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リモートワークで株が上がる人。上がらない人。

混迷を極める現代社会の病巣に、臨床医学的な見地から軽妙洒脱な筆致で快刀乱麻にメスを入れるサブカル産業医・大室正志と、特にメスは入れていない朝倉が考える、リモートワーク時代の人間模様。

「リモート映え」する人とは?

朝倉:世の中は新型コロナウイルスの感染拡大が予断を許さない状況になっていますが、大室さんもこの時流でリモート対応することが増えたんじゃないですか?

大室:僕は産業医をやっているんで、今回の新型コロナウイルスの影響でいろいろな相談を受けるわけですよ。最近だと一部の社員は出社して、ほかは在宅勤務している状況での会議や研修もあるんですね。

そこで気づいたのが、例えばミュージシャンでも、レコーディングが得意な人とライブが得意な人がいるじゃないですか。レコーディングが得意なアーティストだと、古くはビーチボーイズの『ぺット・サウンズ』とか。
あとコーネリアスなんかもそうかもしれない。ただレコーディングが上手い人と、ライブ活動が得意な人は別だったりするわけ。

で、ライブが得意なミュージシャンがいるのと同じように、会議が得意な人っているなと思って。会議でよくある風景として、そんなに理解してなくても空気を読んで、それっぽいタイミングでそれらしいことを言って場の空気を制する人。

朝倉:たしかに会議はライブだし、即興性が求められますよね。
なんとなく良いこと言っている感のある人でも、冷静に振り返ると、何を言っているかわけわかんないことってよくある。

大室:会議で煮詰まったときの空気をパッと切り替えて場をまとめる人がいる一方で、Zoomをはじめとしたオンライン会議だと、特に大人数になった場合に輝いて見える人がちょっと変わってくるんじゃないかと思う。

朝倉:リモートでイケてる話者と、ライブでイケてる話者が変わってくるっていうことね。

大室:そう。これを俺は「リモート映え」って呼んでるんだけど。
会議映えする人っているでしょ?ワイドショーでいうと、コメンテーター映えする姜尚中さんとかも文字起こししてみると、実はその場で「みんなでもう1度よく考えましょう」とだけしか言ってなかったりする。

朝倉:営業マンでも、勢いよく喋っていて妙に説得力があるんだけれど、それを文字に起こしてみると前後で辻褄が合っていない、何を言っているのかよくわからない、編集者泣かせな人っていますね。
圧や存在感で場を支配しているようなタイプの人。

フォーマットに依存する「優秀さ」

大室:そういった「営業映え」する人も同じで、「優秀さ」っていうのは明らかにフォーマットに依存していると思う。例えば大学受験の場合、センター試験っていう競技があるから、そのフォーマットが得意な人が「優秀」って呼ばれるわけだよね。

他にも、落語というフォーマットは、高座に行ってネタを覚えて上手くしゃべる(演じる)という「高座」ってフォーマットがあったから、古今亭志ん生などがもてはやされた一方、そのフォーマットでは劣等生だった明石家さんまがバラエティの世界では超優秀な人になるわけですよ。

だから、優秀な人はフォーマットにかなり依存するといえる。フォーマットがチェンジすると優秀さの定義が変わる。要するに、テスト科目の改定だよね。
オンライン会議でも同様に今まで雰囲気が良かった会議映えする人がリモートだと映えなくなり、逆にリモート映えする人が新たに出てくるんじゃないかと思ってる。

朝倉:「リモート映え」って何で決まるんでしょうね。非言語コミュニケーションが削がれたことだけでは説明できない何かが、そこにはあるのかもしれない。

大室:リモートだと雑談的なコミュニケーションがないじゃない。
建築でいえば、意匠や設計のような「どういう建築にするか」ということを議論する会議ってあんまりリモートに向かないんですよ。将来、テクノロジーが発展して、リモートが対面と遜色ないレベルになればわからないけれど。

ただ、いざデザインや工期と建築計画が決まった後、棟梁が指揮を取って担当者が作業を進めるとういったプロジェクト的なものってリモート会議的に合うんだよね。雑談がなくても、アジェンダがあって、具体的な指示が飛ぶような形態の会議。

Zoomにはテレビ会議的な機能に加えて、チャット機能がついているよね。そこにいい感じのタイミングで参考情報のURLとか貼ってくれる人がいるでしょ? 今までの会議だとオタクっぽい感じで映えなかった人が、リモートだと急に存在感が出てくる余地が生じる。

朝倉:確かに。オフラインの会議だと、会議中その場で調べたことを多数の参加者にさっと回覧するのって、それなりに高度なスキルとメンタリティを求められますね。

リモートは会話途中の「ぶった切り芸」を可能にする

大室:よっぽどいいタイミングと最適な言葉によって場の空気を制するレベルじゃないと無理だよね。でもリモートの場合、大人数になればなるほど、そういうリアルな会議では見られないような光景が目立ってくるんだと思う。
加えて、リモートだと割り込み方が外国人ぽくなる傾向にあると思うんだよね。思い切ってバンっと「ちょっといいすか!」って。

