。クリア後にさまざまな感想を検索してみたが、最初から「右ルート」に進んだ方は、ほとんど皆さん困惑されていた。わかる。

また、このゲームの特徴として、「右」「左」、さらに「誰編に進むか」といった分岐がソムニウムパートでなされるため、ものすごく分かりづらいんです。じゃあ「左」からプレイしよう……と思っていけるものでもない。

それでもめげずに最後までクリアしたからこそ、言う。どんなに電波でもオカルトでも、完走してくれ。やらなきゃ人生損する。

左ルート

「右ルート」とは対照的に、イリス以外の登場人物の掘り下げが丁寧になされるルート。特に「みずき編」の完成度がすばらしい(後述)ので、ハンカチを用意してからプレイしてほしい。

個人的に、「全滅編」よりも心に傷を負ったのが「応太編」だ。

とても24歳には見えぬ

彼はネットアイドル・イリスのおたくで親のすねかじりをしている24歳だが、その最後のソムニウムパートについて。

ある意味、どんなグロ描写より、どんな殺人描写よりも、人によっては残酷かもしれない。特に、母親に負い目のある人。お母さんが大好きな人。覚悟をしてから見たほうがいい。

肉体的に残酷な描写はいっさいありません。
ですが、わたしの心はしばらく立ち直れませんでした。

CERO:Zってどうなの?

本作は、肉体欠損・残酷な描写があることから、CERO:Z(=18歳以上のみ対象)に分類されています。

具体的にどうなのか?という程度の話についてですが、はっきりとした人体切断(厳密に言うと切断ではない)の「断面図」が描写されるのは終盤の一度きりですね。それ以外の描写については、グロ描写の苦手な私でも「慣れ」で耐えられる程度でした。

主観ですが、視覚的ダメージより精神的ダメージのほうを懸念したほうがよい気がします。

「殺人犯(もしくは殺人事件に関わっている人間)の夢に潜って捜査をする」という「ソムニウムパート」の性質上、「犯人が被害者を殺す瞬間」が何度も何度も描写されます。単色で塗りつぶされた人型を用いたり、血しぶきが上がらなかったりという「殺人描写の緩和」はある程度されていますが、繰り返される再現シーンのほうが私は精神的にキました。

早送り機能がついているので、「まずい」と思った部分は迷わずその機能を利用しましょう。ボタンひとつ、長押しでスキップ可能です。

醍醐味!『ソムニウムパート』

現実世界での「捜査パート」と対になるのが、事件について重要なカギを握る人物の夢に潜入し、ヒントを探る「ソムニウムパート」。

さて、舞台は遊園地です。

遊園地です(2回目)

遊園……地……?
こんな感じで、夢の世界なのでなんでもあり。さまざまなものが歪んでいたり、おかしかったり、思ってもみない反応をします。言葉で説明しようのない、推理というよりは、頭脳戦パズルゲームといった様相です。

この世界を体当たりで自由自在に動き回ってくれる、頼もしい相棒!

義眼AI「Eye-ball」の「アイボゥ」

それがこちら、アイボゥちゃん。アイボゥであり、伊達の相棒です。
詳しいゲーム性はプレイで楽しんでいただくとして、なんといってもこのパート、アイボゥがほんっとにかわいらしい……!!だいたいの無茶ぶりに、駆け出しお笑い芸人ばりの度胸で取り組んでくれる。

「アイボゥ、アヤメの匂い嗅いで!!」

このあと鼻の穴に召されたアヤメ

何も、鼻でバキュームしろとは言ってない。

「アイボゥちゃん、熱々の寸胴鍋の中身イッキ飲みして!!」

象の味がしたそうです

…………やりやがった。なんかゴメン。

ひとつのアイテムにつき選択肢は複数あり、もちろん正解・不正解があります。ただ、どの選択肢を選んでもアイボゥが神対応・神リアクションをしてくれるため、ゲームオーバー覚悟ですべての選択肢を試したくなる。伊達とアイボゥの掛け合いがまた、夫婦漫才のようで微笑ましいんだよなあ。

ほんっっっとうにこのアイボゥね、健気でかわいい相棒なんですよ。
彼女に愛着がわけばわくほど、――解決編・終盤の展開が熱くなる。

主人公の伊達鍵がすごい

伊達 鍵(だて かなめ)30歳

黙っていれば物憂げな美青年だが

主人公。30歳の警視庁特殊捜査班ABISの刑事。左目を失った6年前以前の記憶をなくしている。対象者の夢にPsync(シンク/潜入)し、捜査の突破口となる情報を掴むというPsyncer(シンカー)の才がある。左目には高度なAIを搭載した義眼・アイボゥが埋め込まれており、彼女との絡みが本作をバディものたらしめている。友人の子、沖浦みずき(12歳)と同居中。

