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キャリアコンサルタントに共感性は必要か

キャリアコンサルタントに必要な態度、姿勢というもののひとつに共感があります。共感はさまざまな領域で扱われますが、ここでは心理学的側面から考えてみます。

共感というワードについて調べてみても、その定義を見つけることはとても難しいものです。心理学では大きく二つにわけられますが、ひとつは、「相手の感情を理解すること」で、もうひとつは「相手の感情と同じように自分も感じること」です。

【共感とラポール形成】


キャリアコンサルティングプロセスの初期においてクライアントとのラポール形成、すなわち信頼関係の構築が重要です。クライアントからすれば、キャリアコンサルタントがどのような人なのかという大きな不安を抱いています。クライアントに安心して自分のことを話してもらうためには、クライアントとの信頼性構築が重要になってきます。いわば、クライアントにキャリアコンサルタントを信頼してもらうということですね。

では、どのように信頼してもらうかといえば、「こちらはあなたの味方ですよ」ということをわかってもらう必要があります。そのためにはどうすればいいか。それは、クライアントの話に誠実な態度で真摯に耳を傾け(傾聴)、その話に理解を示し、相手の苦痛を理解する必要があります。つまり、「相手の感情を理解すること」⇒共感的理解 と、「相手の感情と同じように自分も感じること」⇒共感的苦痛だと言えます。

穿った見方をすれば、クライアントの話に真摯に耳を傾けていても、キャリアコンサルタントは必ずしもその話に共感しているかといえば、そうとは言い切れないと私は思います。キャリアコンサルティングにかかわらず、私たちは日常の会話で、他人の話を聞いている間に次は自分は何を話そうかと考えているものです。実際に私もそういうことがあります。キャリアコンサルタントは聖人君子ではありません。共感性を育むことはそれだけ難しいものだと思われます。


【キャリアコンサルタントにとっての共感性】


キャリアコンサルタントにとって、共感性はクライアントとの関係構築においてひとつの生命線だと言えます。しかしながら、共感性がキャリアコンサルタントの良し悪しとしての判断ができるかといえば、必ずしもそうとは言い切れません。それは、共感性はあくまでラポール形成において特に重要だからです。別の言い方をすれば、クライアントとの関係構築が盤石なものとなれば、むしろ共感性よりも別の要素が重要になってくると思われるからです。




クライアントの立場から考えてみます。クライアントが初めて相談に訪れる際にはさまざまな不安を抱いています。「話をしっかり聴いてくれるだろうか」「自分のことを理解してくれるだろうか」「自分のことを認めてくれるだろうか」さまざまな不安に苛まれています。そのような状況では特にクライアントに共感することがとても重要になってきます。

そういう土台があって初めて「この人ならわかってくれる」という安心感につながります。そのために必要なこととして、クライアントから「そうなんです」をいかに引き出すかです。クライアントの話を聴いて、「そうなんですね」「わかります」「辛かったですね」などと返しても、クライアントの信頼をえることはできません。それは共感とは言えません。クライアントは探りを入れているに過ぎないと思います。それでキャリアコンサルタントの態度を見極めようとしていると思われます。

さらにそのもう一歩先に進むにはどうすればいいか。それはクライアントの話を聴いて、例えば確認とか自分の解釈とか要約としてクライアントに返すことです。「それは○○ということですね」「あなたは○○だと理解したのですね」「それはつまり○○だということですか」などと返すことによって、またクライアントの反応をみるのです。クライアントが、「いや○○というよりも▢▢です」とか、「いや、というよりも△△のようなことです」などと返ってくると、クライアントの内面世界がより鮮明になってきます。その先にクライアントの「そうです、そうなんです!」という力強い言葉が返ってくるのです。そうなってくると、クライアントとの関係性はより盤石なものに近づいていると言えます。


【共感的苦痛と向社会的行動】


キャリアコンサルティングにおいて、確かに共感性は重要です。しかし、それに囚われるあまり、結局はクライアントのことを観ようとせず、クライアント自身を見失ってしまう恐れにつながると思います。

向社会的行動という言葉があります。向社会性というのは、社会に、環境にとって好ましい行動のことを言います。クライアントに対しての支援の姿勢もそれにあたります。私たち人間には、利己性と利他性が備わっています。自分のためと他人のためということですね。この向社会性はなかなか認知されにくいように思います。

そもそも、キャリアコンサルティングは向社会的行動と言えるのでしょうか。あくまで仕事、業務としての側面もあります。また、キャリアコンサルタントそれぞれの力量の差もあります。向社会的行動に先立つものとして共感的苦痛が存在すると言われています。しかし、すべてのキャリアコンサルタントにこのような向社会性が備わっているのでしょうか。キャリアコンサルタントによって、「共感しているようにみせている」こともあるかもしれません。いや、それもひとつのスキルかもしれません。現にそうすることでクライアントとのラポール形成をしていることもあるかもしれません。




【キャリアコンサルタントに共感性は必要か】


キャリアコンサルタントにとって共感性は必要かどうかといえば、それは必要だと言うしかありません。しかし、キャリアコンサルタントに必要な要素として、それは共感性だけではありません。特に、コンサルティングの後期においては共感性よりも別の要素が重要になってきます。そのため、キャリアコンサルタントに必要な素養は画一的ではないということです。

キャリアコンサルタントにもさまざまな人がいて力量もさまざまです。中には、キャリアコンサルティングがうまくいかないことの責任をクライアントに転嫁してしまう人もいるかもしれません。キャリアコンサルティングがうまくいかない原因を、キャリアコンサルタントである自分の力量やプロセスの進め方に帰属するのではなく、クライアントの特性や態度、行動に原因を帰属させ、責任をクライアント自身に転嫁させてしまうということです。そうすることによって、キャリアコンサルタントである自分の自尊心を保つことができます。支援の場ではそういうこともあるのではないかと私は思います。

そういうことをクライアントの立場からして見極めるのはほぼ不可能と言えるでしょう。クライアントは通常の精神状態で相談にはやってきません。通常の判断能力が難しい状態で相談にきます。そういう人に対して、たとえバックヤードであっても、クライアントを貶めるような責任転嫁な行動はあってはなりません。

しかし、キャリアコンサルタントも感情を有している弱い人間です。聖人君子ではありません。しかし、それを言い訳にはできません。



ここまで、キャリアコンサルタントにとっての共感性について考えてみました。このようなことは、キャリアコンサルタントでなくても、ひとりの人間として考えるに値するものだと言えます。ここまでお読みいただけたなら、今一度、当たり前のことかもしれませんが、共感性とか向社会的行動とか利他性について考えてみてください。それをぜひ、アウトプットとして他の人に話してみてください、そうすることで、さらに自分の理解が深まると思います。



今回はここまです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また次回もよろしくお願いいたします。

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