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緒方貴臣監督ワークショップ 参加後レポート 【映画の「嘘」と演技の「リアリティ」】

初めまして!
長谷川穣ハセガワジョウと申します。

普段は役者をしつつ、
最近は縁あって緒方貴臣監督の事務周りのお手伝いをしています。

4月15,16日緒方貴臣おがたたかおみ監督による映画演技ワークショップ」
都内で行われ、23名の方にご参加いただきました。

僕はそこで、シネマプランナーズへの告知や
参加者の方々とのメールなど運営として関わっていました。

また、ありがたいことに演者としても参加させていただき、
今回はその振り返りとなります。

こういった文章を書くのは初めてですが、よろしくお願いします。

はじめに

今回、ワークショップを開催してくださった緒方監督、
そして参加してくださった皆さま、本当にありがとうございました


皆さまのおかげで無事に2日間終えられ、
両日とも充実したワークショップとなりました。

ここからは当日のワークの流れに沿って、
感じたこと、勉強になったことを振り返っていきます。

ワークショップの内容

前半は参加者同士のコミュニケーションを兼ねた「他己紹介」
皆さんの緊張がほぐれ、プロフィールの改善法についても話し合える空間となりました。

中盤は、ある映画のワンシーンから「映画の嘘」について考えました。

後半は、実際の映画脚本を中心に「演技ワーク」を行いました。
その場で監督からディレクションをもらい、
リアリティのある演技に何が必要か、向き合うことができました。

終了後も、演技の技術を高めていくためにすべきことを教えていただき、
全員のモチベーションにつながったと思います。

全体としては、このような流れでした。
それでは一つ一つ見ていきましょう。

1.他己紹介

最初は自己紹介…ではありません。

2人1組で組んだペアの相手を紹介するワークで、
いわゆるシアターゲームに近いです。

「名前」「趣味」「役者を目指したきっかけ」
「影響を受けた人物」「生きている内にやりたいこと」など
10個の質問を相手にする。
それを1分半にまとめて、他の参加者に紹介するといったものでした。

ここでのポイントは
「名前は〇〇さん。趣味は××。役者を目指したきっかけは……」
のような、ただの情報の羅列にしてはいけないということです。

例えば
「趣味は××で、これが今の仕事に生かされており…」だとか
「このエピソードに表れている、△△な性格だから…をしている」のように
ストーリー性を持たせたり、自分の感想を合間に挟んだりして
紹介していくことが大事でした。

これは、後に出てくる「役の背景を考える」に活きてくる話だと思います。

また、この他己紹介では
最初の質問の段階で「相手の話を聴く」ことも大切でした。
「相手の演技を受ける」という、
演技の基礎:コミュニケーションのエンジンをかける意図もあったのです。

緒方さんの思惑通り
ただの自己紹介よりも盛り上がり、参加者同士の緊張もほぐれました。

1.5. プロフィール

さらに、プロフィールについても個々人に対して
監督からアドバイスをいただきました。

シンプルにまとめると、
「見辛い、地味なものは中身を見る前に弾かれてしまうから、もっと丁寧に作りましょう」
といった感じです。

具体的には

  • 1枚目に全身/バストアップ両方の明瞭な宣材写真を載せる

  • アピールできる大事な作品は目立たせる

  • 監督名や作品、役の情報をパッと見で分かりやすくする

  • 資料映像のリンクを載せる (可能ならQRコードにする)

などがポイントで、
オーディションで選ぶ側からの貴重な意見がもらえました。

2.映画鑑賞

次は、緒方さんのチョイスした二作品のワンシーンを観ました。

1925年の『戦艦ポチョムキン』の「オデッサの階段」と、
その20年前に撮られたニュース映像「ロシアにおける革命」です。

「オデッサの階段」は様々な作品でオマージュされるほど、
後世に影響を与えた有名なシーンです。

この二作品は、同じ出来事を取り扱っているのに受ける印象が大きく変わっています。

「ロシアにおける革命」は
引きの画で長回しが中心、
上手下手の舞台を観客視点から撮っただけのものになっています。

一方『戦艦ポチョムキン』では
表情や行き交う人々のアップの画が取り入れられ、
場面の合間にそれらの画が挟まり、カメラも流動的でした。
これにより、出来事の臨場感が増し「映画らしく」なっていました。

簡略化した説明ですが、これがモンタージュ技法というもので、
別々に撮影した異なる場面のシーンを繋ぎ合わすことで、
緊迫感などを表現する手法なのです。

これが撮影と編集による「映画の嘘」で、
『戦艦ポチョムキン』で確立されたこの技法によって、
製作者による意味付けが行われるようになり
映画そのものが発展したと言われています。