ご覧のとおり、金髪オッドアイのイケメンだ。30歳という年齢も、若すぎず渋すぎず絶妙なツボをついてくる。見た目のクールさに反して、ノリのよいところやズボラなところ、責任感の強いところ。ストーリーの展開に沿って、さまざまな面が見えてくるのもよい。

なかでもイチオシは、この二点。

① エロ本大好き残念イケメン

伊達には、エロ本に関することになると反応速度が通常時の3.6倍(アイボゥ調べ)になるというチート能力が備わっている。ネタではなく、その能力がアクションシーンで存分に活かされるのだ。見てもらったほうが早い。

エロ本を発見した瞬間の伊達くんのご尊顔

まあ大変

CV新垣樽助さん、渾身の雄たけび

フルボイスである

残念。だがそこがいい。警視庁の特殊捜査官で顔面ハイスペック・記憶喪失の憂いあるイケメンなんて、ただのイケメンじゃないか。伊達はそうじゃない。人間味がある。だからいいんだ。だから彼を好きになるんだよ!!
ディレクターの嗜好のせいか、本作は随所で小学生レベルの下ネタが挟まれる。人によってはしつこく感じるかもしれない。だが、解決編の最終局面に至る頃にはすっかり毒されていること間違いなし。「伊達!エロ本はまだか!今こそエロ本だろ!」こんなふうに涙する。エロ本が、下着が、どうにか彼を救ってくれやしないかと咽び泣く。私はそうだった。

記憶喪失の彼が、「伊達」として生きてきた6年間。その間に培われた、おっさんのようで少年のような無邪気な助平心。「しょうがねえやつだ」と、プレイヤーは思う。しかし、現在の伊達に対してこうした親近感や人間味を感じる過程があるからこそ、解決編のラストでぐっとくるんだ。信じて。

② 意外なほどの激情家

パッと見のビジュアルが「憂いあるクールなイケメン」っぽい彼だが、実はめちゃくちゃ熱い心を持っている。捜査の節々でも垣間見えるが、その発露がとんでもなくプレイヤーの心を刺すのは、個人的に「イリス編」「みずき編」の2ルートだと思う。

・イリス編(右ルートの一部)

一応、本作のヒロインという位置づけの女子高生「イリス」

そ、そっか……

Youtuberで「踊ってみた」系の配信者アイドルとして活動する彼女だが、実は先述の通りものすごい電波系女子。(理由は解決編で明かされる)本編では、彼女の言い分である「陰謀論」を「信じる」か「信じない」かによって、ルートが大きく分岐する。

「信じる」選択をしたイリス編では、彼女がなぜ電波系女子と化したかの理由がわからず、あまつさえ伊達までもその陰謀論を信じる方向性で物語が進行する。よって、彼女の心は救われるが、病は救われない。よかれと思って進んだ道が、伊達の決死の選択が、結果的には彼女の死を招く。

……こんな悲しいことってある?

それでも伊達は、気づかない。この選択が最善であると信じて、自身の大きな思い違いに気づかないまま、衰弱してゆくイリスを助けたい一心で、ルートの最後で決死のPsyncをする。本当にまっすぐな男なんだ。わが身を顧みない行動が、必ずイリスを救うことになると信じているんだ。最後の最後まで、必死で、悲痛な叫びで、イリスに語りかけるんだ。

「イリスを信じる」という選択そのものが誤りなのだから、彼女が助かるわけない。

彼女が絶命した瞬間の伊達の慟哭に、私は心が裂けるかと思った。
この一連のムービーは、CV新垣樽助さんの演技力が悲しいほど光っていた。ぜひ本編で確かめてほしい。

・みずき編(左ルートの一部)

伊達の男友達である「沖浦」の子、小学6年生のみずき

身体能力がすさまじい

家庭環境の劣悪さから、伊達のもとに引き取られて4年が経つ。

結論から言うと、彼女の両親は物語冒頭で死ぬ。母親については、全ルートでもれなく、その凄惨な死体を真夜中の遊園地で第一発見者としてみずきが目撃することになる。虐待一歩手前の家庭環境だったとはいえ、たったひとりの母。そして、たったひとりの父だ。
母の死を目撃した際、失声症を患うほどのショックをみずきは受ける。

