JOG(1315) GHQ焚書、福澤桃介『西洋文明の没落 東洋文明の勃興』が現代日本人に問いかけていること
「全人類が平等に、共働共楽共存共栄して行く新文明」の建設に向けて日本人が持つ重大な責任とは。
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■1.GHQに焚書処分にされた「電力王」の一冊
福澤桃介は福澤諭吉の婿養子で、電力業界の発展に多大な貢献をして「電力王」と呼ばれた人物ですが、晩年には多くの著書を残しています。その中の一冊に、大正11(1922)年の『西洋文明の没落 東洋文明の勃興』があります。今回、この本が復刻されました。
桃介は単身で渡米して、ウィリアム・タフト元大統領やゼネラル・エレクトリック社社長などと渡り合った人物で、西洋文明を実体験をもって語ることができる人物でした。そして、この本では西洋文明の本質を鋭くえぐり出しています。
そのために、大東亜戦争後、占領軍(GHQ)はこの本を焚書処分として、当時の日本人が読むのを禁じました。しかし、桃介は単に西洋文明を批判するだけでなく、これから全人類が築くべき「新文明」の理想を気高く謳い、その実現に向けて「日本民族の責任」を明快に説いているのです。
そのメッセージは、今だ新文明を築けていない現代国際社会の中で、今なお日本民族が担っている「責任」を訴えています。本編でその一端をご紹介しますので、読者の心に響くところがあれば、ぜひご自身でお手にとっていただければ、と思います。
■2.独立宣言での歓呼の声、しかし、その大会堂の外では、、、
西洋文明の本質を鮮やかに浮かび上がらせているのは、次のシーンでしょう。
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まず、アメリカ独立の宣言について見るに、これは冒頭において『人間は生れながらにして平等である。平等に幸福を追求するの権利がある』と書かれてある、こういうような意味が全文を一貫して、人間の平等を強調しているのである。そして、これが読み上げられた時に、フィラデルフィアの大会堂に居並んだ全アメリカの愛国者、人道論者は、満堂一斉に歓呼の声を揚げ、誠に世にも美わしい感激の情景を現出したのであった。
しかるに、この大会堂の窓一つ隔てて外の光景を眺めると、当時フィラデルフィアの人口たるや、黒人が約三分の二近くで、町を見ると灰色に見えると言われておったほどであつた。しかし、その黒人達はことごとく皆な奴隷であったのである。
しかのみならず、そのフィラデルフィアの大通りを、数百数千の奴隷が鞭で殴られ、棍棒をもって打たれながら重い、荷物を挽(ひ)いて呻吟の声を上げ、悲鳴泣喚(きゅうかん)を継続して通っているという暗澹たる有り様であったのだ。[福澤、p58]
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「人間は生まれながらにして平等である」という美しい一節が読み上げられ、「満堂一斉に歓呼の声を揚げ」た大会堂の外では、人口の約3分の2を占める黒人が奴隷として、「鞭で殴られ、棍棒をもって打たれながら」重労働を課されている、という鮮烈な対比は、西洋文明の本質を鮮やかに浮かび上がらせています。
このシーンだけでも、占領軍のアメリカ兵たちは憤激して、この本は焚書にしなければならない、と思ったことでしょう。こんな本を日本人が読んだら、自分たちが教えようとしている「民主主義」に疑いの目を向けてしまう、と思ったはずです。
■3.世界大陸の9分の8がヨーロッパ人の支配下に
奴隷制度は17世紀頃からヨーロッパ人たちが己の物欲を満たすために、奴隷を「手作業もできる賢い牛馬」としてアフリカやアジアで捕まえてヨーロッパやアメリカで売りさばいたもので、累計3億人もの人間が奴隷にされたようです。
キリシタンが日本にやってきた際にも、彼らは日本から数万人規模で奴隷を「輸出」しています。戦争捕虜や、誘拐されたり親に売られた子供が奴隷として南蛮商人によって東南アジアからポルトガル本国、さらには南米にまで売られていました。
1596年、日本では豊臣秀吉の晩年、アルゼンチンの古都ゴルドバで日本人青年が奴隷として、ある神父に売られたという古文書が残っています。「日本州出身の日本人種、フランシスコ・ハポン(21歳)、戦利品(捕虜)で担保なし、人頭税なしの奴隷を800ペソで売る」と記録されています。
秀吉が天正15(1587)年にキリスト教宣教師追放令を出したのも、こうした奴隷輸出に怒った事が一因でした。[JOG(1131)]
しかし、18世紀末葉あたりから産業革命が起こり、ヨーロッパ人は大量生産のための資源獲得、大量販売のための市場獲得の必要性から、アフリカ、アジアを植民地支配するようになっていきました。産業革命によりヨーロッパ本国では機械化によって奴隷の需要は減り、今度は植民地獲得に血道を上げるようになっていきます。福澤はその様子をこう記述しています。
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アメリカ大陸においては、モンロー主義の宣言が、一八二三年に行なわれ、これによってアメリカはヨーロッパより独立したとはいうものの、その実、そこに住んでいたヨーロッパ人の支配に全アメリカは帰したのである。
かく白人は、アメリカを手に入れても、なおこれに満足せず、さらに進んで他の地方を支配するに取懸った。・・・十八世紀の末葉よりアフリカ、アジア両方面に亘(わた)って領土分割の運動を起こしたのである。
