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内省すること、自分を知ることから看護が始まる

看護コーチは、看護とコーチングを実践する中で、患者・その家族・チームメンバー・他職種のスタッフ・地域の人々・その他関わる全ての人々がその人らしく輝いて生きるための支援をしています。
看護コーチトレーニングを卒業し、その後「認定看護コーチ」となった看護師の皆さんの日々の輝きを紹介することで、やっぱり看護っていいな、看護コーチングっていいなと思う瞬間をインタビューを通してたくさん見つけていきたいと思います。


高井怜さん(以下れいさん)は病棟看護、旅人、大学教員を経験ののち、現在フリーランスで活動されています。看護師になったきっかけは、青年海外協力隊に行きたかったことと、お母様が長く病気があったこと。
知らず知らずのうちに、母親を元気づける存在でありたいなと思ってたの。一人っ子で母子家庭だったの。親ひとり子一人で、母親は入退院繰り返していて、いつ死ぬかわからない。だから、明るくて元気で前向きで、母を助ける、そんな存在になりたいなって思ってたんだよね。
そう語る れいさんの心には今もお母様を大切に思う気持ちがあたたかく灯っているような気がしました。
現在は自由にどんどんやりたいことに突き進んでいる、超パワフルな看護コーチです。


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高井怜
旅人看護コーチ
精神科の病棟看護師ののち、
世界を旅してまわる
その後大学教員を務め
現在はフリーランスとして活躍している


【患者さんにブチギレてしまった一年目】

(奈津美)れいさんが看護師になってから思い出に残っているエピソードはどんなことですか?

(れいさん)精神科でね~、いろんなことがあったけど、みんな病気だなって思ったの。自分も含めて、人間っていうのは病んでる部分がみんなあんのよ。で、たまたまその病気になるタイミングの時に、周りに助けを求められる人がいたか いなかったかで、病気になるか、もしくはそのまま踏みとどまれるかの違いだなと思ったの。
精神科一年目の時に、僕はある患者さんが基本時に苦手だったの。ある時ナースステーションの中で、苦手な患者さんと、他の患者さんの間でいざこざがあって、殴り合いのけんかになったの。その時患者さんに「お前看護師なのにけんかも止められないなら、看護師やめちまえ!」って怒鳴られて、患者さんにブチギレちゃったんだよね。その話を主任さんに話したら、二つ提案されたのね。その患者さんにもっと関われっていうのと、なんで自分がその人のことをそんなに苦手なのか、自分の心の中に理由があるから考えてごらんって。行きたくないよ、患者さんが嫌だよっていう話をしてるのに、真逆のこと言われて何なんだろうと思ったけど、主任さんの言うことは絶対だったから、わかりましたっていって患者さんのところに行ったの。そしたら患者さんケロッとしてんの。一昨日のこと全然気にもしてなくて、「おー、高井くーん、この音楽きくー?」とかいって、イヤホンを片方かしてくれて。イライラして怒ってたのは自分だけだったことに気づいたの。この患者さん全然怒ってないなと思ったの。なんでこんなに俺ばっかり怒ってたんだろうなと思ったの。
もう少し自分の中に原因を考えなさいっても言われたから、しばらく考えて。一週間くらいして また主任さんと話す機会があって、言葉にするのは難しかったけど自分の思っていることを話してみたの。
自分が嫌だと思っている患者さんの一面って、自分にもある。相手に高圧的にかかわったり、偉そうにしたり、周りをコントロールしようとしたり。そういうのって自分もあるから、彼の姿を見て、そういう自分の嫌いなところを投影してた。それに気づいたんだってことを話したの。
それを聴いた主任さんは、ニヤッと笑ったの。主任さんは全部分かったうえで自分で気づいて言葉にするのを待ってたんだよね。その主任さんのニヤッと笑った顔が思い出深かったなあ。
それから、精神科での一番の仕事は自分を内省することなんだなあって気づいて、自分ていう人間がどういう人間かっていうのを知らないと、自分が人にどういう影響を与えているのかってわからないし、自分との距離感がわからなくなっちゃうから。自分の持つキャラクターだったり、いいとこわるいとこちゃんと踏まえたうえで関わること、内省することが精神科看護なんだなあって。


(奈津美)精神看護って奥が深いですね…。自分もハッとさせられるところがあります。


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【学生の気持ちに寄り添うこと】

(奈津美)その後はどんな看護人生だったのですか?

(れいさん)そのあと、世界中旅して日本に帰ってきて、大学院も卒業した後に、違う畑で働いてみようかなと思って、大学で10年間働いたんだよね。でも8年目である一人の学生にものすごく嫌われたの。なんでこんなにうまくいかなかったのか、ちゃんと振り返る必要があるなあと思ってコーチングとかファシリテーションとかコミュニケーションの研修を受け始めた。そこで気づいたのが、自分のファウンデーション(自己基盤)が整ってなかったってこと。学生は初めての実習ですごく不安で緊張もしてて、勉強も追いつけないかもしれないって自己肯定感も低い中で実習してんのに、彼女の不安な気持ちにはこれっぽっちもフォーカスを当てていなかったの。だって、自分のことで精いっぱいで余裕がなかったから。自分はこんなにも自分の気持ちに向きあえてなかったんだなって。自分を整えることが人と接するうえで大事なんだなあってことに気づいて、タスク減らしたし、お腹すいたとかトイレ行きたいとか眠いとか自分の身体的なニーズを満たすことをしたし、そうしていくと自分の気持ちにも余裕が出て穏やかにいろんな学生と関われるようになった。
すごく学びとして深いなあと思って、さらに学ぼうと思ってNCTにも参加したの。

(奈津美)学生さんがきっかけとなってコーチングの世界にということですね~!

