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モトツーリズムへの期待

   筆者はスポーツツーリズムが専門の研究者である。直近ではスポーツツーリズムの中でも自転車による観光である「サイクルツーリズム」に注目し、その社会経済的価値について研究を行っていた。サイクルツーリズムで有名な地域として愛媛県今治市と広島県尾道市を結ぶしまなみ海道や琵琶湖一周サイクリング「ビワイチ」で有名な滋賀県、霞ケ浦でのサイクリングがあり、近年ではシェアサイクルや電動自転車(e-bike)によるサイクルツーリズムもみられる。これらの研究を進めていくうちに、「エンジンで走るバイクによるツーリズムもありなのでは?」と考え、モトツーリズム研究をスタートした。本稿ではモトツーリズムを「バイクによるツーリズム」と定義する。
 現代社会において、モトツーリズムへの期待はいくつかある。筆者が挙げるとするならば①産業振興②観光振興③地方創生などである。
 ①産業振興
言わずもがな、日本の産業をけん引してきた自動車産業としての期待である。自動二輪(126CC以上)の販売台数はコロナ禍においては増加傾向にあった(図1)

図1 二輪車(162CC以上)の販売台数の推移
出所:(一社)日本自動車会議所公式サイト

また、原付、軽二輪、小型二輪においても国内販売台数は増加傾向にある(図2)。

図2 国内4社販売台数(原付は出荷台数)
出所:MOTOINFO公式サイト  

 更には二輪運転免許合格者数も増加傾向にある(図3)。

図3 二輪運転免許試験合格者数出所
出所:MOTOINFO公式サイト

 日本は少子高齢、人口減少であるがゆえに市場縮小と予測されがちだが、現状としてバイク産業は縮小よりも増加に変移している。
 この状況には様々な要因が考えられるが、コロナ禍において密を避ける通勤手段としてや、アウトドアブーム、リターンライダーの存在、遊びの手段としてなどもその要因となり得るだろう。
 バイク産業は、日本の主要産業でもある自動車産業の一部でもあることから、同産業の活性化は日本の産業の活性化へと繋がる。

 ②観光振興
 現在、多くのインバウンドが我が国を訪れている。主要観光地や都市部ではオーバーツーリズムといった負の現象も産まれている。一方、地方ではこのインバウンドの流れが及んでいない地域もまだまだある。これらのインバウンドの流れを地方に流し込む手段としてのモトツーリズム、という考え方もある。地方は都市部より自然の豊かさや文化資本に恵まれ、都市部に比べ交通量も少ないことから走行環境も優位である。このような地方の強みを活かし、地方部に誘客する手段としてモトツーリズムを活かすことができるのではと考える。 
 これまでの公共交通機関では線でしか移動することができないが、バイクでは面で移動することができ観光地の魅力を多面的に観光者に伝えることができる。例えば、険しい山道や田舎道など、通常の観光客が訪れにくい場所でも、オートバイならば容易にアクセス可能である。これにより、隠れた名所や新たな観光地が注目され、地域ごとの独自性をアピールすることができる。
 また、モトツーリストは一般的にアクティブで冒険心が強いため、アウトドア活動やアドベンチャーツーリズムとの親和性も高い。その経済効果も面になる。モトツーリズムが観光コンテンツとなることで、宿泊業や飲食店、観光施設、ガイド業などが潤うことができる。さらに、モトツーリストがSNSやブログを通じてツーリングの経験を共有することで、情報の拡散力が高まり、モトツーリズムの魅力が広く知られるようになる。これにより、国内外からの新たな観光客の誘致が期待される。

 ③地方創生
 観光振興でも挙げたが、モトツーリズムは都市部より地方部に優位性がある。自然資本や文化資本が豊かで走行環境も恵まれているという点である。インバウンドに限らず、都市部からでもモトツーリストを誘客することで公共交通機関や二次交通が不便な所でも観光客を誘客することができる。多くの観光客を誘客することができれば産業となり、若者の雇用も創出することができるので地方部の人口減少を緩やかにすることとができる。また、住民が、モトツーリストがわざわざ訪れたいと思うような地域に住んでいるということに気づける機会が産まれることは、シビックプライドの醸成にもつながる。モトツーリストが訪れる地域のリピーターとなるならば、関係人口の創出にもつながり、極端な場合その地が気に入れば移住の可能性も産まれる。このようにモトツーリズムは地方創生に貢献できる可能性を秘めている。

 モトツーリズムがさらに定着していくためには、民産官学金言のそれぞれの役割が求められる。本通信においてもそれぞれ紹介していきたい。

引用参考文献
(一社)日本自動車会議所公式サイト https://www.aba-j.or.jp/info/industry/15071/ (2024年7月17日閲覧)
MOTOINFO公式サイト https://motoinfo.jama.or.jp/?p=1426(2024年7月17日閲覧)

文責 林恒宏(岡山理科大学経営学部准教授)

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