緒方さんは、
モンタージュ技法が現在では主流になったことを逆手にとり、
長回しの引きの画を効果的に使うことで
独特なリアリティを生み出しているのですね。

3.シーンを演じる①

後半から、いよいよ演技のワークに入ります。
緒方さんの実作品の脚本からワンシーンを取り組みました。

主にチェックされたのは2点。

  • 役の「背景・バックグラウンド」をどこまで作れているか

  • 役の「目的」「障害」「行動」を考えて取り組めているか

どちらも演技をする上で基本となる大事な部分ですが、
意外と見落としがちになることが多いのではないかと思います。

背景とは
「whenいつ・whereどこで・who誰が・what何を/何が(起こったか)」の
4つのW
のことです。

役に与えられたこれらの状況を明確にすることで、
役の人生を自分ごととして感じられるようになり
感情が自然と浮かびがってくるようになります。

目的は
「(これから)なんのために行動するのか」
障害は
「目的の実現を邪魔し、葛藤を生み出すものが何であるか」
行動は
「障害に打ち勝ち、目的を達成するために何をするか」
のことです。

これらの積み重ねによって
役と演技は明確になっていきます。

「背景」「目的・障害・行動」はどちらも、
台本のセリフやト書き、柱書きにヒントがあります。
それをどこまで読み解き、
リアルに感じられるように持ってくるかがポイントとなりました。

説明は、鴻上尚志さんの『演技と演出のレッスン』から
引用させていただきました。
(スタニスラフスキー・システムをベースにした演技の解説本で、
上記について丁寧な解説があります)

緒方さんは他の演技技術についても触れられていましたが、
色々学んだ上で自分に合うものを取り入れていってほしいとのことです。

4.二言エチュード

A「ごめん」
B「ありがとう」
の二言のみのシーンをペアで考えてもらいました。

ここでも、先ほどの「背景」「目的・障害・行動」がポイントでした。

最初の「ごめん」に、2人の過去・関係が透けて見えるのが重要で、
その場の状況的な単なる「ごめん」ではダメだったのです。

やはり、背景や目的を精巧に考えられたペアのシーンは
観ていてスッと理解でき面白かったです。

5.シーンを演じる②

最後に、先ほどとは別のシーンをやりました。

ここまでのワークで培われたものが活かされ、
演技が良くなったと言われた方が多かったです。

また、演技中の「自意識」を振り払う方法についても共有しました。

他人から見られることで生まれる不安や気持ちの乱れが「自意識」です。

これをコントロールするためには
・自分の内面や目の前の対象に集中している時の精神状態になる
「背景」を鮮明にし、そこに意識を向ける
「目的」と「障害」を良いバランスでぶつける
といった方法があります。

鴻上尚志『演技と演出のレッスン』

結局、大事なポイントはつながってくるのだと感じました。

終わりの言葉

初めて演技に触れた人もいれば、
すでに長年演技の勉強を続けているベテランもいる、
双方に気付きを与えてくれる素晴らしいワークショップでした。

また、ワークショップの後に個人的に監督と話すことができたり、
『子宮に沈める』や『飢えたライオン』の裏話も聞けたり、
距離の近い和やかなレッスンになりました。


演技の基礎について監督から語られることは珍しいかと思います。

魅力的に映る優れた俳優でいるためには
基礎を疎かにせず、
脚本と作者の意図を心と身体で表現できるように
演技の技術を磨いていくことが必要
なのだと思い知らされました。

また、「10000時間の法則」も話題にあがりました。

スポーツでも音楽でも、
プロになるには10000時間が必要だと言われている話です。
1日5時間としても2000日…およそ5年半かかります。

演技の技術を高めることに対して
自分がどれくらい時間を割けているのか、見直さなければと痛感しました。

先進国の中で俳優に免許制度がないのは日本くらいなのもので、
イギリスや韓国とは大きく演技力の差が開いてしまっています。

高みを目指して、取り組んでいきましょう。

そんな勉強の具体例として、
「台本を読む機会を意識的に増やすこと」を提案していただました。

『月刊シナリオ』などで名作の台本を入手し、
自分なりの「背景」「目的・障害・行動」を考えます。
それから映画本編を観て、自分との違いを確認していく、というものです。

月刊「シナリオ」(@gekkanscenario)さん / Twitter

テストを受けてすぐに問題の答えを知れるような、
素晴らしいテクニックです。

そこから慣れてきたら
映画自体のテーマやシーンごとの意味、対立構造などに
目を向けていってほしい、とのことでした。

まとめ

特に大事だったのは以下の3点かと思います。

映画の「嘘」を理解し、演技の「リアリティ」を高める
・そのために、役の「背景」「目的・障害・行動」を読解して臨む
台本を読む機会を意識的に増やし、勉強を継続する

これら3つの鉄則を守って俳優として経験を積んでいきたいですね。

最後に

大変長くなってしまいましたが、読んでいただきありがとうございました!

参加された方の演技を観られたこと、
一緒に演技できたこと、
監督の演出を受けられたこと、
演技・脚本の読み方の勉強法を知れたこと、
参加された方と繋がりができたこと、
などなど様々な成果がありました。

半分運営、半分参加者といった状態で、
少し遠慮したり思い切りがでなかったりしてしまいましたが、
本当に参加できて良かったです。

何より開催してくださった緒方監督と、
今回参加してくださった皆さま、
改めて本当にありがとうございました!

皆さまもワークショップの感想など発信していただけると幸いです。
次回は6~7月頃を目標に準備を進めています!
開催する折には、何卒よろしくお願い致します。

それでは!

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