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もうひとりの自分 第2話

私は確かに貧乏です。どうにもならないほどの貧乏です。しかしそんじゃそこらの貧乏ではない。

人間貧しすぎると本当におかしな感覚に襲われる。
しかもいまだに5歳である。
本来なら無邪気であどけない年ごろで外で親や友達と
ワイワイ遊べたが、
私には親も友達もなければお金も玩具もない。
しかし住まいはある。
だが平屋で小さく汚れたこの空間でどう暴れろというんだ?

そんな夜。私はこれから人生を共にする壮大な夢を
初めて見た。

やはり夢の中は5歳の自分がいる。
家族は若い父と母、そして自分。母はお腹が大きい。
妊娠しているようだ。
自宅は二階建てで中にはキッチンがあり綺麗なリビングにそして何のヒーローものか知らないがいろんな玩具があった。
私は5歳なので無我夢中に遊んだ。
車の玩具を使って家中駆け回った。
さすがにうるさいとこっぴどなく叱られると思いきや
父は仕事で外出、母は妊娠でそれどころではない。

しかしこの家族には秘密があった。
父は仕事というがどういう職業に就いているか不明。
母は妊娠というが私は実は4番目に生まれた子供で
ある。
そして今回産まれるであろう子供は7番目にあたる。
私よりも前の3人と後の2人の計5人は全員母のお腹の中で死んだ。
だが全員がそのまま死産というわけではない。

夢の中の私は幼稚園に通っている。
幼稚園の年長クラスにいる。
しかし誰とも遊んだことはない。
一体気づいているのかどうか知らないが、
私はずっと部屋の隅っこでロボットの玩具をいじって
遊んでいる。

翌日。母が病院に運ばれた。もうすぐ産まれるらしい。朝方陣痛に襲われて苦しみだした。
偶然父はその日が仕事休みだった。
平日の何の変わりのないその日にだ。
父と一緒に救急車に乗り病院の産婦人科に運ばれた。
しかし父は出産という大事なことにもかかわらず
1人喫煙所でタバコをふかし始めた。
私は5歳ながらまたどうせ流産だなと諦め始めた。
いくら経っても赤ん坊の鳴き声もしないし、
分娩室から医師や看護師が出てこない。

2時間が経ち、5時間が経ち、
父はずっと喫煙所でタバコをふかし続けている。
するとその時、分娩室の扉が開いた。

とそこで目を覚ました。
一体今何時なのかと思わんばかりまだ辺りは暗かった。あれからどうしたんだ?とそこだけが気になる。
そう思いつつまたぐっすりと眠った。

第2話おわり

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