前向きなドレッシング
雨はきらいじゃないのに急に蒸すようになったせいか四六時中ざわざわと苛立つ。たいした気温じゃないのに汗をかくのがふしぎ。暑くないのに、と思ってじぶんの腕をさわるとひんやりしていて気持ち悪い。
バスタブをたくさんの泡で満たすとすこしだけ楽しいことを知っているので実践する。新宿のLUSHで買った、アメリカのティーンエイジャーが見る悪夢みたいな色形のバスボムを大胆に湯船に突っ込む。シャワーをかけるともこもこもこと膨らんでいくのでぼんやり眺めて満足する。ねるねるねるねとか、奇妙な色で勝手に膨らんでいくものが好き。
6月にはいってから物価が明らかに高く、コンビニでちょっとお昼でも、と思っても油断していると平気で800円くらい超えてしまうので落ち込む。そんなんだったら適当な定食屋にでも入ればよかったものを。訪問先から一緒に帰社する電車のなかで後輩から、「うちの給料で一人暮らしって普通に無理じゃないすか?」と問われて答えに窮してしまう。そうだよね。じめじめした閉塞感を背後で感じながらも逃げ切っているふりをしている、いつまでも甘ったれていると服の裾から燃えていく。いい社会にしたいと思っているよ、こどもたちを含む、自分より年下のひとには楽しく生きてほしい。
いらいらするのは野菜が足りないんだろうと自己解釈してスーパーへ行く。野菜も安くはないがそう多く食べるわけじゃないからまだマシだ。ピピピとセルフレジで会計をして袋に荷物をつめていると、脇でおばあさんがぶつぶつ言いながら、チラシの束から1枚抜き取るのに四苦八苦していたので取りましょうかと言って取ってやる。ぼそぼそと世間話をする。遅い時間のスーパーっていいものなんにも売ってなくてやんなっちゃうわよねとぼやいていた。やっぱり開店直後がいちばんいいですよ、じゃおやすみなさいねと交わして去る。
重たい湿気のまとわりつく帰路をだらだらと歩きながら、わたしは先月土曜の朝いちばんのスーパーで見かけた、うつくしい前出し陳列のことを思った。パンも野菜もスナック菓子の袋類にドレッシングの小瓶まで、すべてが均等にぴしりと正面を向いて整列しているさまに、スーパーの口開けの瞬間とはかくも見事なのだと感動したのだ。あれを整える朝一番のシフトの人になりたいな。きれいに並べ終えたらさいご、お客さんがそれを崩していくのを見てまたいらいらしてしまいそうだけれど……。
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久しぶりに近況を書きました。
これまでのお仕事などこちらにまとめています。
6月27日発売のクイックジャパン、短いエッセイを寄稿しています。
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