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Day2「ガバメントクラウドの中間報告を振り返る」 @ ガバメントクラウドについて考えるAdvent Calendar 2022

この記事は、ガバメントクラウドについて考える Advent Calendar 2022のDay2「ガバメントクラウドの中間報告を振り返る」となります。

※こちらの記事は基本的には公開情報を元にしていますが、個人的な妄想・意見も含まれておりますので、ご承知おきください。

このAdvent Calendarは、日々活動している中で課題として感じることなどをどこかで整理しなくてはいけないと思っていて、ちょうど良いタイミングだったので、全日自分が思うところを書くというスタイルにチャレンジして、どこまで続けられるかやってみたいと思います。
https://adventar.org/calendars/8293

以前、以下のツイートに多くのことをまとめてみたのですが、改めて整理していきます。

中間報告の振り返り

こちらで、先行事業8団体の「投資対効果検証の結果」が公開されています。これらを見ながら振り返っていきたいと思います。一旦、この結果が正しい前提で話を進めます。
https://www.digital.go.jp/news/ZYzU5DYY/

まず、概要をまとめますと、現行を継続した場合と、クラウドリフトした場合の費用感を比較されています。トータルコストでは、8団体中7団体がクラウドリフトした場合のほうがコストが上がるという結果になっています。が、これらのコスト比較については、いくつか見解が分かれているように感じます。それは分類されたコストのどのカテゴリで見ているかに依っていると考察しています。

基本的には、政府は運用コストが3割減を目指しているということです。以下の記事にも記載があります。

デジタル庁は霞が関DXの成果の1つとして、具体的な目標も掲げる。2020年度時点で5400億円かかっていた政府情報システムの保守運用費を2025年度までに3割削減するというものだ。「削った分を(霞が関DXの推進に)戦略的に投じる」とデジタル庁の浅岡孝充総括(特命)参事官は話す。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/nc/18/102700321/102700003/

最初のスライドを見ていただけるとわかりますが、ランニングコストの観点ではクラウドリフトのほうが安価になっているのは、8自治体中4自治体となり、結果として改善しているように見えます。このあたりの議論は非常に悩ましいです。削った分を霞が関DXに投資するということなんですが、保守運用費が安価になった分をイニシャルコストでかき消すどころかマイナスにしてしまっているので、投資に回す金額になっていないですし、クラウドリフトしたことで人材の有効活用や調達のライフサイクルなどの改善によって長期的にメリットが出るということであっても、その投資が利用できるようになるのは2025年度よりも更に先になります。

このあたり、どうしてトータルコストでなく、運用保守コストの3割削減という目標に設定されているのかがわかっていませんし、時期のロードマップとしても運用保守コストの3割削減のためにはトータルコストは上がっても構わないということになりかねません。

実際に以下の「政府情報システムの運用コスト削減にかかる取り組み結果(H25-R3)について」の資料を読んでみます。

https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/06ecbaa1-128e-4435-856d-591adb3369ea/03962f72/20221006_policies_development_management_outline_01.pdf

以下のスライドに書かれていますが、運用コストが2013年度が3800億円、2021年度が4200億円とされています。一旦見ると、400億円上がっているように見えます。実際には運用コストは1200億円削減されているけど、コスト削減とは直接関係がない要因による運用コストの増額が1700億円発生したので、400億円上がっているように見えるんだけどねという論理になっているようです。

このように運用コストの3割減というのは、運用コストが何なのか、どうコストを分類するかによって見え方が変わってしまいますし、投資という観点においては、結局投資できるお金が得られなければならないので、トータルコストで考えたほうが良いのではないかと思わざるを得ません。

コスト増になってしまう理由の考察

これらのコスト増の理由を、こちらの中間報告では3つの原因と分析しています。1つは、アプリケーションを単純クラウドリフトしたことで、クラウドネイティブなアプリケーションになっておらず、クラウドに最適化されていないため、従量課金のような使った分だけ支払いをするようなアーキテクチャになっていないということを挙げています。ちなみに今回は標準化の仕様書も整備されていない状況だったので、一旦今までのアプリケーションを変えずに(システムとしての設計・運用はクラウドに合わせて再設計されていると思いますが)、そのままリフトするしか方法がありませんでしたので、仕方ありません。

