見出し画像

小室圭が担当している「G-BRIDGE」の業務は、日本の法律事務所では考えにくい

僕が内定を貰ってたローウェンスタイン・サンドラー(Lowenstein Sandler)法律事務所で小室圭が担当している「G-BRIDGE」。これが一体どういう業務なのかあまり語られていないが、それは日本の感覚からして、法律事務所が行う業務としてイメージが湧きにくいからかもしれない。

G-BRIDGEは「Generating Business Relationships in the Defense and Government Environment」の略。直訳すると「防衛と政府の業界における取引関係の構築」だが、これだけでは具体的に何をしているのか分かりづらい。

このチームの業務の背景にあるのは、民間企業が政府と取引をする際の特殊性だ。

日本と同様に米国でも、膨大な予算を持つ行政機関は民間企業にとって大きなビジネスチャンスとなり得る。だが、その反面、政府と取引をするためには、公共調達プロセスという厄介なものに従う必要がある。

国民の税金を資金源としている政府機関は、支出において公平性と透明性を求める。したがって、文房具を購入する時も、巨大ITシステムを運用する時も、公共機関は原則として公募で業者を募集し、一番価格が安い業者を選ぶ、いわゆる一般競争入札制度を採用している。

入札の手続きは時間と労力を要し、極めて煩雑だ。その煩雑さは政府との取引に慣れてない中小企業にとって課題となるだけでなく、最新の技術を迅速に導入したい政府側にとっても課題となり得る。

そして、この課題は民間企業と政府の間に大きな隔たりを生む。政府側は自ら抱えている問題が民間の世界にある斬新的なサービスで解決することを知る由もなく、民間側は政府が自社の技術を求めていることを認識できない。

そこで登場するのが、ローウェンスタインのG-BRIDGEである。G-BRIDGEは、政府と民間の橋渡しの役となり、このギャップを埋めるためのサービスだ。

この説明を読むと「なるほど」と思うかもしれないが、日本の感覚からすると、一つ違和感があるだろう。

ローウェンスタインは法律事務所である。これが日本の法律事務所だったら、こんなコンサルみたいな業務を担う(担える)とは想像しがたい。

なぜローウェンスタインはこのようなことができるのか。それは、日本と米国の法曹界の違いにある。

米国は弁護士が社会に満遍なく浸透している国である。一般人にまで浸透しているが故に「米国は訴訟社会」と言われるが、米国では公共の世界にも弁護士がわんさかいる。

米国政府の省庁には法務部があり、契約交渉や訴訟対応はそこにいる弁護士が担当する。自治体も同様で、州には法務部所属の弁護士がいるし、小さな自治体は町弁を顧問弁護士として起用している。こういった弁護士は、様々な縛りがある公共の世界の法律や慣習に精通している専門家である。

政府側に専門の弁護士がいれば取引相手となる民間企業側にも専門の弁護士がいるのも自然なことで、国防総省に戦闘機を納入している航空機製造会社ボーイングは、公共専門の法務部員が必要な会社の代表例だ。

専門家がいるのは取引の当事者だけではない。米国政府と民間企業の間で訴訟が起こると、その訴訟は米国政府が被告である民事裁判のみを管轄とするUnited States Court of Federal Claimsと呼ばれる特別な裁判所が処理する。

政府、企業、そして裁判所にまで専門家がいると、当然のことながら、特化した学問分野が存在する。あまりのトラウマで都合良く忘れていたが、僕自身、ロースクール時代に「政府との契約(Government Contracts)」という授業を受けていたのだった。

こうした背景を理解すると、法律事務所であるローウェンスタインがなぜ公共コンサルみたいなことができて、そのような業務をやりたくなるのかが分かってくる。

政府と多くの取引がある企業で実績を積んだ弁護士と政府に長年務めていた弁護士が集まっていれば、ローウェンスタインは事務所として官民取引について詳しくなる。民間側と政府側の双方の事情に精通しているので、政府と民間企業を繋げることもできる。

両者を繋げた後、政府側のニーズと民間企業のサービスがうまく合致すれば商談の話になり、その取引を成立させるためには、知的財産や輸出入規制等に関する法律アドバイスが求められる。

ここでやっとローウェンスタインの本業の出番だ。法律について相談を受けたい企業は、自然と、取引相手先となった政府機関を紹介してくれたローウェンスタインに依頼するだろう。

小室圭はこれまた随分とマニアックな世界に入ったものである。

[注:この記事は2024年5月に自分のブログに載せた投稿に微修正加えた上で再掲したものです]

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?