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a piece of conversation

「海が見えたよ.」
「そう,それで?」
「ひどいな,冷たいじゃないか.」
「見えても見えなくても,あるということが重要なんでしょう?」
「うーん,たしかにそうかも知れない.でも,この目で見たものが全てなんだ.それ以外は頭の中なんだ.それは無いのと同じだ.」
「達観してるのね.」
「君もね.笑」

「確かにそこにあった気がするんだ.けど見つからないんだ.いつも其処に置いておいたはずなんだけど,すぐいなくなってしまう.悪い魔女がきっと悪さをしたんだって思って,交渉を持ちかけてみようかな.」
「悪い魔女じゃなくてさ,きっと寂しがりの魔女なんだよ.だから,手を差し伸ばしてみたら,仲良くなれるんじゃない?」
「魔女と仲良くなれたら,僕は次にどうしようかな.」
「美味しいコーヒーの入れ方でも教えてもらえば?」
「そうだね.そしたら君にもごちそうするよ.」

「記憶に蓋をすることで,かなり多く物が落ち着いていくんだ.そうすると,笑えるようになるし,人に怒ることもしなくてすむ.記憶の蓋はどうしてか,夜によく開く.蓋が開いたら,もう止まんないよ.だって,この部屋いっぱいに記憶の水が溢れて,水かさが増えていくのをこの目で見ながら,少しずつ溺れていくのを黙ってみているしか無い.」
「そこから私が救い出せるとでも思っているの?」
「うーん.いや,無理だと思う.でも,救い出してほしいとは願ってしまう.遠くの星に手を伸ばしてしまうのと同じようにね.僕たちってそういう生き物でしょ?」
「涙の海ってよく言うけど,涙が流れ出た後ってすごく穏やかなんだよね.だから,泣くことは悪くないと思っているの.涙の水で部屋が溢れてしまったら,それは窓を超えて海に流れ出て,私を遠くへ連れて行く.そこには優しく月が光っていて,水面にも写っていて,気付いたら穏やかに眠ってしまっている.もちろん,起きたとき泣いた後がくっきりと残ってしまっているから,化粧しないと外に出ることさえできないけど.笑  でも,あなたの場合は泣くのではなくて,過去に押し潰されてしまっているから,苦しいんだね.」
「うん.きっと苦しいんだと思う.でももう苦しいという感覚もよくわからないんだ.寂しいとも感じるし,そうなると突然眠れなくなるし,寝ないといけないのにさ.」
「次の日も仕事あるしね.」
「そうそう.だからなんでこの身体って24時間で生きているんだろうって思うよ.僕にはなにかを守るっていう責任はないから.つまりこの生命に責任を持つ必要がないから,ガソリンのようにカフェインを入れて,眠れない夜はどこか遠くの街のことを想像して時が経つのを待つ.これで命が朽ちてもきっと後悔はしないんだ.なぜかというと,」
「自分の生命に責任がないから,でしょ?」
「そう.まあ,こんな僕でもこの世界から消えたら,一時的には悲しんくれる人もいるだろう.」
「私とか?笑」
「あー.君はちゃんと悲しんでくれるんだね.笑  ありがとう.」
「棺桶には「捻くれ者へ」って題名の手紙でも入れておきます.笑」
「死んでも読みたくない...」

「そういえば,命の価値とかさ,生きている意味とかさ,ずっと考えているのって大変だよね.」
「急にどうしたの.笑」
「いや,なんか最近しんどくない?」
「あー.まあ確かにマスクもしてるし,前より呼吸しづらいかも.」
「笑  そういうことじゃないんだけど.笑  うん,みんながみんな誰かをどうにかして傷つけようとしてるように思えちゃうんだよね.善悪を明確にしようとしてるというか.人なんてさぁ,その時その時で答えとか考えとか変わっていくじゃない?まあ,僕はそうならないように結構意識するようにしてるんだけどさ.」
「頭かちこち?」
「うーん.笑  いや,凝り固まったらそれはそれでもう終わりだから,いろんな立場の人達のそれぞれの考えとかさ,あるじゃん?自分だけだとやっぱり偏ってしまうから,想像するわけじゃない?ま,想像でも,こう限界があるんだけど,しないよりましというか.で,そう考えていくとさ,どうしても善悪だけで判断しきれないことって沢山あると思うんだよ.」
「うん,そうね.正義の反対はもう一つの正義とか言うもんね.」
「そうそう.もちろん明確に良くないことっていうのも沢山あって.でも,それでもやっぱり「これは悪だ」って僕には言い切れないことの方が多いよ,多いなーって思って,話すのが難しいというか,誰かと話したいというか.結局自分から離れた意見とか考えっていうのを自分にぶつけてみて,自分との距離,を,図...る.このときに,自分の考えっていうのが,こう,なんていうんだろ.」
「モヤモヤした部分がはっきりする?」
「そうそう!それで,きちんと自分の考えがわかっていくっていうか.だからさ,「これは悪だ」って言い切る前に沢山いろんな人と話さないといけないと思うんだよね.それまでは言い切れない.というか永遠言い切れない.正しさなんて不確かなんだし.」
「でもこれだけは言えるよ?ここのモンブランは美味しい.」
「あと,ここのコーヒーもね.」
「笑.」
「笑.」

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