朝倉:わかる。進行している会話をぶった切るのがオンライン上のコミュニケーションでは割とやりやすくなる。

大室:リアルな会議でも外国人がいる場合にそういう光景はよく見かけるよね。あの「ぶった切り芸」って日本ではご法度とされていたんだけど、リモートだとそのハードルが下がる。コミュニケーションも曖昧な言葉よりは具体的な言葉が増えるよね。

グーグル翻訳で英訳しても意味が通じるような言葉というか。要するに、英語的コミュニケーションになっているなと思う。日本的な「協調する空気」が排除されて、目的意識を持った発言になる。

朝倉:多くの企業にとってはリモートワークを本格導入されるようになってから、たかだか2~3週間(2020年4月10日現在)だと思いますが、その中で、すでにリモートに順応しつつある人と、そうでない人の差が生じつつあるのが今ですよね。
リモートワークのリテラシーって、これまでは単に技術面における習熟度の差だったけど、これからはソフト面、文化面の違いにまで発展してくると思うんだよね。今後、リモートリテラシーが高い人と低い人のコミュニケーションスタイルは違うものになってくるんじゃないかな。

リモートがより浸透してくる時代において、どういう立ち振る舞いをするのが良いとされるようになると思いますか?

大室:世の中の大抵のことは、さっき話した建築家のブレストみたいなもののほうが少ない。コンセプトを建築家が決めたあとには、建設会社が具体的な工程を洗い出す。3ヶ月でこれを仕上げるぞって絵が決まれば、それに向かってみんなで作る。このノリは極めてリモートに向いていると思う。

ゴールに向かってみんなで走っている感じ。ビル建設なんかは可視化されてわかりやすいね。だけど、これまで日本企業のホワイトカラーを見てきて、みんなで完成図を想像しながらプロジェクトを回しているところは実はそう多くなかったんじゃないかと思ったよ。

朝倉さんがいたマッキンゼーなんかはそんな事ないかもしれないけど。各自が目的を持って、すべきタスクとスケジュールを立てるみたいな、簡単にいうとジョブ型の組織構造ですよね。

その点を意識して、現時点でしなきゃいけないことは、今まで非効率だった部分を削ぎ落として、どんどん作業として「コト」に向かうことかな。リアルな会議だとその場の空気を制した「人」に向かっちゃうから対称的だよね。

内向型人間のチャンス到来?

朝倉:ハイコンテクストなコミュニケーションで活躍してきた人が、なかなか持ち味を活かしづらくなるよね。その場の空気を読む力、関係性を読む力、圧で場を制する力。
そうしたリアルでのコミュニケーションに最適化した特殊技能で本領発揮してきた人たちにとって、対面ではなく音声のやり取りだけでは、おそらく十分な状況把握、情報伝達ができないし、場をコントロールしづらくなる。

大室:もともとマッキンゼー的な世界は、おそらく空気を読むことのほうが得意な人もいるなかで、場の空気よりも目的重視のコミュニケーションルールを共通認識として全員に叩き込むじゃないですか。

だから結果的にコンテクストとか無視して、全員が積極的にストレートトークできるような会議が生まれたんだと思う。だけど、ほとんどの人は空気を読まないルールを理解した上でコトに向かうなんて難しい。

そういう意味でいうと、おそらく今まで空気を読むことが得意だった人間のほうが、普通の会議において傾斜配点で加点されていた。だけどZoom会議では、会話をぶった切るような人や、過剰なくらいなんか情報提供してくるような人が、昔ほどノイズに思われないよね。これはローコンテクストな人には朗報な気がする。

朝倉:そうだよね。ハイコンテクストなやり取りが苦手な内向型の人にとってはいいチャンスかもしれない。

例えば今年は5Gが始まるけれど、これによって、リモートでのコミュニケーションがもっと対面に近いフォーマットになって、リモートにおける「優秀さ」も今のリアルの「優秀さ」に近いものに逆行する、なんてことはないのかな?

大室:今までの会議みたいに、空気読めるフォーマットになるには、5GというよりもスーパーVRくらいにならないと難しいと思う。

朝倉:5G程度じゃ、リモートのフォーマットはそんなに変わらないだろうと。

大室:おそらく、会議の「ある一言によってみんなの顔色が変わる」という反応は、相当な情報量がやりとりされているんだよ。画面上のみんなの顔に「空気」と呼べるレベルの情報量を伝えるのは難しいと思う。

動画と写真の情報量が全然違うように。逆にいうと、相当な情報量を処理しているから、「空気読む人」がこれまでの会議を制していた。多分、その強みはリモートでは使えなくなる。5Gでもまだ無理だな。進化したVRまでいったら違うかもしれないけど。

朝倉:落語とバラエティでフォーマットが異なれば活躍する人も違うように、リモートワーク前提時代になれば、「優秀」とされる人も変わってくるし、評価されるビジネスパーソンもまた変わってくるんじゃないかということですね。

本稿はVoicyでの「論語と算盤と私とVoicy」の放送に加筆修正した内容です。
(ライター:ふじねまゆこ  編集:代 麻理子)

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朝倉です。兵庫県西宮市出身。シニフィアンという会社の代表を務めています。完全不定期。スタートアップ関連の話題や、全く得るもののない産業医との雑談を、忘れた頃にポストしています。

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