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人生初のボイスドラマ収録現場で、門脇舞以さんの演技を耳にして。

初めて一緒にお仕事をするクリエイターさんやエクスプレッサーさんの創作物、表現物を見たとき、
ふとその方の哲学が垣間見える瞬間というのが、僕は大変大好きです。
そして、大切にしたいと思ってます。

初めましての方は初めまして、そうでない方も久しぶりのnote投稿なので初めまして、旅する小説家で随筆家の新人脚本家、今田ずんばあらずです。

先日、つまり2020年8月21日、僕は人生で初めて収録現場に立ち会うことができました。
その作品の名は、『鬼っ子ハンターついなちゃん』
現代に生きる鬼退治師の女の子、ついなちゃん(14歳)が繰り広げる、愉快痛快妖怪退治ボイスドラマです……!

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ついなちゃんのイメージ(絵:今田ずんばあらず)

このシリーズは、大辺璃紗季師……
つまり同人の師であり、親友でもある大辺璃さんが毎月連載しているものなんですが、
機会があって、とある回の脚本(と演出も少々)を手がけさせていただきました。

今回のnoteでは、主についなちゃん役を演じる
門脇舞以さんの演技を間近(※)で聴いて抱いたことを徒然綴ってまいります。
※今回リモート参加だったので、近くて遠い、遠くて近い状況だったわけですが、むしろこの状況だったからこそ、あれこれ思いを巡らせることができたんだと思います。

収録前夜‐キッカケと脚本構想

このボイスドラマの脚本を書こうと思った理由を語ると話が長くなるので、簡単に申し上げますと、
一つ目は、ついなちゃんのお話を書きたいと思っていたからで、
二つ目は、ボイスドラマ制作・収録にあたり、裏方の立振る舞いを学びたかったから、
の二点が、主な理由です。

ついなちゃん(あと大辺璃師)とはなんやかんや10年くらいの付き合いで、
最近やっとついなちゃんと妄想上で遊べる程度には近しくなりました。#キモい
この妄想をどこかにぶつける場があるかな……と思ったら、ありました。
『鬼っ子ハンターついなちゃん』です……!
(もちろん、真面目な妄想を真面目に書かせていただきました。手抜きは一切ナシです)

で、現在『海の見える図書室』という青春小説を書いていて、
その番外篇、あるいは後日譚としてボイスドラマをつくりたいと考えておりました。
(今までの同人活動で培ってきたスキルとツテを駆使すればなんかいけそうと思ったのです)
とはいえ、ボイスドラマ制作はまったくのド素人なので、人様に迷惑をかける前に学びの場を求めておりました。
で、ちょうどいい修行の場が、『鬼っ子ハンターついなちゃん』だったわけです……!
(当然全力で修行させていただきました。ありがとうございます)

収録当日‐門脇さんの第一印象

先述の通り、ついなちゃん役は門脇舞以さんです。
門脇さんといえば『Fate』シリーズのイリヤです。やっちゃえバーサーカーです。
あと『ストライクウィッチーズ』のサーニャや、
最近だと『へんたつ』の猫なんかが挙げられますでしょうか。
聴くと脳みそとろける声で大変大好きな声優さんです。

脚本を依頼されたとき、構想は諸々あったのですが、
事前に技巧派の声優さんだという話を伺っておりましたので、
とにかくいろんな役を演じていただきたいなと思いました。
どんな役をされたのか……公開を楽しみにしていただければと思います!