2つ目が、1700以上ある地方自治体のうち、8自治体しか先行事業をしていないので、アプリベンダー側がまとめて運用していないこともあり、運用コストの按分がされていないということが原因とされています。

3つ目が、20業務以外は引き続きオンプレミスやデータセンターに維持されつつ、20業務をガバメントクラウドに移行しようとしているので、既存のデータセンターへの回線に加えて、クラウドへのネットワークを敷設しなければならず、追加のネットワークコストが必要になっているというものです。加えて、ガバメントクラウド側とオンプレミス・データセンター側の連携や障害対応なども含めた統合運用事業者もしくはそれぞれの運用事業者をおいて連携させるといった体制を整える必要があり、両方に精通している業者や人材の確保にお金がかかるということになっています。

そのため、アプリケーションが今後クラウドネイティブ化されて、多くの自治体がガバメントクラウドに上がって業者による一括運用がされて、20業務以外の業務もガバメントクラウドに移行すれば、コストが下がるという分析結果になっているかと思います。

中間報告の分析に対する考察

クラウドネイティブ化については、昨日以下のように記事にて言及しているところがあるので、こちらをご覧いただいてからのほうが良いかもしれませんが、アプリケーションの標準化の方にリソースが大幅に取られているアプリケーション事業者がこのクラウドネイティブ化をするために、2025年度までにリソースを割けるかというところが問題になっていくかと思います。

また、果たしてクラウドネイティブ化をするモチベーションがどれだけあるかというところも課題感として有りそうです。2025年度までというスパンで考えた場合、各アプリケーション事業者は標準化対応に奔走することになり、自分の顧客以外の顧客を取りに行くほど余裕がないように見えます。この標準化の負荷が高く、標準化準拠を諦めるアプリケーション事業者が出ており、その穴を埋められない自治体もいらっしゃるくらいです。そのため、クラウドネイティブ化して安価にして競合に勝つモチベーションが、2025年度までという期間においては起きにくい状況にもあります。今までデータセンター事業もおこなっていて、ガバメントクラウドにその部分を奪われる形になった事業者が、クラウドネイティブ化により安価になったとしても、そのコストを単純に値引きに利用するかどうかも制御が難しいところだと思います。このような経営判断が求められる場面において、クラウドネイティブ化にするためのコストと人材投資が妥当と判断されるかも懐疑的です。

ガバメントクラウドを使う自治体が増えていけば按分効果が出るということについては、アプリケーションのアーキテクチャ次第かなと思います。他の日にまとめることになりますが、どんな利用方式で標準化されたアプリケーションを提供するかによって、按分効果の度合いが変わると思います。アプリ事業者がガバメントクラウド側にシステムをホストする共同利用方式の中でも、自治体ごとにテナントを作って都度システムを作る形を今までのアーキテクチャとすると、結局すべてのテナントを管理するので、今までと比べて大きな一括運用効果が出るかというと難しいかもしれません。であれば、テナント共有型と言われるような1テナントに複数自治体をホストするというやり方であれば、効果が上がりそうですが、こちらはアプリケーションのアーキテクチャを変更する必要があると思われ、標準化の負荷を踏まえた判断が必要になりそうです。

単独利用方式は、共同利用方式のテナント独立型と似ていて、一括運用しにくい代物と思います。顧客の要望によって、アプリケーション事業者がこれらの利用方式を複数整備しなければならなくなることも効果が出にくくなることが考えられるかもしれません。

最後が、ネットワークと運用コストの部分です。ここは元々20業務を対象とせよと言っていたのは国側であるはずなんですが、できるだけまとめたほうがネットワーク費用がかからず、運用もシンプルになるということを言っているように見えます。20業務以外をクラウドネイティブ化する余裕は流石にないでしょうから、20業務以外をガバメントクラウドに持っていく場合は、単純リフトになってしまい、今回の中間報告の結果通り、この分割がコスト圧迫をより生み出してしまう可能性があるところも厳しいところです。

実際、先行事業に参加している埼玉県美里町の件については、以下のようにニュースになっています。結果として、運用コストが1.9倍になっているという報道がされています。