通称「右ルート」がイリスとの交流に重点をおいているのに対し、こちらの「左ルート」では、伊達とみずきの関係性がよく描かれている。4年も一緒に暮らしているのに、いまいち微妙な距離感のふたり。みずきはふてぶてしく口が達者な歳の割に大人びた少女で、伊達も年頃の女の子の扱いには不器用な男である。みずき曰く「適切な距離感を保ってやってきた」関係において、序盤、それほど強い絆は見受けられない。

しかし。事件を追うにつれ、両親を殺されたみずきにとって、唯一のよりどころである「大人」が「伊達」なんだということが、伊達目線から見て、痛いほどに伝わってくる。強がってばかりのみずきだが、……そりゃそうだよなあ。というわけで、ぐっとくる。それを自覚てからの伊達の行動もまた、いい。ひとりの「大人」としてみずきを守ろうと、不器用なりに一生懸命になる。必死になる。走る。叫ぶ。ここでもCV新垣樽助さんがすごい
並外れた身体能力をもつみずきと共に敵陣へカチコミに行くシーンは、こっちまで胸が熱くなった。ここまでは、傷ついた少女の「保護者」であることを自覚し、「大人」として彼女を守り抜く「伊達の目線」だ。

ルートの終盤、先の戦闘で負傷し昏睡状態に陥っている伊達にかわって、プレイヤーの視点はみずきになる。例外的にみずきが伊達にの夢にPsyncするという流れになるのだが、ここでの演出がまた、にくい……!

最後のPsync

これまで「伊達の目線」から語られてきた、ふたりの関係性。それが今度は、「みずきの目線」から語られる最後のソムニウムパート。伊達と出会った日からこれまでの思い出をなぞってゆくうちに、ふたりの日常がみずきにとって何気ないけどかけがえのないものであったこと、思春期・反抗期の裏に隠されていたみずきの本心(=伊達への感謝)などが、ムービーつきでゆっくりゆっくり明らかになってゆく。

……この演出はずるい。そりゃ泣いたよ。

ソムニウムパート、ラスト。
両親と天秤にかけてもこちらに傾くほど、みずきにとっての伊達が大きな存在になっていたことがよくわかる演出でした。表に見えるものがすべてではない。親子の絆がすべてではない。

血のつながりを超えたところには、目に見えない絆がたしかにあったよ。
事件が根本的に解決したわけではないけれど、素晴らしいEDでした。

大団円の『解決編』に至るまで

道のりは、すんごく長いです!
一応はヒロインであるイリスの電波少女化を乗り越え、応太編での母親にまつわる心抉られるソムニウムパートに耐え、全滅編での絶望と無力感を乗り越え、やっとたどり着いた「解決編」。

誰とどんな結末を歩んでも、アイボゥ。
すべてのルートに、きみがいた。
だから伊達は、プレイヤーは、頑張れた。

結末は、ご自身の目で見てほしい。
ただ、これだけは言わせてください。

すべてのルートでばらばらに散らばっていた伏線が、一気に!ひとつのこらず!あますことなく!怒涛の勢いで回収され、メインキャラクター勢ぞろいで挑む最終決戦でのカタルシス。

『殺したのは、アイがほしかったから』という作品キャッチコピーの意味(複数ある)まで全回収。

このために。この瞬間のために、すべての痛みはあったんだ!!
そう思えるほど、鮮やかで見事な終幕でした。
推理モノでありがちな、「え、あの伏線はどうなったの?」という拾い忘れがいっさいない。そう、いっさいない。……だからこそ、切ない。

そこからの、登場人物のその後をきちんと描き切ってくれるていねいなエピローグ。「なんとなくイイ感じ」に余韻を残して終わるのではなく、「登場人物それぞれの物語」をきっちり閉じてあげようという制作の姿勢に、キャラクター愛を感じました。

スタッフロール付きのエンディングは、ぶっ飛んでます。涙鼻水も引っ込むくらい飛んでるのに、「走りきってよかったあー!!」って叫びたくなるくらいに爽快で、大サビ直前でやっぱり泣けちゃう名(迷)エンドロール。

おかえり

文句のつけようがない、多幸感MAX、最高のハッピーエンドでした。

みんな。AI:ソムニウムファイル、やろう!

PS:熱海いいとこ一度はおいで

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