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My AOTY2023 25位から1位編

年間ベストを作る

三島由紀夫は芸術の受け取り方について以下のように述べています。

何か芸術の享受に、サディスティックなものと、マゾヒスティックなものがあるとすると、私は明瞭に前者であるのに、音楽愛好家はマゾヒストなのではなかろうか。音楽をきくたのしみは、包まれ、抱擁され、刺されることの純粋なたのしみではなかろうか。命令してくる情感にひたすら受動的であることの歓びではなかろうか。

三島由紀夫 小説家の休暇

彼は音楽がpassiveに受け取られることを理由に音楽という芸術、音楽愛好家に批判的な文章を書いているわけですが、この指摘は私に限って言えば正しいと思います。私が音楽を聞く時間の多くは課題や勉強など作業中で、私は音楽に対して受動的な態度を取り続けたと感じたます。
というわけで、私を包み、刺し、耐えず私達へ湧き上がる情感を命令してくる2023年ベストアルバム、25位から、始めていきます。(50位から26位編も書くのでそちらも読んでください。)
ちなみに現時点で2023年の新作のうち聞いたのは300枚ちょっとでした。聞いた作品をExcelでまとめるのが非常にだるかった。50枚選ぶのは多い気もするが選んでしまったもんがしょうがない。(各アルバムごとにリンク貼ってますが、最後にまとめプレイリストあるのでそこから飛んだ方が便利かと思います)

25位から16位

25位 The Rolling Stones「Hackney Diamonds」

Rolling Stonesの18年ぶりのオリジナルアルバム。
チャーリー・ワッツの死が彼らをアルバム制作に向かわせたのでしょうか。ポール・マッカートニー、エルトンジョン、レディ・ガガ、スティービーワンダー、ビル・ワイマンなど豪華な客演が楽しいアルバムでした。このアルバムから感じるのは彼らなりの終活です。特に最後から2曲目レディ・ガガがボーカルに参加したSweet Sounds Of HeavenのLet the old still believe that they're youngという歌詞が良かったです。

24位 乙女絵画「川」

札幌の5人組。メンバーがこの音楽を仄暗いと表現しているのが的を射ていると思います。薄暗くて、でも真っ暗なわけではなくて、寒くて、川がちょろちょろ流れていて、その流れは止まらないって感じのアルバムだと思います。音はキングクルール、betcover!!っぽいと思いました。

23位 Zach Bryan「Zach Bryan」

アメリカカントリーシンガーソングライター、ザックブライアンのセルフタイトルアルバム。カントリーと言いながら、かなりロック的な音。カントリーがロック化しているという現象を知ったのが2023年で、おもしろい状況だなと思います。

22位 guca owl「ROBIN HOOD STREET」

大阪のラッパー、guca owlの新作。
私が育った環境は彼とは大きく異なると思いますが、それでも彼のリリックは共感する箇所が多くありました。「ただ反逆とは違う 俺はなるべくユニークにやる」「これより当バスの運転手はより難しい問題へと進んでいきます 体調の優れない方はここでお降りください」とクレバーな感じが好きでした。今年の日本のラップの新作で聞いたのは他にJJJとOMSBくらいなんで来年はもっと聞きたいですね。

21位 boygenius「the record」

名盤にはいろんなタイプが在ると思いますが、このアルバムはただめっちゃ良い曲が入っているというNevermindタイプです。2023年の小Nevermind
2023年はPhoebe Bridgersのライブを見ることができたんですが、セットリスト見返すと、アンコールは発売前のこのアルバムからEmily, I'm Sorryやってたらしいです。次はboygeniusでの来日が楽しみ。

20位 McKinley Dixon「Beloved! Paradaise! jazz!?」

去年はケンドリック・ラマーが新作を出したからか、今年のHip-hopはそれよりおとなしめの印象でしたが、この作品は聞いて一発で音とラップがカッコいいって感じる最高のJazz Rapアルバム。

19位 Lana Del Rey 「Did You Know That There's a Tunnel Under Ocean Blvd」

ラナの1時間17分に及ぶ超大作。私にとっても初めてのリアルタイムラナで歌声の美しさ、メッセージ性に感動してよく聴いていた。
これに続くシングル、Say Yes To Heavenは2023年ベストトラックの一つ。