ちなみに、今回の収録方法ですが、「個別収録」という方式での収録でした。
収録と言われてイメージするのは、大きなスタジオに声優さんが集って、
何本かのマイクを共有しつつ、シーンごとに声を吹き込んでいく……。
というイメージがあるわけですが、「個別収録」では、
各声優さんごとにスタジオに入ってもらって、収録をしていただくような流れになっております。
声優さんごとの「熱量」に差が出やすいことがネックですが、
クラスター対策がしやすいのもそうですし、小さなスタジオでも収録可能で、声優さんが自分のペースで声を吹き込むことができる、という点が長所として挙げられるでしょう。

とにかく、人生で初めての収録で門脇舞以さんの演技を聴くことができたのは大変貴重で大切な経験だったと思います。
収録直前の振る舞いで印象に残っているのは、マイクの前でリップロール(あるいはタングトリル)をして、ぽそぽそと冒頭付近の台詞を抜き出して口ずさんでいた点です。
この一連の動作は、おそらくルーティーン的なものなんだと思いますが、
中学時代に野球部だった僕はイチローを髣髴とさせました。
(イチローが打席に立つときに行う一連の所作、これもルーティーンであり、自分のペースに持ち込むためのものです)

この姿に、僕は儀式めいたものを感じました。
なんというか、自分もグゥッと集中力が底からみなぎるような心地がしました。
こういう収録のとき、スタジオの人がよく声優さんに向けて「自分のペースで始めていいですよ」と言うんですけど、
自分のペースというのは、当たり前ですが人から言われたところでペースを保てるわけがないんですよね。
もちろん、言う側は心の底から「我々は少しも焦ってないので、あなたが最大限のパフォーマンスを引き出してくれたらそれでいいんです」と思っているはずなんですが、悲しいことに、これは言葉にすればするほど、逆効果になってしまう。
自分のペースは、自分でないとつくれませんし、保てない。

だからこそ、自分のペースをつくれる、というのはそれだけで武器ですし、
さらに周囲の人間までもがそのペースに合わさざるを得ない空気をつくる人間というのは、とんでもねえな、と思うのでした。
門脇さんがマイクの前に立った瞬間、あの場にいた誰もが、門脇さんの第一声を待っていた……。
あの緊張感に立ち会えたのは、あまりに貴重すぎる体験でした。
(貴重すぎるからこそ、こうしてnoteを書いているわけです)

さて、ここで今田ずんばあらずは脚本家としては素人オブ素人であることを改めて紹介します。
今回のシナリオですが、ストーリー面は自信があります。
大辺璃師からも太鼓判をいただきましたし、門脇さんからも好評でした。
(ありがたいことです)

初収録、初脚本での反省点

しかしながら、脚本としては読むと、まだまだ稚拙な個所がいくつかありました。
これは分かっていたことですが(少なくともそのつもりでしたが)、
小説と脚本は似て非なるものです。小説の文章をそのままボイスドラマとして使うと、不自然だったり、ものすごく声に出しづらかったり……なんてことがあるわけです。

例えば小説なら「雨宿りをしている」というところを、
ボイスドラマでは「雨宿りしてる」と言ったほうがスムーズだったりします。
今回架空の街として「平丘市[ひらおかし]」「鴫立町[しぎたつまち]」という地名を出しましたが、活舌の悪い自分はまず噛みます。
それから、「統率力極振り[とうそつりょくきょくふり]」というワードも出てくるのですが、今思えば東京特許許可局感のある言い回しでした……。

台詞量の多くない方や、あるいは1つや2つ程度であればまだいいものの、
今回の門脇さんの役は、「とにかくいろんな役を演じ」ています。
もう少し配慮した脚本ができたらよかった……というのが今後の反省点です。

プロフェッショナルとはなにか

門脇さんの収録を拝聴して、その丁寧な、そして的確な演じ分けに、何度も驚かされました。
なにせ、とにかくいろんな役をお願いしたのです。
「こんなんどう演じればええんや!」と自らツッコミを入れたくなるキャラもなかにはいて、
まあ正直に吐露すると門脇さんがどう演じるのか大変楽しみにしていたのです。

で、実際収録に立ち会うと、そういった演技に困る配役に対して、
一発でビシッと決めるんですよね。
正直、ものすごく驚きました。

声が入ると、僕はこの声をもとに、この登場人物を手がけたのではないか、
と錯覚するようでした。いや、ほんと、恐ろしい……。

ふと門脇さんのなかには理想としている声があって、
その声に近づけようとしているように思えました。

僕は今まで、とりわけ声優さんに対しては、プロとアマの違いを明確に分けないように努めてまいりました。
(実際、この二つを明確に分ける定義を自分は知りません)

