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細かすぎる英文契約解説(第3回)〜実は危険な分離条項〜

はじめに:分離条項のリスク


今回は、通常あまり気に留めないであろう分離条項(severability)について少し深掘りしてみたいと思います。分離条項は注意しないと、意図せぬ方向に契約が解釈または変更されるリスクがある危険な条項です。

分離条項とは、契約において一部の条項が無効とされた場合でも、他の条項が有効であることを確保するための条項です。英文契約に当たり前のように入っている条項ですが、例えば次のような条項にはどのような問題があるでしょうか。

If any provision of this Agreement is illegal or unenforceable, the legality and enforceability of the other provisions remain unaffected.

この問題を考えるには、「ブルーペンシル・ルール (Blue-Pencil Rule)」と「合理性の原則(Rule of Reasonable ness)」がの理解が必要です。

ブルーペンシル・ルール

一つの分離条項の適用方法は、ブルーペンシル(Blue-Pencil)ルールです。日本でいう赤ペンで削除線を入れるように、裁判所が特定の箇所に青い鉛筆で線を引いて効力を失わせることが由来のようです。

このルールでは、その由来のとおり、裁判所は問題のある条項を単純に削除することができます。逆に言えば、それ以上のことはできず、当事者意思を考慮して契約を加筆したり変更したりすることはできません。(なお、文献によっては以下の合理の原則を含めてブルーペンシルルールと広義に捉えることもあるようですが、ここでは上記のように狭義に捉えて用語を使っています)

しかし、多くの州ではこのルールは適用されず、適用される場合でも、問題のある条項を削除することで、契約全体が無効になることがあります。

合理の原則

もう一つの分離条項の適用方法は、合理性の原則(Rule of Reasonableness)です。この原則では、契約全体を合理的に解釈することができます。米国では多くの州で採用されており、単に問題のある条項を削除して無効にするよりも、契約全体の趣旨を活かすことができます。

具体的な適用例

それでは、上記二つの原則は具体的にどのような違いが出てくるのでしょうか。その有効性がよく問題になる、競業避止義務を定めた契約を例に見てみます。

Steve Jobs shall not work for a competitor in the Western U.S. for 1 year.

この条項をある裁判所が、競業避止義務を課すことができるのはカリフォルニア州に限られるのであり、in the Western U.S.という地理的制限が過度に広範であり無効であると判断したとします。その結果は、ブルーペンシル・ルールか合理性の原則を用いるかで異なってきます。

ブルーペンシル・ルール

ブルーペンシル・ルールを適用すると、条項全体が無効になります。このルールによると、裁判所は契約の加筆修正は許されないため、単純削除するしか方法がないからです。

なお、少し本論から逸れますが、in the Westernではなくin California, Nevada, Arizonaなどと具体的に州名が列挙されていた場合は少し結論が異なります。この場合、裁判所は新たに文言を付け加えずに(単純削除するだけで)有効な条項とすることができるので、Nevada, Arizonaを削除し、Californiaのみ競業避止義務がかかる契約として生き残ります。

合理の原則

合理性の原則を適用すると、the Western U.S.の一部を合理的な範囲に修正することで、合法的な条項として全体を維持することができます。前記の条項例において、仮に裁判所が西部全体は不合理であるが、カリフォルニア州のみであれば有効であり、その範囲で条項を有効とすることが当事者意思に合致すると判断した場合、次のような条項に書き換えられます。

Steve Jobs shall not work for a competitor in the state of California for 1 year.

裁判所が優秀で常に当事者意思に適合した条項に修正してくれれば良いのですが、現実には必ずしもそうではないでしょう。 何より、そもそも当該法域がブルーペンシル・ルールなのか(更にブルーペンシル・ルールにも色々な派生があります)分からない場合が多いでしょう。また、裁判が確定するまで具体的な適用範囲が予測できず、次のアクションや事業戦略の立案をしにくいというデメリットが考えられます。

より良い条項例

そこで、裁判所の干渉をなるべく避けつつ、当事者意思に合致した契約書を残すために、以下のような協議の手続を設けることが考えられます。

If any provision of this Agreement is illegal or unenforceable, the parties shall negotiate in good faith to replace that provision with one that approximates as much as possible the party’s original intent; and the legality and enforceability of the other provisions remain unaffected.

すなわち、当事者は、その問題のある条項を本来の当事者意思にできるだけ近いものに置き換えるために誠実に協議を行うわけです。

このような協議条項を入れておくことで、一部の条項が無効になった場合でも、契約全体が無効になることを企図しています。また、当事者の本来の意図に沿った代替案を協議することができ、当事者の意図しない形で契約が修正されてしまうリスクを減らしています。

なお、理想的には各契約の準拠法域における弁護士の確認を経ておくことが確実です。特に重要契約においては、分離条項の具体的適用方法についても積極的に依頼する側も質問していくべきかと思います。

おわりに

このように、通常はあまり存在感のない分離条項ですが、特に有効性に疑義が生じうる条項を含む契約では慎重にドラフトする必要があります。ボイラープレートといっても、一つ一つ契約に即してレビューすべき良い例かも知れません。特に、有効性に疑義が生じうる契約をドラフトする際には、検討漏れのないようにしたいところです。

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