2020年11月15日23時に東京を出発して17時間後に大阪にたどり着くことはできるか?

Akihiro Takaokaさん (twitter: RX_Takaoka, Note: akihiro.takaoka)という方が11月15日23時に東京を出発して17時間後に自転車で大阪にたどり着いたというツイートを行い、話題を集めました。

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(Takaokaさんの2つのツイート。2020/11/15 20:54と2020/11/16 15:55にそれぞれツイートされています)

Takaokaさんはアマチュアロードレースで最も速いサイクリストの1人とされており、ツール・ド・おきなわ2019で優勝されています。ロードレースが長時間の競技であることから、より長時間のロングライドでも高いパフォーマンスを出すことが期待できます。仮に東京から大阪に17時間でたどり着いたと仮定すると、これまでで一番速い記録(19時間台)を大幅に更新する恐るべきものと言えます。

しかし、当日の向い風条件や情報の少なさ、従来の最速記録に比べて大幅に速いことなどから、多くの人が本当にこの時間で大阪までたどり着けるのか疑問に思っていたのではないでしょうか。
本文章では、これが実際に達成可能なのかを検証してみます。
1. 結論としては、Takaokaさんのツイートで示されているNP205W/17時間ではどう走行しても困難という結論になります。したがって、Takaokaさんの2つのツイートの17時間は東京(日本橋)から大阪(梅田新道)まで走ったものであるということは考えにくいです。
2. ネガティブな結果だけでは面白くないので、人類で最も速いサイクリストが東京から大阪に向かうと何時間でたどり着くのかということも考えてみます。

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1. 2020年11月15日23時に東京を出発して17時間後に大阪にたどり着くことはできるか?

ここでの問いは
a. 65kgのサイクリストが
b. 2020年11月15日23時に東京(日本橋)を出発して
c. 自転車(ロードバイク+DHバー)のみを使って
d. 標準化パワー(NP)205Wで17時間後に大阪(梅田新道)にたどり着く
ことができるのかどうかということです。

あまり計算していない僕の以前のツイートで40km/hが必要と書きました。

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これから具体的に見ていきましょう。同じく東京から大阪まで走行したサイクリストnYoloさんの記録(9/9/2020, 19:53)と比較してみましょう。
https://www.strava.com/activities/4095533107
この記録は東京から大阪までの最速記録ですが、この記録の速度域ごとの割合は以下になります。

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(nYoloさんの速度別総時間)

17時間を切るためには、ここから3時間減らす必要があります。簡単のため、速度域を停止前区間、低速区間、高速区間の3つに分割しましょう。

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停止前区間・停止区間
これは走っていない時間(ほぼ信号停止前)です。上記の0-9km/hに加えて、3時間の停止区間があります。これらは速いサイクリストでも改善の余地の少ない速度域です。nYoloさんは休まずに走れるサイクリストですのでほとんど減らす余地がないのではないかと予測しますが、仮にサポートカーや風向き、漕ぎ出しの速さ、信号時間などで30分減らせたとしましょう。

低速度区間
この区間はPwR(パワーウェイトレシオ、パワーを体重で割った値)通りの速度になります。nYoloさんがNP168W/54kgなので3.1になります。TakaokaさんはNP205W/65kgなので3.15で、わずかに速く登坂することができますが、2.5時間を減らす(17%速度増)ためには235W (PwR3.5) が必要です。

高速度区間
この区間は少なく見積もっても全域で+4km/hする必要があります。nYoloさんのトップスピードが35km/hですので、2.5時間を削り取る(17%速度増)ためには最低でも39km/h巡行が必要です。この速度域は体重があまり関係なく、パワーと空気抵抗で速度が決定します。TakaokaさんのCdAが0.240と仮定すると(30km/hを超える区間をすべてDHポジションで行った仮定です)、220Wが必要です。
https://www.electricsheep.co.jp/hc/cruise.html