しかしながら、直感的に「ああ、これがプロなのか」と、いつの間にかそう思っていました。
何を経てそう思ったのかは、今となっては定かでありません。的確な演じ分けをされていたからなのか、収録前の「儀式」がそう思わせたのか、マイクに向かう姿勢なのか、合間合間で水を飲む「音」からなのか……。

ともあれ、ひとりのもの書きとして、そして商業作家を目指す人間として、こうも思うのでした。
プロかアマかを決めるのは自分じゃない。
自分自身の振る舞いを見た他人なのだ、と。

以前、僕の知り合いが同人イベントにサークル参加している大辺璃さんに会いに行ったことがあります。
その人は大辺璃さんの顔を覚えておらず、ついなちゃんもよく分かっていませんでした。
分かってるのは、スペースのNo.だけ。それも、(イベント参加した方なら分かると思いますが)、正しいスペースに辿り着いたとしても、それが本当に目当ての場所なのか、イマイチ自信が持てないわけです。
それでも、大辺璃さんのことは一発で分かった、というのです。

そのとき大辺璃さんは、タブレットに向かって絵を描いていました。
(大辺璃さんはボイスドラマを毎月更新してますが、元々は漫画を描く人です)
その姿、そのオーラに、彼は圧倒されたのです。
そして「ああ、この人は大辺璃さんなんだな」と直感したのでした。

僕も大辺璃師が絵に向かう姿を見たことがあります。
タブレットを取り出し、それからペンを取り出すわけですが、
その瞬間「殺される……!」と思ったのを覚えています。

大辺璃師本人は結構のほほんとした人で抜けてるところも多いのですが、
あのときだけは寒気がしたし、心臓の高鳴りを抑えられずにいました。

ああ、この人はプロなのだ、と。

プロフェッショナルは、自ら名乗るまでもなくプロフェッショナルであることが当たり前なのです。それが日常なのです。無自覚なのです。
そんな無自覚で日常な部分から、僕らは抗うこともできず、ただ彼らの「姿勢」と「積み重ね」を見出さざるを得ないのです。

そういった方たちとご一緒できたことに、改めて感謝を抱きつつも、
感謝だけではなくて、自分は物語を紡ぐ人間として、物語を紡ぐことに関してはどこまでも遠くへ行ってみたいと思うのでした。

たぶん、対等ってそういうことだと思うんです。
僕の理論を鵜呑みにするならば、僕がアマチュアなのかプロなのかは他人が決めることです。
そして、自分自身に対して「プロを自負しろ」とか「プロだと思え」みたいな自己暗示はできそうにありません。
(自分に自信ない人並みの発言)

ただ、自分にしかできないこと……なんてものがあるのかどうか分かりませんが、
自分がやれることは最大限やりきる。
門脇さんや大辺璃さんに応える必要はまったくなくて、
やれることを愚直にやって進むしかないんだな、と。

やれることを愚直にやり続ける。
これは至極至極当たり前の話なのかもしれません。
ただ、どう申し上げればいいんでしょう。
この言葉の意味が、収録の前と後とでは、まったく別の意味に聞こえるのです……。

正直、この経験を完全に言葉にすることは難しいのですが、
少なくとも見える世界が変わる程度には大きな収穫を得ることができたように思えます。

今回は素晴らしい経験をさせてくださいまして、ありがとうございました。
まだまだ精進の身ですが、今田ずんばあらずも先へ先へと進んでいく所存です。


2022/3/21追記

2021年9月11日に、上記で語ったボイスドラマの脚本が公開されました!
気になる方はぜひ目を通していただければ幸いです!

【ついなちゃん】第44回台本公開!【ボイスドラマ】https://fantia.jp/posts/892856

また、門脇さんの素敵な演技が気になる方は、
近日公開予定の本篇をお楽しみに……!
自分も楽しみです。

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湘南・大磯を舞台にした、
四季巡る青春小説、その第一章。

◤ ──好きです。
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