見出し画像

霧乃ばあちゃん、85歳の挑戦。【ばあちゃん新聞創刊ストーリー】

これは、ばあちゃん新聞を通じて、霧乃ばあちゃんこと85歳になった僕のばあちゃんの挑戦を見て勇気づけられた話です。




霧乃ばあちゃん、85歳。僕のばあちゃんです。

霧乃ばあちゃんは高齢になったことを理由に、今年の6月から夫の計介じいちゃんと共に福岡県朝倉郡筑前町の高齢者住宅での生活を始めました。

この高齢者住宅は、老人ホームのように介護がついているわけではなく、緊急時にすぐに対応できるように施設の人が24時間体制で見守ってくれたり、高齢者向けに作られた設備が整っている程度の施設です。

入居後すぐの頃の霧乃ばあちゃんと計介じいちゃんの高齢者住宅での日々は、新婚時のような輝きを取り戻しているように僕の目には映っていました。

しかしながら、そんな2人の新しい生活は幸せだけで完結するわけではなく、「高齢」という現実が大きな問題を引き起こしました。

霧乃ばあちゃんに認知症の初期段階のような症状が出始めたのです。

最初は日常生活に支障をきたすほどではありませんでしたが、ささいな物忘れが増えてきたことや、次第に日常生活にも支障をきたし始めたことにより、本人もその自覚が出てきました。
また、精神的にも落ち込んでいる様子が感じられました。

計介じいちゃんをはじめ親戚などの周囲の人は、「大丈夫だよ」「あんまり心配しなさんな」と声をかけていましたが、物忘れや精神的な落ち込みが回復する兆しは見られず、霧乃ばあちゃん本人の希望もあり、認知症の病院に行ってみることにしました。

いくつかの病院を回り、診断結果は動脈硬化による軽度の認知症であることがわかりました。
幸いにもアルツハイマー型の認知症ではないため、運動や食事などで改善できる可能性もあるようです。
日常生活では「何もしないより何かをしたほうがいい」との指摘もありました。


実は、この診断結果が出る前に僕は霧乃ばあちゃんにお願いしようと思っていたことがありました。

それは全国の75歳以上のばあちゃんのことを取り上げる"ばあちゃん新聞"の創刊に協力してくれないかということです。

霧乃ばあちゃんは昔からの趣味で書道をしており、作品が評価され、新聞にも掲載されるほどの腕前でした。
それを知っていた僕は、霧乃ばあちゃんが健康的であれば、ばあちゃん新聞内で、書道に関する記事を書いてほしいと考えていました。

霧乃ばあちゃんの作品が朝日新聞に掲載されている写真

結果的に健康状態に問題があることは否定できませんでしたが、日常生活において何かをしたほうが良いという医師の指示を受け、リハビリを兼ねてお願いしようと決めました。

病院の後、霧乃ばあちゃんにお願いをしてみると、「自信はないけどとりあえずやってみる」というニュアンスの返事をもらいました。

早速、記事が書けそうなことをばあちゃん新聞の編集長に報告したところ、ロゴの文字も書いてほしいとの依頼を受けました。

このことも霧乃ばあちゃんに報告すると、先程と同じように「自信はないけどとり
あえずやってみる」という返事をもらいました。

早速準備を進めたいところですが、文字を書くには道具が必要です。
ただ、霧乃ばあちゃんはもう筆を握ることがないと思っており、現在住んでいる高齢者向け住宅には書道の道具を持ってきていなかったため、昔の家に道具を取りに行く必要がありました。

