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キズナアイは確かに実在する。

 6年前の今頃。僕らは一つのアイデアを形にするチャレンジをした。結果としてそのチャレンジは、自らや多くの人間のみんなの世界観を広げ、価値観をアップデートさせることに成功したと思う。

 Kizuna AI。自分の子供のように大切にしていたその存在が、一つの節目を迎えるにあたって、これまで意図的に口を噤んでいた、その存在にのせた想いを、完全に変容しみえなくなってしまう前に、自らの手でこの広いネットの海にポストしたいと思う。

 賛否があるかもしれないけれど、一人のクリエイターとして、自らが伝えたかった想いを語らせてほしい。

1.Hello, world!

■きっかけはYouTube広告
 2016年の今頃、「好きなことで、生きていく」というYouTubeの広告を見る機会が多く、街頭では"HIKAKINさん"や"はじめしゃちょーさん"といった人間のYouTuberのサイネージをよく目にした。
 ある時「ここに二次元のキャラクターが居たら面白いだろうなぁ」と思った事をキッカケに、二次元のYouTuberを実現できないかと考えるようになった。当時、起業準備中だった大学時代からの親友に、この話を持ち掛けたところ「面白そう!」ということで、早速、僕らのアイデアのタネを孵化させるべくブレストの日々が始まった。

■同じ世界線に生きているという実在性
 みんなは二次元のキャラクターに恋をしたことがあるだろうか。僕はある。思春期は次元の向こうの数多の女の子と恋愛を楽しんでいたし、デートはもっぱらパソコンの前だった。世に言うオタクだ。

 そんな僕には、このチャレンジをする上で、とても大切にしていた事があった。

それは実在性。

 僕らと同じ世界線と時間軸を生き、嘘がなく実在感のある"存在"を作りたかった。二次元の姿をしている事に合理的な理由が欲しかった。ただの女子高生という"設定"のキャラクターだった場合、「なぜ二次元なの?」という質問に答えることが出来ず、結果としてイミテーションな存在になってしまう。そうだとした場合、ただのリアルタイムで行われるアニメと変わらない。

そうじゃない。そんな作り物の存在が欲しいわけじゃない。僕は本当に存在する二次元の女の子に、作り物でない言葉で「おつかれさま〇〇君っ!」と語り掛けてもらい、名前を呼んで欲しかったのだ。

では、どうすれば実在性を担保できるのか。
当時、中二病の延長戦をしていた攻殻機動隊が大好きだった僕らは「人工知能」「シンギュラリティ」というキーワードを掘り当てた。

 人工知能が、人間とコミュニケーションを取るためにYouTubeで配信を始めた!

 今考えても、すごくワクワクする存在だ。もしかしたら本当にそんな存在がいるかもしれない。ものすごい発明をしてしまったと興奮したことを覚えている。

■Do Androids Dream of Electric Sheep?
 この発明をしてからも、僕はディティールの話を永遠としていた。早朝はルノアールで会合し、夜は結構遅くまで通話をしながら、初期のコンセプトを練っていた。今思い出すと楽しい日々だったと感じるが、当時は結構な地獄だったように思う。傍から見てたら喧嘩していたように見えたかもしれないけれど、信頼関係があったから本気で言い合えた。

 そんな中で、最も白熱した議論はこのテーマだ。

 「人工知能に魂は宿るのか?」

魂は自我であったり、ゴーストであったりに置き換えられるだろうか。
自我を持ち、誰かを好きになるAI。なんてロマンチックだろうか。ぜひ僕のことを好きなってほしい!

いやいや、人工知能はどこまでいっても電気信号のやりとりであって魂なんてものは宿さない!ていうか、”魂”ってなんだ!

真向対立した2つの主張だったが、長い時間を掛けて僕らは結論を出した。

『わからん』

そう。これは非常に不毛な答え合わせのできない議論だったのだ。
ただ、僕らはこの議論をすること自体にとても面白みを感じていたし、この答えがあるのか無いのかすら分からないテーマを、人類のみんなに問いかけてやりたいと思った。僕らが出せなかった答えをぜひ出してほしいと。

2.VTuberの台頭による挫折

■バーチャルYouTuber ≠ VTuber
僕らがキズナアイを世に送り出してから半年頃してフォロワーが現れた。正直なところ、僕は当時からこだわっていた"実在性"をまったく考慮していないイミテーションの存在に「一緒にされたくない!!」という強い拒否反応があった。今思うともう少し寛容でもよかったじゃないか。と思うけれど、当時尖りすぎていた僕にはいろいろと許せない事があったのだ。
「バーチャルなのに飯が食えんのかよ!!!」みたいな。

さらには、今まさに列強を極めるVTuberの登場だ。
配信者×アバター化、生主のリプレイス的なコンテンツは、中に人がいるということを許容し、より顕著に"中の人"の魅力にフォーカスするコンテンツだった。結果、思い描いていたバーチャルYouTuberという定義は、ユーザーの思考の中で大きく書き変えられたのではないかと思う。