その中でも通信回線費が1040万円から、6532万円と6倍に跳ね上がっているとされています。20業務以外のシステムはTKCさんのデータセンターにあり、20業務がガバメントクラウドにあるわけなので、当然の結果とも言えますし、中間報告の分析どおりです。いずれにせよ、先程の課題感が具体的な金額として出ている例になると思います。

今後どうするのかについては、以下がデジタル庁が公開しているコスト削減効果のステップになります。まず、この美里町の例で行けば、既に現在が①の現行環境でないことはこの記事でも記されています。それは、TKCさんによって、これらのシステムが170の自治体が利用できるように既にクラウド化がされていて最適化されているからです。そのため既に②に近しくなっていると言えます。

そのクラウドにある業務を分割してガバメントクラウドに移すということは、先の通り回線費用も運用費用も増えるのは必然と言えると思います。オンプレミスだとしても、庁内の共通基盤を作るなど、既に自治体の皆さんがかなり努力されて(予算がなかなか増やせないというのもあると思いますが)いて、だいぶコスト最適化しているように感じます。つまり、多くの自治体は既に①〜②の間くらいにいるのにも関わらず、クラウドを無理やり分割しようとしていることも、このコスト効果に反映されていない理由なのかもしれないと思います。

移行元がだいぶザルなオンプレミスとして想定すれば、もっと最適化の余地があるというのは間違いないと思うのですが、そこまでザルなオンプレミスになっておらず、庁内プライベートクラウドのような既に高度化されたものを利用しているケースが多いのだと思います。

運用においても、構築が不要なマネージドサービスとIaCを使えば、このスクリプトを実行すれば自治体のシステムがクラウド上にポンと自動的に作られるので楽になるので、アプリケーション事業者の構築も運用も簡素化され、コスト効果が出るということで推されているかと思うのですが、あくまでこのクラウド上のシステムだけであればそれで完結するということであって、結局20業務以外との連携もあるし、庁内のネットワークとの接続整合性もあるので、結局ネットワーク・運用という側面では双方の考慮が必要となるハイブリッドな運用体制を敷かざるを得ないと思います。20業務を言い出したのは政府側なので、ことガバメントクラウド移行という取り組みが余計なコストが嵩む手法を取ってしまっていることになります。元々20業務というのは、標準化を目指されて、現実的な対象(本当に現実的かどうかはさておき…)として設定されたものなので、ここにクラウドを絡ませてしまったことで生まれてしまった結果のように感じます。

ただ、じゃあ世の中の企業がこのような形のことで苦しんでいないかというとそうではなくて、システムのライフサイクルも違うので、このように順次移行するということは当たり前というか取らざるを得ない手法です。ここに運用コスト3割削減とかを入れてしまうのでおかしくなるのであり、ここはお金が掛かってもこの形に変えていけば将来的にコスト最適化が図れるとしていくであったり、標準化と同時期に推進しているのが、物事を難しくしているような気もします。

そもそも、マネージドサービスやIaCといったようなクラウドネイティブの形に移行できるのかについては、この記事にも言及があります。

ただ2025年度までの期限が迫るなか、現場では第2段階以降に力を割り振る余力は少なそうだ。TKCの井上伸システム開発本部副本部長は「期限までに移行させることが最優先課題」と話す。そのうえで「パッケージベンダーの責任としては、まずは標準準拠システムを提供し安定稼働することで、それをやったうえでどこまで(第2段階と第3段階を)できるかが課題だ」と続ける。

さて、これはどうしたものでしょうか。この中間報告の結果から、絶対にクラウドネイティブ化も含めて2025年度までに実施するというのを背水の陣で遂行していくのか、それとももう少し緩和策を考えてステップを経ていくのかについては、今後の動向を見守っていきましょう。

執筆後記

このようにガバメントクラウドを考えるAdvent Calendar 2022では、以下の流れで進んでいくことになると思いますので、Day2以降もお待ちいただければと思います。

  • ガバメントクラウドの在り方

  • ガバメントクラウドの整備における課題感

  • ガバメントクラウドの利用における課題感

  • ガバメントクラウドの今後について考えてみる

Twitterなどで情報発信していますので、もしよろしければ覗いてみてください。