テスカトリポカはアステカ人に魔王と呼ばれた

カール・タウベ『アステカ・マヤの神話』のテスカトリポカについての説明に「アステカの人々はこの恐ろしい神を、「魔王」とか「われらの隷属する男」などと形容していた」とあります。この部分は英語原文では「Among the many Aztec epithets for this awesome being are 'the adversary' and 'he whose slaves we are'.」です。「the Adversary」と大文字であれば聖書における悪魔、サタンのことを指しますが、小文字なので一般名詞の「敵」と解釈するのが適切だと思います。テスカトリポカの別名の1つに、「敵」という意味の「ヤオトルYaotl」があるので、この場合のadversaryはその語義解説だと考える方が自然です。
 確かに、『フィレンツェ絵文書』第1書補遺の「(テスカトリポカを)彼らはまたティトラカワン、そしてヤオトル、ネコク・ヤオトル、モヨコヤ、ネサワルピリとも呼んだ。老人達が真の神だと言ったこのテスカトリポカは(中略)夜、闇と呼ばれた。この邪悪なテスカトリポカが大悪魔ルシファーであることは分かっている」、『テレリアーノ・レメンシス絵文書』fol.23rの「煙を吐く鏡 罪を犯す前のイヴを誘惑した悪魔」などといった記述はあります。しかし、これらはキリスト教に基づく解釈であって、征服前の先住民がテスカトリポカをキリスト教的な意味での魔王、悪魔と見なしていたということではありません。また、彼らは(キリスト教における)悪魔に惑わされていて真の(キリスト教の)神を知らなかったのだ…というようなのがサアグンの話なので、先住民の信仰での善神に敵対する邪悪存在としての魔王ということでもありません。

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