ちなみに、nYoloさんの自転車はリカンベント(CdA0.2と予測)でした。リカンベントの168Wは30km/h以上の走行ではDHバーの202Wに相当します (168 * (0.240/0.200))。

上記の3区間を含む走行区間がnYoloさんの場合17時間10分で、その他に停止区間が2時間40分あります。信号タイミング最適な出発時間を選ぶなど、何らかの方法で停止区間を減らせると、さらに時間を減らせるかもしれません。

風向き
上記の高速度区間の巡航は無風を仮定していましたが、実際は11月15日23時からの17時間は全編向かい風でした。仮に向かい風2m/sで39km/hを出す場合、297Wが必要になります。

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(Takaokaさんの走行時の風向き。>1-2m/sの向かい風です)

ちなみに、nYoloさんの走行時の風向きは以下になります。

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(nYoloさんの走行時の風向き。>2m/sの追い風です) 

結論
これらのことを総合して考えると、「11月15日23時に東京を出発して17時間後に大阪にたどり着いた。走行NPは205Wで、体重は65kgだった」というツイートが含意している内容は事実であると考えにくいことになります。
Takaokaさんが仮に理論的にベストな走り方(ミスコースなし、全域DHバー)をしていてもnYoloさんとの比較で時間差を出せる速度域がないですし、向い風、初回の挑戦など全ての条件がマイナス側に向いているように見えます。
あくまで予想ですが、風向がほぼベストなnYoloさんと無風で同じかちょっと速いぐらいなPwR・巡行速度なので、向かい風2m/sの悪条件下でNP205Wでもし全部走行すると22時間以上のペースなのではないかと思います。

備考

上記の考察は、途中でいろいろな仮定を置いています。実際は交通状態が良かったこともあるかもしれませんし、同じ標準化パワー(NP)でも30分以上短縮できてもおかしくはないと思います。
しかし、すべての要素が上振れしても17時間を下回るためには何らかの理由があるのではないかと思います。

2. 人類に17時間を切ることは可能なのか?

そろそろ薄々気づいているかもしれませんが、東京から大阪までを17時間で走るというチャレンジは体重65kgのサイクリストがNP205Wで達成可能かどうかというよりは、人類で最も速いカテゴリーのサイクリストが可能かどうかという記録ということになります。Takaokaさんのツイートに関するネガティブなことを考えてもしょうがないので、ポジティブな面を見てみたいと思います。仮に人類で最も速いサイクリストが走った場合、17時間以内に東京から大阪にたどり着くことはできるのでしょうか。やはり、これまでで最も巡行速度が速いサイクリストの1人であるnYoloさんから3時間を削り取れるかという観点で考えてみましょう。前述の3つの区間ごとに考えます。

停止・停止前区間
仮に30分短縮が可能としましょう。この場合、残りの各区域で速度17%増が必要になります。また、停止区間ではないですが、nYoloさんのルート(R246->R1->R23->伊賀超え)の総距離524kmから姫街道ルートによる短縮などで10km程度の最適化は効くかもしれません。

低速度区間

PwR3.5が必要です。

高速度区間
トップスピードで39km/h巡行が必要です。250Wを(DHポジションで)24時間出力できるサイクリストはこの世に居るので、追い風ならまあ行けるのではないかと思います。
https://bikeboard.cc/896-km!-christoph-strassers-24hour-world-record-ber5842

というわけで、最初のツイートに戻ってしまいますが、1. 65kgのサイクリストが 2. 最高の追い風(>2m/s)で 3. 230Wを (リカンベントかDHバーで)17時間出し続けられれば可能なのではないでしょうか。逆に言うと、17時間を切った16時間台が人類の限界なのではないかと予想します。

リカンベントのCdAに関して

Cruzbike V20のCdAは0.2程度(メーカー公称)https://cruzbike.com/blogs/blog/cruzbike-at-the-a2-wind-tunnel

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