道具を取りに行っていたらこの日は夕方になってしまったので、文字を書くのは翌日にして僕は帰宅しました。

しかし、その日の夜、計介じいちゃんから私に電話がありました。

その内容は「早速霧乃ばあちゃんが書いてみたけど、昔みたいに全然上手くかけないから自信をなくしてるかもしれない」というものでした。

電話を一度終えた後、すぐに再び計介じいちゃんから電話があり、今度は霧乃ばあちゃん本人が受話器の向こうにいました。

霧乃ばあちゃんは「昔みたいに書ききれない」と落ち込んでいる様子で言っていました。

この電話を受け、明日も霧乃ばあちゃんのところを訪ねる予定だったので、「また明日話を聞くね」と伝えて電話を終えました。

僕は霧乃ばあちゃんの娘である幸子かあちゃんに「霧乃ばあちゃんに文字を書いてもらうお願いをしたけど自信をなくしたみたい」と話しました。
すると、幸子かあちゃんは、「霧乃ばあちゃんは完璧主義者やけん、うまく書けないなら書きたくないっちゃろうね」と言っていました。

翌朝11時頃、筑前町の高齢者住宅を訪れると、霧乃ばあちゃんはベッドで寝ていました。

いつも早起きの霧乃ばあちゃんが11時になってもベッドで寝ている姿は、まさに"戦意喪失"という感じでした。

予想外の光景を目の当たりにして、霧乃ばあちゃんが書くのは無理だろうと思いつつも、一応、書けるか聞いてみると、「私は書けないから他のばあちゃんに書いてもらおう」と言って、急に書道仲間のばあちゃんを僕に紹介し始めました。

ひとまず僕は他のばあちゃんに書いてもらう可能性を、ばあちゃん新聞の編集長に報告しました。

この時、同行していた幸子かあちゃんは、
「久しぶりに書くだけじゃなくて85歳にもなったのに、そげんすぐ上手に書けるわけなかろうもん!どっちにしろリハビリになるけん、とりあえず書いてみりい!」
と霧乃ばあちゃんを激励するような言葉をかけました。

娘に言われる形となった霧乃ばあちゃんでしたが、特に反抗することもなく、「まぁ確かにそうだね」と言って、はちまきを巻いて筆を握り始めました。

このときの霧乃ばあちゃんは"戦意喪失"といった雰囲気ではなく、むしろ"一念発起"といった雰囲気で、経験や実績、プライドを自分の中にしまい込み、文字を書くのではなく縦横の線をひたすら描き始めました。

一念発起して字を書く霧乃ばあちゃん

結果的に、このあとすぐに満足いく字が書けるようになったわけではありません。
むしろ、それがいつになるか分からないし、もしかしたらその日は来ないのかもしれません。
それでも、霧乃ばあちゃんが少しずつ昔の腕を取り戻していることは間違いなく、その日々は霧乃ばあちゃんの日常を充実させているように見えます。

また、「筆を握り始めてから霧乃ばあちゃんの調子がいい」と計介じいちゃんは言っていました。

そうやって完成した文字がこちらです。

ばあちゃん新聞号外バナー

この文字には、上手、下手ではない、霧のばあちゃんの挑戦する思いや諦めない情熱が込められています。

認知症の初期段階の症状がありながらも、霧乃ばあちゃんは自らの希望を胸に、リハビリを兼ねて文字を書こうと、85歳になっても新たな挑戦を始め、一歩一歩前進していく姿勢に感銘を受けました。

人生を支えた書道を通じて再び挑戦する霧乃ばあちゃんの姿は、全国の75歳以上のばあちゃんにもインスピレーションを与えることをはじめ、未来を担う若者たちへの勇気を与えると思います。

以上、「霧乃ばあちゃん、85歳の挑戦」でした。


ばあちゃん新聞について

75歳以上のばあちゃんが働く会社、うきはの宝 株式会社(所在地:福岡県うきは市、代表取締役:大熊充)より、「ばあちゃん新聞」が2023年11月に創刊されます。

価格:1ヶ月330円、年間購読料5,640円(税込・送料込)
販売場所:ばあちゃん新聞のオンラインショップ、販売店、代理店・支局長の販売発行部数:発行部数3,000〜5,000部予定。2年で10,000部を目指す

霧乃ばあちゃんの今回の挑戦をはじめ、多くのばあちゃんたちが関わって出来る新聞です。

現在、ばあちゃん新聞ではMakuakeにて先行販売を行っています。

ぜひ、ご購入・シェア・拡散にご協力をお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?