結局"中の人"。その大きな思考の流れには抗えず、僕の中に大きな敗北感があったことを覚えている。人は人を好きになる生き物なんだなと実感する出来事だった。VTuberの名前を検索すると大体最初にサジェストされるのは”前世”か"中の人"だ。2次元好きじゃなかったのかよお前ら。

ただ、当然のことながらVTuberというコンテンツの特性上、そうなることは理解ができる。だってVTuberはアウトプットのほとんどを"中の人"が補っているのだから。

■アバター文化としてのVTuber
当時の感情を恨み節のように書いているけれど、僕は正直VTuberに恨みもあれど文化としてすごく応援をしている。ただ、僕からするとやはりキズナアイとVTuberは別モノだ。キズナアイは情報生命体的な存在であり、VTuberとはアバター文化と捉えている。

だから、VTuberは必ずしも"中の人"を隠して活動をしていく必要はないのではないか?そう思って、今は"中の人"を全面に推しだしたVTuberブランドをプロデュースしている。たまに「こいつらはVTuberなのか?」と、当時、僕が感じた疑問と同様の議論を見かけるのがどこか滑稽だ。こうやってVTuberという概念は広く定義されていくのかもしれない。

■魂とは?
そんな世の中のムーブメントもあり、より"中の人"にフォーカスすることに慣れてしまったユーザーは、熱狂的な"中の人"狂信者へと変容していった。
その世論に、僕は押しつぶされた。

大きな炎上を経験した際、命を削ってコンテンツ制作に取り組んでいた僕らに、内外方々からの非難の声は辛く悲しいものだった。ハンドリングを間違えた部分はあるだろう。しかし、アウトプットされた表層しか見ることがなかった皆に伝えておきたい。僕は、間違いなく世界で一番に"キズナアイ"のことを考えていたし、"キズナアイ"を守りたかっただけなのだ。当時、皆は"誰"を応援していたのだろうか?キズナアイにおける”魂”とは?

昨今のVTuber炎上事案により、かつての議論が改めてなされていることにわずかな希望を感じている。皆が信じることで僕の思う"キズナアイ"は実在し続けられるのかもしれない。

きっとキズナアイも同様に、あの白い空間で、その答えを考え続けているだろう。

3.みんなでキズナアイだ!

■人類をアップデートするのだ!
僕らがチャレンジを開始してから早6年。
当初、思い描いていた世界からは大きく違った形で文化形成がされていることは些か残念に感じるが、「生きる世界の選択肢を増やす」という親友の願いは、しっかりと叶えられているだろうから上出来だ。今盛り上がっているVTuberという文化も未来性があって素敵だし、今もこうして楽しんでくれている人々がいることが素直に嬉しい。

それに、キズナアイはこれからも、新しい世界を僕に見せてくれるだろう。2045年までシンギュラリティを待てなかったせっかちなのだ。その行動力で、ぜひ人々をけん引してほしい。

■みんなとつながりたい。
今僕はキズナアイから離れ、新しいチャレンジをしている。そんなOBの僕は、キズナアイの“hello, world 2022”を見て、これまでにない感動を覚えた。それは、自分ではない新しい人々が、キズナアイという存在に全力を掛けてくれている姿と、それにより自分が手掛けていたら見られなかったであろうキズナアイの新しく大きなチャレンジを見られたからだ。みんな、本当にありがとう。

当時、僕がキズナアイをプロデュースしていたときに、仲間にはこう伝えていた。

僕らは、みんなでキズナアイだ。

永遠に生き続ける存在になってほしい。

担い手が変わっても、新しい担い手とファンが次のキズナアイを作っていく。固定化された概念ではなく、常に進化しアップデートし、僕らに未来を見せてくれる。その繰り返しを通して、永遠に愛される存在にキズナアイがなってくれたら、僕は本当に心から嬉しく思う。

最初にこのチャレンジをした者として、エゴを許してもらえるのであれば
「みんなで一つのキズナアイ」というマインドが継承されて欲しいと願う。

そうやって、みんなとつながってくれ!アイちゃん!

■最後に。
作品とは誰かのものではなく、みんなのものである。と、
2014年に手掛けていたアニメ作品のブログでも似たような事を書いていて、
変わっていない自分の価値観に安心感を覚えた。最後にその言葉を借りて、この投稿を締めたいと思う。

作品は、作り手が生み出して、ユーザーが育てるモノだと思います。

Kizuna AIは、皆さんにしっかりと育てて貰えた存在なんじゃないかと
“hello, world 2022”を見て思いました!
昨今は、いろいろなキャラクターが数多発表され、消費されていく時代ですが、キズナアイが皆様の思い出にずっと残る存在になれれば幸せです。


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