(れいさん)今となれば、その学生に感謝だよね、いいきっかけをもらったなと思って。

(奈津美)どんなエピソードがあったんですか?

(れいさん)その学生は、日に日に表情が硬くなっていくんだよ。いつもと同じように指導しているのにどんどんどんどんブスーッとしていくんだよね、記録も添削して返してるのに、ブスーっとしてて、何も言わないんだよね。で、あるとき、申し送り終わった後に振り返りをしたら、怒ってボロボロ泣きながら学校に帰ろうとするの。何があったの?ってびっくりして。学校へ帰った後で、さっきの怒った態度ちょっと心外だったんだけど、なんだったの?ってきいたら、「こっちは一生懸命やってんのに全然わかってくれないし、ダメ出ししかしないじゃないですか」って。
でもその時は、あー、この子欲しがり屋さんなんだなって思っちゃったんだよね。頑張ってるのかもしれないけど、結果がついて行ってないんだから、承認を欲しがるのはまだ早いんじゃね?っていう発想しかできなくて。今思えば、彼女だって一歩ずつ進んでいたのだから、昨日に比べて成長してるよっていう一言だったり、そういう視点っていうのがあったらよかったんだけど、当時の俺にはそういう気持ちはなかったの。

(奈津美)学生にとってもれいさんにとっても苦しい体験にきこえますね。看護コーチになったれいさんがその子の前に現れることができるとしたらどんな関りをしたいですか?

(れいさん)昨日に比べてこんなに進んでるんじゃない!わかんないところがあったら一緒にやろうよ!大丈夫だよ!ってたくさん承認の言葉をかけるかな。

(奈津美)うーん!その時れいさんが大切にしていることってどんなことなんですか?

(れいさん)いいところ伝えたいよね。患者さんと関わるときこんな風にしてたね、それすごくいいと思うよ!って。メンバーと話してる時の視点がとてもよかったよとか。
いいな、すてきだなと思う行動もちゃんと伝えないと、相手はそれがいい行動だったんだって案外気づかないんだよね。これはいい行動だよってことを行動承認してあげて、実習で緊張したり自己肯定感が下がっている学生に寄り添いながら、やる気をアップさせてあげること、これは意識したいな。

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【コーチであるということ】

(奈津美)れいさんは、コーチングのことを話すときにマインドが一番大切だっていうじゃないですか。そのれいさんの大切にしているコーチングマインドってどういうものなんですか?

(れいさん)まず、自分自身がオープンであることが前提だなと思ってて。「嫌い!」っていう態度をとられたとして、相手が自分に対して心をピシッと閉じていても、それに対して自分もピシッと心を閉ざすのは違う。人と接するうえで自分は常にオープンでありたいなと思ってて。今、仕事をしていて攻撃的な対応を受けることもあるけど、それはそれとして、私は相手に対してオープンであるようにしている。2つ目は相手に興味・関心・好奇心を持つこと。それに、自分が相手のことをもっと知りたい、話を聴きたいという気持ちを持つだけの余裕を常に持ち続けたいなと思って。自分の気持ちに余裕ないと相手に対して興味持てないの。自分が相手に対して興味を持っていると自然と質問も出るもん。その二つができていると大概相手との関係性築けていけて、人間関係も前よりめちゃめちゃよくなったんだよね。

(奈津美)いいですね~。れいさんにとって看護コーチとは?

(れいさん)あり方かな。生き方というか、マインド。コーチングで大事にしているその精神を大事にしながら生きるってこと。看護師としてもコーチとしてもそうあり続けるっていうことかな。

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【インタビューを終えて

患者さんだけでなく、学生やスタッフ、人と深くかかわることの多い看護師こそ、自分を内省することが大切で、自分自身の在り方を考えていく必要があるのかもしれません。私たち看護師は、患者さんの気持ちやニーズを考えることはかなり訓練されるけれど、自分自身をきちんと振り返ったり、自分を見つめなおすことを訓練されることが少なかった気がします。れいさんは様々な場面で自分と対話を重ねておられます。
れいさんはインタビューの後、「男性看護師の中にもっと看護コーチが増えて、男の子のなりたい職業のトップに看護師を入れるっていうのが目標」とも語ってくれました。看護師の世界ではまだまだ男性看護師が少なく、全体の1割ほどです。男性看護師も看護コーチもますます増えていくことで、看護の世界がますます明るく楽しく発展していくことが楽しみになりました。

インタビュアー:奈津美
救命病棟24時にあこがれて看護師になるも、その責任の重さからメンタルを崩し、1年で看護師を挫折。その後「自分のような新人看護師をつくりたくない」と病棟看護師へ再チャレンジ。もがいているうちに日本看護コーチ協会と出会い、認定看護コーチを取得。看護コーチングを通して、看護の楽しさや やりがいに気づき、たくさんの看護師の笑顔と幸せのため、現在は看護コーチ協会スタッフを務めながら、看護師兼メンタルコーチとして活動中

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