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夫婦絵師 の三

 与平は浮世絵師としてだんだん名が売れてきて、仕事は途切れずやってきました。与平はそうして得たお金のほとんどをお寺に寄進しましたが、和尚さんの方でも特別贅沢をするわけでもありません。そのお金は使わずに大事に取っておきました。

 浮世絵を描くには時間がかかりますから、お寺で下男の仕事はできません。和尚さんは手伝いをしてくれる人を探し、ある檀家の娘さんに手伝いを頼むことにしました。

 娘さんは名をみつというので和尚さんは、おみつさん、と呼んでいました。おみつさんは働き者で、お寺のいろいろな仕事もすぐにできるようになりました。

 あるとき和尚さんは与平を呼んで、所帯を持つ気は無いかと聞きました。すると与平は、そんなあては無いから考えたこともないと答えましたが、和尚さんはあてならあると言いました。和尚さんがいうあてとは、おみつさんのことでした。

「それでおみつさんなんだが、実は少し傷があってな」
「はあ、首が伸びたり夜中に行燈の油を舐めたりですか」
「お前さん、芝居見物のついでに寄席も寄ったらしいがどうにも趣味が片寄っているな。いやそうではない、おみつさんはな、少しばかり足が悪いのだ。まあ悪いと言ってもわしの手伝いはよくやってくれているし家の仕事は問題なくできる。それとなく聞いてみたところ、貰ってくれるあてもないから言えないが与平さんなら、と言っていた。どうだ、考えててみないか」

 与平は実のところ、普段からお寺でかいがいしく働くおみつさんを見かけて憎からず思っていたのですが、家族以外の女の人とは話をしたことすらろくに無かったので、遠くから眺めているだけでした。

「おれはいままで女の人に縁なんてなかったから、おれのところに来てくれるというのなら、それだけでありがてえ」
「そうかそうか、ならば話を進めるとしよう。善は急げというからな、祝言となれば少々金もかかるが、お前が今までしてくれた寄進がずいぶん溜まっているからな、無駄にしなければ、仏さまも許してくださるだろう」

 こうして、与平とおみつさんはささやかに祝言を上げ、晴れて夫婦となりました。


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