18位 shame「Food for Worms」

サウスロンドンのバンド、shameの3枚目。
今作はバンドの友情の強固さを感じさせる演奏で超ダイナミック。

17位 Slow Pulp「Yard」

アメリカシカゴのインディロックバンド、Slow Pulpの2枚目。
でっかい土地で鳴らされるインディロックだと思いました。

16位 UJU「The Sun Is In Our Eyes」

フィリピンのシューゲイズです。これまでに聞いたことのないタイプでアジア圏のシューゲイズ、ドリームポップの奥深さを感じます。
wikiにバンド名(UJU)は韓国語でUniverseを意味すると書いてあったんですけど、私はここで閃きました。BTSのDNAの歌詞で日本語版の宇宙が生まれたその日からって歌詞はオリジナルではうじゅがせんぎんなんたらかんたらって聞こえるんですよ。韓国語で宇宙でUJU(うじゅ)なんだ。点と点が繋がりました。楽しい。

15位から11位

15位  NewJeans「NewJeans 2nd EP 'Get up'」

一年中Newjeansのことばっかり考えてたので選出。

14位 Peter Gabriel「i/o」

ピーガブの21年ぶりの最新作。前のアルバムのとき私はまだ胎内なので時の流れを感じます。ピーガブは10年代にフォロワーがたくさん出てきてるという状況があって、満を持してピーター・ガブリエルサウンドを出してくれて非常に嬉しかった。満月の旅にシングルをリリースしたり、ミックス違いで2パターン出したりと、アイデアマンなところ、今世界で起きている問題を取り扱って社会にコミットメントしているところがかっこいいと思った。

13位 James Blake「Playing Robots Into Heaven」

私はJames Blakeを何故かシカトし続けてきた。2023年に起きた転機は、Metro Boominのスパイダーマンのサントラと、Travis Scottの新作への客演でした。
Playing Robots Into Heavenではボーカルの凄さが際立ってたと思う。

12位 SADFRANK「gel」

Not Wonkのボーカルのソロプロジェクト。
去年の岡田拓郎のBetsu No Jikanがジャズを再構築を試みたものなら、こっちは歌モノの再構築を試みたものに感じます。石若駿のドラムを始めとしてどうやったらできるのか分からないバンドサウンドですが、楽しく歌モノとして聴ける作品です。

11位 The Beatles 「The Beatles 1962-1966 & 1967-1970(2023 Edition)」

ビートルズの赤盤、青盤セットで11位です。ビートルズの活動期間は録音技術の急速な発展期にあり、ビートルズはポピュラー音楽の転換点になりました。そのビートルズは2023年においてもデミックスという新たなAI技術を用いた音楽家の先駆者になった訳で、新しいミックスはそれぞれの音、特にリンゴのドラムが際立って楽しめる新しい定番となったと感じます。
ビートルズの4人はそれぞれがLoveとPeaceを本気で考えていたと思います。Now And Thenが発する愛は涙なしに受容することができません。
ポール81歳、リンゴ83歳、まだまだ長生きして欲しいです。

TOP10

10位 Wednesday 「Rat Saw God」

名門レーベルDead Oceansからリリース。独特な世界観に惹かれて一年中聞いていました。
一年を振り返って感じたことですが、今年のDead Oceansの作品は明らかな傑作ラッシュだったと思います。Mitski、Slowdive、shame、Fenne Lilyとそれぞれが自由に作品作ってそうで、レーベルで音楽を掘る楽しさに気づいた一年でした。

9位 Subsonic Eye 「All Around You」

シンガポールのドリームポップバンド。
2023年の夏ぐらいに、Parannoul周辺以外のアジアの作品を聞こうと思い立ちまして、最初に聞いたのが2022年のSobsのAir Guitarでした。Spotifyの関連アーティストでSubsonic Eyeを知り、ちょうど新作もでたのでよく聞いてました。
溌剌としたドリームポップです。

8位 the neverminds「nevermind, thesummer.」

カナダ、トロントのシューゲイズバンドのデビューEP。ビジュアルや質感がリリイ・シュシュのすべてっぽいなと思っていたんですが、本当に影響を受けているそうです。ParannoulのTo See the Next Part of The Dreamの感覚と近い、虚構の青春を感じる作品。
そしてこれはParannoulの新作After the Magicでは極力消されているものだと思いました。

7位 Lil Yachty「Let's Start Here」

2023年はロック畑でない人がロック的な手法を取り入れた作品が光っていたと思う。その中でも、狂気をオマージュしたLet’s Start Hereは2023年の大きなトピック。最早ヒップホップアルバムじゃなくてプログレ。
ラップより、演奏がかっこよくてよく聴いてた。
ジャケットのAIが作ったみたいな下手くそな人間の笑顔も2023年的かなと思った。

6位 缺省「共同的土地」

シューゲイズバンドだった缺省がインディフォークをやってる作品。このアルバムは曲名が、Meadow(草原)、松林、溪水(渓水)、平原などで、壮大な自然を感じさせると感じた。
Slow Pulpからは北アメリカ大陸を、缺省からはユーラシア大陸を感じた。