その結果、十九世紀の一世紀は、ヨーロツパ人によって世界が分割された世紀たるの観を呈し、ついに世界大陸の九分の八の面積が、ヨーロツパ人の支配下に帰してしまった。[福澤、p49]
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■4.物欲に目覚めたヨーロッパ人の世界支配
奴隷制と植民地主義は、他者を犠牲にして自分の物的欲望を満たす制度と捉えれば、同じ動機から生まれています。この二つを、近代におけるヨーロッパ人支配の本質と捉えたところに、福澤の実業人としての鋭い直感が窺われます。
しかし、ヨーロッパ人はなぜこれほどまでに自らの欲望従属に走ったのでしょうか? ここにも福澤の彼らの本質を鋭く見抜いた記述が見られます。
まず、中世のヨーロッパはカトリック教会の禁欲主義に支配されていました。人間は欲を抑えることで神に救われ、天国に行けるというのです。しかし、15世紀のオスマン・トルコの勃興により、ギリシャの学者たちが、当時ヨーロッパ文明の中心であったイタリア半島に逃れ、彼らによりギリシャの芸術や哲学がもたらされました。
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それはすなわち、人生の最高原理は欲望を禁圧することでなく、欲望を充足することであるというにあったのである。出来るだけ美味い物を食べ、また出来るだけ綺麗な衣服を着、そしてその欲望を満足させるということが最高原理であると説いたのである。
かくして、人間はその俗的な欲望を完全円満に充足することによって、人生の真善美が完成せらるるという、新しい指導原理がヨーロッパへ入ってきたのであるが、この考え方は、従来の考え方が神本位であったのに反し、人間本位で、禁欲主義に代わるに、充欲主義をもってしたものであった。
当時のヨーロッパ人はこの従前と全く相反する新しい学説、新しい教説に接し、ここに初めて真に活々したフレッシュな感じを得るようになつたのである。[福澤、p21]
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しかし、物欲に目覚めたヨーロッパ人にとって、不幸にもヨーロッパの地は金銀も産出せず、農産物にも恵まれない不毛の地でした。そこで東洋のように物資の豊富な地域を見いだそうと、15世紀末からの大航海時代に入ったのです。1492年のコロンブスのアメリカ大陸発見、1498年のバスコ・ダ・ガマのアフリカ大陸南端の喜望峰を巡ってのインドへの航路発見が相次いでなされました。
さらにそこからスペインとポルトガルによる南米征服と、現地人奴隷による銀山採掘やカリブ海諸島でのアフリカ人奴隷によるサトウキビ栽培などが始まり、それが奴隷制、そしてついには世界の植民地支配へと広がっていくのです。
■5.世界植民地化の流れを止めた日露戦争
このヨーロッパ人による世界植民地化の動きを止めたのが、日露戦争での日本の勝利でした。そのインパクトを、中国の国父・孫文がこう語っています。
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どうしてもアジアは、ヨーロッパに抵抗できず、ヨーロッパの圧迫からぬけだすことができず、永久にヨーロッパの奴隷にならなければならないと考えたのです。(中略)
ところが、日本人がロシア人に勝ったのです。ヨーロッパに対してアジア民族が勝利したのは最近数百年の間にこれがはじめてでした。この戦争の影響がすぐ全アジアにつたわりますとアジアの全民族は、大きな驚きと喜びを感じ、とても大きな希望を抱いたのであります。[孫文]
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「大きな驚きと喜び」とは、近代戦争でも非白人が白人を打倒できるのだ、という「驚き」と、それによって自分たちも白人の植民地支配を打ち破って、独立と自由を勝ちとることができるかも知れない、という希望でした。
「アジアの全民族」とは決して誇張ではありません。たとえば、インドの独立後の初代首相ネルーは、当時の興奮をこう語っています。
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日本の戦捷(せんしょう、戦勝)は私の熱狂を沸き立たせ、新しいニュースを見るため毎日、新聞を待ち焦がれた。(中略)五月の末に近い頃、私たちはロンドンに着いた。途中、ドーヴァーからの汽車の中で対馬沖で日本の大勝利の記事を読み耽りながら、私はとても上機嫌であった。[ネルー]
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トルコでも、当時の熱狂が伝えられています。
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昭和四十四年に、山口康助氏(現・帝京大学教授)がトルコの古都ブルサに泊った時、ある古老が片言の日本語を混えて、「ジャポン! ニチロ、アラガート(日本の人たちよ! 日露戦争に勝ってくれて有難う)」と、呼びかけてきました。
続いて古老は、日本が日露戦争に勝った時、トルコ人は狂喜して、息子や孫に「トーゴー」「ノギ」の名前をつけ、イスタンブールの街には、「東郷通り」「乃木通り」ができた事など、語ったそうであります。[名越]
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■6.「来るべき新文明」への日本の責任
