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「たま」というバンドの本を読んだ

『「たま」という船に乗っていた さよなら人類編』を読んだ。バンド・たまの誕生から社会現象にまでなってしまう彼らの姿を描いた漫画。最高に面白かった。

土曜深夜に放送していた『いかすバンド天国』っていう深夜番組を毎週欠かさずリアルタイムで観て、日曜日に録画したやつを観るほど好きな番組で、一時期会場になっていた日比谷シャンテに憧れて、番組内で審査員が飲んでいたジャワティストレートに憧れて、っていう当時田舎の高校生だったけど、でも自分ではバンドとか一切やってなかったんですけどその大好きな番組にある夜「たま」って名前のバンドが出てきて、「らんちう」って曲を演奏して、その曲聞いたら突然震えたんですよ夜中に。自分の部屋でテレビ観てて。ぶるるるるって。何かすごい変なことを徹底的に圧倒的なレベルでやってる人たちが出てきたぞと思って。特に曲の最後の方でひとり語りの台詞みたいなのがあって、その台詞がめちゃくちゃ良かった。らんちうの歴史みたいなのを語る台詞。それからずっと「たま」が好きで、数年後に上京してご縁を頂く演劇人と「たま」は絶妙に絡んでいたりして、私は勝手ながら「たま」と共に生きていた感覚すらある。
ところで番組にたまが初登場して、演奏して、完奏して、審査員が講評するまでの間じゅう、ずっと「ニヤニヤ」してるんですよその場にいる人たちが。なぜニヤニヤしているかっていうと、たまのビジュアルが明らかに「イロモノ」だから、イコール演奏も「イロモノ」なんでしょう、っていう見た目に向けられた下卑たニヤニヤで、現に司会者も音楽性とかじゃなくってメンバーの見た目(その髪型ってかつら?とか)をずっとちょっかい出して、演奏中の審査員も映像を観ながらニヤニヤ笑ったりしていて。らんちうって曲はそんなニヤニヤゲラゲラ笑えるような曲でもない。本人たちは決してイロモノとして生きていないけれど、私たちはそういう自分たちには真似ができない格好で、真似ができない表現をする人たちが眼前に現れると、それ以降ずっとそういう変な人という目で見て、そういう耳で聞いてしまうんです。見極めないといけない。演奏が終わって感想を求められた審査員の中には「(やれやれ…イロモノか…)」というテンションで講評して、その(やれやれ…)の態度が面白くて会場がウケる、みたいな瞬間もあり、何かとにかくその圧倒的に間違った解釈の中に置かれた彼らに、ものすごく同情したし、そういう目に遭った実体験とシンクロして何とも言えない苦い気持ちにもなった。ということを思い出させてくれた一冊。思い出が過ぎる。もうやめましょう。

ちなみに5週勝ち抜きを決めた時のゲスト審査員として出演していた大島渚監督の言葉が未だに私の創作の礎になっていて、それは

「優れた作品っていうのは、それがどうやって作られたのかなんてことはあんまり考えさせないで、ポッカリ生まれたように見えるんだよね。」

という一言だ。いい言葉だと思っているし、監督はニヤニヤしていなかったから私は大島渚監督のことが好き。

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