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syrup

 理解され難い、狂気的な愛情を注いだ結果は、絶望的に最悪なハッピーエンド。

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 どんなカップルの恋物語も、終わりが訪れることだけ決まっていて、内容も終わり方も今後のお楽しみ。
 心の底からに「お楽しみ」にできればいいけれど、私は悩みを抱えていた。
 一つは、どんな恋愛でも、今ある幸せに終わりが来るかもしれないという、「別れる可能性」がずっと付いて回ること。
 これまでお付き合いした人は皆、「ずっと」とか「絶対」と言って約束したのに離れていった。さすがに経験しすぎて、頭のどこかで言葉を疑うようになった。どれだけ今が幸せでも、それが続くことは考えられなかった。
 二つ目は、大切な思い出たちの一部を忘れてしまうこと。
 思い出せないもどかしさすら感じられないほど、思い出を忘れてしまっていた。思い出の欠片が無いことに、絶望に近い悲しさがあった。
 この二つは、貴方との時間を積み重ねるにつれて大きくなってきていた。

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 貴方と家で過ごす日は、いつも二人でレモネードシロップを作る。二人が好きな音楽をかけながら。
 苦味も甘味も併せ持つレモネード。グラスの中で混ざり合う二つの味は、まるで、私が持つ悲しみと、貴方のまっすぐな愛情の対比だ。
 レモネードは、苦味と甘味が共存している。苦味を甘味で混乱させている。
 一方私は、自分の悲しみを貴方からの愛情で紛らわす。結局は、愛を受ける満足感で悩みを混乱させているだけ。悲しみが消えることはない。
 不安と悲しみが強い日にレモネードを飲むと、苦味が強かった。大好きなダンスナンバーが流れてきても、苦味が和らぐことはない。そんな日は、貴方に抱いてほしいとせがんだ。
 私が愛された余韻に浸っていると、いつも水を飲ませてくれる。優しい貴方が、これまでどれだけの女を惚れさせてきたのか知らないけれど、もう他の人に優しさを見せないでほしい。不倫の心配はしていない。ただ、私だけに優しさを向けているこの瞬間が永遠であってほしいと願いながら、貴方の首筋にキスマークをつけた。

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 私が「いつか終わりが来るかもしれない」という事実を悲しむ一方で、貴方は「二人で死ぬまで一緒に暮らしたい」という夢を追いかけている。このまま、悲しみと夢の共存が続けば、二人は平和的にずっと一緒に暮らせるだろう。
 ただ、感情がある以上、「ずっと一緒」は可能性の一つにすぎない。だから、貴方が私のものである今、貴方が他の人のところに行けないようにしてしまえば、私たちの幸せが誰かに奪われることはない。二人で幸せなまま、人生を終わらせることができる。
 私と同じような考えがある人は絶対にいるのに、ほとんどの人が実行しない。それは、実行することはわがままで、贅沢だから。ただ、私には贅沢を我慢する選択肢はなかった。
 遂に贅沢を手にできるという日は、気持ちが昂っていた。今ある生活を壊してでも得たかった永遠を、遂に得られる高揚感。そして、秘めてきた私から貴方への愛情が、ようやく形になる嬉しさ。その日のレモネードは甘かった。
 互いの体温を混ぜたあと。いつもはベッドで待っているけれど、今日はキッチンへ向かった貴方を追った。貴方が脱ぎ捨てたYシャツを着て。
 くだらない会話の途中、静かに、乾かしてあったナイフを手に取った。それは、昼間、レモンを切ったナイフだった。そのナイフを逆手に握り、貴方の背中に強く抱きついた。予定通り、袖には血が着いた。
 貴方をゆっくりと床に寝かせて、顔を覗き込みながら、
「愛してる、おやすみ。」
と、努めて、可愛く微笑みながら言った。
「さようなら。」
 用意していなかった言葉を不意に吐いた後、堰を切ったように涙が溢れてきた。

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 ひとしきり泣いた後、全部嘘だったらいいのになんて思ってしまったことを、貴方は許してくれますか。
 本当は手を汚したくなかったけど、私が欲しいものを手にするにはこうするしかなかったの。貴方ならわかってくれるよね。

 「さようなら。」なんて言ったけど、今から貴方に会いに行ってもいいかな。




https://spotify.link/dAUwrSRJ4Jb

原曲 : NOMELON NOLEMON「syrup」
参考 : アルバム「POP」 LINER NOTES
   (ツミキ、みきまりあ)


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