わが国は、日露戦争の実績を持って、ヨーロッパ人支配の植民地主義を打ち破り、全人類が平等に力を合わせる「新文明」を切り開いていかなかればならない、と福澤は主張します。
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その来るべき新文明の根本原理は、・・・全人類のことごとくが人格的平等を享受し、共働共楽共存共栄して行くということに向っていかねばならぬのである。・・・
かくのごとき新文明を建設するために、日本は、従来の世界歴史並びに人類史の大転機を与え、真の人類史における第一頁を血をもって開巻した当然の責任者として、須(すべから)く有色人の先頭に立ち、徹底的に白人の反省を求め、画期的大運動を続けて行かねばならないのである。[福澤、P58]
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大東亜戦争の後、アジア、アフリカの国々が次々と独立し、この「新文明」にだいぶ近づきました。しかし、世界各国が「共働共楽共存共栄して行く」という理想にはまだまだ到っていません。
現在の課題として、中国がモンスター国家として伝統的な中華帝国主義に立ち返り、周辺諸国を脅かしています。台湾に対する威圧、ベトナム、フィリピンに対する南シナ海での、および、わが国の尖閣諸島海域での不法侵入を続けています。インドとも軍事衝突を繰り返しています。
チベット、ウイグル、モンゴルなどの他民族に対して、「中華民族」などという荒唐無稽な目隠しの下で、弾圧と搾取を続けています。ウクライナへの侵攻を続けるロシア、そして自国民を飢えさせながら核ミサイル開発を続ける北朝鮮も、中国がバックについていなければ、はるか以前に悪行を抑え込めたでしょう。
西洋の奴隷制と植民地主義の悪行を、21世紀に継承している国こそ、中国なのです。世界各民族が「共働共楽共存共栄」する「新文明」はまだまだ建設途上です。そして、そこでわが国は今まで「新文明」を目指してきた歴史を担って、戦い続けなければならないのです。
■7.日本は富強でなければならない
福澤は実業人らしく、「新文明」建設における日本の責任を果たすためには、まずは富強でなければならない、と説きます。
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新文明を建設し世界人類の真の幸福を得せしむる最大責任は、全く我が日本の双肩にかかっている。されば、我が日本は、今や上下一致し、労資協調し、大いに働き、まずもって大いに富まねばならぬ。否、富むだけでは駄目だ。富むと同時に大いに強くならねばならぬのである。[福澤、p79]
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富を求めるのは、経済的繁栄のためではありません。
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今、軍事費を仮に年に一億増加するとして、ために国の経済に影響を及ぼすように成っても、それは拠(よんどころ)ないことである。
兵備の足らざると否とは、国の存立に関する大問題だ。国亡びて果たして山河ありや否や。況(いわ)んや、我が日本は、東洋文明を建設し、世界人類を真の幸福に導く大使命を帯びるにおいてをや。[福澤、p83]
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我々現代日本人が現在直面している課題は、桃介も100年前に直面し、こう喝破したものなのです。
(文責 伊勢雅臣)
■おたより
■民間人、市井の人々の想いや努力あっての日本(Naokiさん)
今回の記事を拝読し、出光佐三を思い浮かべました。政治家や歴史教科書に載っている人だけではなく、多くの民間人、市井の人々の想いや努力あっての日本なのだと感じました。
先人が積み上げてきた日本・日本らしさを引き継ぎ、その上に少しでも新しい何かを付与できる人になりたいと思いました。
■伊勢雅臣より
次号の行基もそうですが、わが国にはナポレオンやジョージ・ワシントンのような英雄は少なく、多くの民の力を合わせて国が発展してきました。それがわが国の国柄であり、強みでもありますね。
■リンク■
・JOG(1131) ブラジル移民が示した「根っこ」の力 ~ 深沢正雪『移民と日本人』を読む
我々と「根っこ」を同じくする同胞が190万人も地球の裏側で生きている事の有り難さ。
http://jog-memo.seesaa.net/article/201909article_3.html
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
→アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
・孫文「大アジア主義」、「大阪毎日新聞」大正13年12月3日~I6日連載
・名越二荒之助『世界に生きる日本の心』★★★、展転社、S62、
(「中近東の旅」、山口康助氏より)
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4886560350/japanontheg01-22/
・ネルー『ネール自伝』、立明社、S36
・福澤桃介『西洋文明の没落 東洋文明の勃興』★★★、ダイレクト出版、R05
https://in.powergame.jp/issb_non_merumaga?cap=isemag
■伊勢雅臣より
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