マルセル・デュシャンについて⑤ - 「込み上がる笑い」という、新たなユーモア
今回は、前回お伝えしたように、彼の作品のユーモアについて。
前回までは、彼が作品に込めた意図についての話が中心だったが、今回は、私が彼の作品に対して感じるユーモアについて語ってみる。また、そのユーモアを表現しようと制作した私の作品についても語ってみようと思う。
非常に主観的な内容になることを、先にお伝えしておきたい。
「頭をハンマーでぶん殴られたようなショック」の後には、必ず新しいユーモアがある
「感想が出てこない...これは一体何なんだ。」
何かを目にしたときに、こうなることはないだろうか。頭が働きを失った状態になっており、目を見開いたまま、リアクションができない。頭をハンマーでぶん殴られたような、ショック状態になっている。何も理解できない。それは、自分の知らない価値観の中で表現されたものだからであり、自分の持つ価値観の中では理解ができないからである。「手も足も出ない感覚」と言えば、伝わりやすいだろうか。
しかし、その理解できなかった芸術は、時間とともに感覚に染み込んでくる。なぜか、少しの笑いがこみ上げるようになるのだ。やがて「この笑いはどこから来るのだろう?」「なぜ面白いのだろう?」と考え始め、「謎のユーモア」なるものを感じ始め、やっと少しずつだが言語化できるようになる。
まさに、デュシャンがそうだった。
もちろん今も、デュシャンについて完璧な言語化などできるはずがない。私はデュシャンの研究者でもない素人だし、そもそも解釈を拒んだ芸術家であるデュシャンを完全に理解するものもいないのだが。
まあ、初めは誰もが「不感症」なのだろう。芸術に触れたことがない状態では、価値観の持ちようもないので、芸術の良さは理解できないからだ。しかし、様々な芸術に触れるうち、自分の「感じる部分」が「開発」されていき、芸術が少しずつ面白くなっていくのだと思っている。
時間をかけて"ゴミ"を制作した
私は、デュシャンのユーモアに憧れた。
上述のような「感想が出てこないけど、時間が経つと笑いがこみ上げるようなユーモア」を私は表現したかった。すでにコンセプチュアルアートが存在するこの時代に、私にはそれを創り出すことは当然できないのだが、せめてそのユーモアだけでも表現しようと考えた。
もう少し言えば、ふざけたかった。真面目に、具合の悪くなるような、それでいて楽しいものが作りたいと思った。常識や見えないルールに縛られた社会に対する吐き気と、その常識やルールを嘲笑したい気分をブレンドした何かを表現したかった。
▲Recepe No.1(レシピ No.1)
私が制作したもの。楽しくもクソ作品だ。6コマ構成だと、丁度よく展開できる。
この時、私には「時間をかけてゴミを制作する」というテーマがあった。汚くて具合の悪くなるものを、丁寧に制作することにおける無駄さ。また言い方を変えれば、「ゴミの制作に時間をかける」という贅沢さ。そこに対して「地味に込み上がる笑い」という面白さがあった。
また、私なりに、商業主義から逃れる意図があったように思う。いかにも「誰も欲しくないもの」「誰も飾りたくないもの」というものを作る必要があると感じていた。
こういう思想を具現化するのは、本当に楽しいものだ。「♪」が頭の上を飛びまくっているような感覚だ。まさに作業をしている時は、時間が数時間単位で飛ぶのである。(まさにTime flies!)
さて、私はデュシャン作品のユーモアを、この作品を通して表現できたのだろうか。
制作された"ゴミ"の限界について
このようにして、私は"ゴミ"を制作した。しかし、残念だが、その"ゴミ"はゴミでなくなることがあるようだ。
ある日、職場で「休みの日は何しているの?」と聞かれたので、私は「よく絵を描きます」と言った。すると「へえ、どんなの?」と興味を持ってくれたので、作品を見せてみた。すると、彼女は驚くべきことを言った。
「私、これ買いたいわ!」
あの時のショックは、忘れることができない。一瞬、言葉を失った。商業主義に巻き込まれたのを悟った瞬間だった。自信を持って"ゴミ"を制作したわけだが、人によってはそれは"ゴミ"だと判断されず、価値を持ってしまうことがあるのかと。もう少し言えば、「制作するという行為」がオリジナリティを生み、芸術として売買される可能性を生み、商業主義と結びついてしまうのか、と。
当然、彼女にこのショックを伝えることはできなかった。職場で突然私の制作意図を説明し、商業主義批判を始めるわけにはいかなかったからだ。(余談だが、私の作風だと、職場でさらっと作品を見せるのは困難だ笑。「お前、頭大丈夫か?」と言われかねない!)
"ゴミ"の制作には、限界がある。だから、レディメイドはやっぱり偉大だ。「商業主義の完全なる拒絶」を達成しているから。
・・・
今回は、ここまで!
続けて読んで下さっている方もいらっしゃるようで、大変嬉しく思います。
次回は最終回です。近々アップさせて頂きます。
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