BEST5

5位 betcover!! 「馬」

今年一番ライブを見たアーティストだった。betcover!!はライブで殆ど喋らない。岩方禄郎のドラムが最後のライブを見に行ってたけど、全然なんも言わなかった。betcover!!は任侠スーツで演るし、殆どの場合でメンバー8割が眼鏡、サングラスを掛けてる。CDはライブ会場でのみ買うことができ、馬や卵、時間のジャケットは全て正方形ではなく横に長い長方形だと気付く。アルバム含めたbetcover!!の独自の世界にもっと浸りたいと思った。

2022年リリースの卵も無視することはできない。卵と馬は連作なので。卵は参考曲プレイリストを本人が公開していて、音楽が完全にオリジナルであることはありえないと感じた。

卵には壁という曲がある。卵、壁、egg, wall,,
betcover!!が意識してるかどうかは置いといて、今思い浮かぶのは村上春樹のエルサレム賞授賞式のスピーチ。所謂、壁と卵という奴。

もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます。

そう、どれほど壁が正しく、卵が間違っていたとしても、それでもなお私は卵の側に立ちます。

村上春樹のエルサレム賞受賞スピーチ
引用元 村上春樹新聞 村上春樹のエルサレム賞受賞スピーチ「壁と卵 – Of Walls and Eggs」https://murakami-haruki-times.com/jerusalemprize/

正しいかどうかの次元を超えられるのは物語や音楽だと思った。これは羊文学に感じたことと近いかと思う。羊文学のFOOLでは塩塚モエカは常識、正義では心は奪えないとして、正しさを超えて、幸せを選択して、壊れたとしても歌い続けることを決意して終わる。ただ「生きていること」に重点を置いていると感じた。

4位 Sufjan Stevens 「Javelin」

SSW路線の最新作。Spotifyまとめではトップアーティストランキングで5位でした。聴くようになったきっかけは君の名前で僕を呼んでを観たからですね。とにかくよく聴いてました。

3位 Jeon Jin Hee 「아무도모르게Without Anyone Knowing」

韓国SSWの作品。優しく、悲しそうに語りかけるようなウィスパーボイスとピアノの伴奏の音に惹かれた。タイトルを見る限り、4位のJavelinと同様、誰かとの別れがテーマなのかなと思う。

2位 cero  「e o」

2023年の生活の音になったアルバム。Ceroは今まではサマソ‐のバンドだったんですが、新譜は一年中聴いてたし、レコードも手に入れました。
パンデミックを経た宇宙、日本、東京をアルバムにまとめたという点で重要作だと思う。

1位 カネコアヤノ 「タオルケットは穏やかな」

カネコアヤノがシューゲイズサウンドを取り入れた6th。
カネコアヤノの歌詞の、わたしと、あなたと、わたしたちって感じが好きだったんですが、今作では、とにかく「あなた」との関係に悩んだ上で、諦観と曖昧な愛という結論を出したと思います。曖昧性をテーマにした作品は多くありますが、それを2023年に打ち出すことの正直さを感じて年間ベストにしました。

祝祭以降の作品で唯一自分自身のみが歌詞に登場する「こんな日に限って」の歌詞が本当にすごいと思った。
傷が先にあって、それが悲しみなのではなく、悲しみを消すための傷が絶えないという歌詞や、金色に光る完璧な海と青白い部屋を流れる砂漠という色の表現、花の水に憧れという歌詞から聞こえる、蝶々のような攻撃手段を持たない生物の非暴力性、冒頭で窓際に飾ったプレゼントの猫(この送り主が悲しみの元なのか)という言葉から窓に視線が向き、朝が遠い夜という詞から、暗い状態が示され、その後青白く光が差し込むという同じ視点での時間の流れ(カネコアヤノは一貫して光の表現を好んでそう)、全てが完璧な歌詞だと思う。

プレイリスト


終わりに

こうやって良かった作品を振り返るとロックをやってるベテランの素晴らしさが光る一年だったと思います。一方で多くの才能を失ったのが2023年だとも思います。
私が一年間趣味を楽しみながら過ごせたのは、私が健やかであったからだと思います。世界の人々が健やかに過ごせるように自分のできることを頑張りたいと思います。
良い締め方が思いつかないので坂本慎太郎のタワレコポスターの名言で終わろうと思います。損得を超えて音楽という芸術を楽しむ人も、そうでない人にも心嬉しい2023年の残りの時がありますように。

音楽は役に立たない。
役に立たないから素晴らしい。
役に立たないものが存在できない世界は恐ろしい。

坂本慎太郎 タワーレコードポスターより


50位編から26位編に続く、、、





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