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【感想】『神様の罠』を読んで、トラップにあっさりハマりました。

本記事は「note×文藝春秋」の合同企画「#読書の秋2021」の課題図書『神様の罠』(【著者】辻村深月・乾くるみ・米澤穂信・芦沢央・大山誠一郎・有栖川有栖)の読書感想文です。過去に趣味で撮影した写真を交えて読書感想文を書いてみました。本企画の詳細は下記に記載されています。

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これまでミステリー小説を読んで、作者の方々が仕掛けた「罠」を途中で見破れたことは一度も無かった。そう、私は「罠」にハマりやすい。いつも作者の手の平の上で踊らされていた。

本書『神様の罠』は人気作家6人の作品で構成された短編集である。それぞれの作者と題名の対応は下記の通りである。

乾くるみ『夫の余命』
米澤穂信『崖の下』
芦沢央『投了図』
大山誠一郎『孤独な容疑者』
有栖川有栖『推理研VSパズル研』
辻村深月『2020年のロマンス詐欺』

これだけ短編集があれば、もしかしたらどれかは読書中に「罠」を見破れるかもしれないと淡い期待をもっていたけれど、あっさり全ての「罠」にハマってしまった。今回も作者の方々の手の平の上で全力で踊らされた。でも、不思議と心地よい気持ちになった。

50ページ前後の各短編の中に作者の方々の世界観が表れていて興味深かった。『夫の余命』では走馬灯を味わい、『崖の下』では凶器に頭を悩ませ、『投了図』では将棋の美学にふれ、『孤独な容疑者』では事件を捜査し、『推理研VSパズル研』ではクイズの奥深さを知り、『2020年のロマンス詐欺』では詐欺の結末を見守った。1冊で色々と体験できて楽しかった。各作品を読み終えると、各題名に込められた意味もわかってきて、思わずニヤリとしてしまった。

そして、ミステリー作品の読書感想文は内容をあまり明らかにしないように書こうと思うと、なかなか難しいことに気がついた。これも一種の「罠」なのかもしれない。

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コロナ禍の状況を積極的に扱った作品もあり、現実の世界と小説の世界にまるで接点があるような錯覚に陥った。日本全体の共同体験をミステリ―作品にすると、「こういう仕上がりになるのか!」と驚嘆した。コロナ禍の体験を小説で味わえる日がくるなんて想像もしていなかった。歴史上の転換期に我々は直面しているのだと改めて気づくことができた。

短編集のため、各作品は同じ「罠」ではなく、どの作品も趣向が凝らされていた。最初の作品である『夫の余命』を読んで、次からは「罠」にハマらないぞと意気込んだが、次から次に「罠」にハマってしまった。各作品でしっかりと「罠」にハマれるのが魅力的であった。作品の並べ方もよく練られていると感じた。

各作品の始まりに注目してみる。『夫の余命』は日付からはじまる。『崖の下』は遭難の一報からはじまる。『投了図』はマスク着用の描写からはじまる。『孤独な容疑者』は朝の目覚めからはじまる。『推理研VSパズル研』は曜日からはじまる。『2020年のロマンス詐欺』はニュースからはじまる。

各作品の終わりに注目してみる。『夫の余命』は笑っておわる。『崖の下』は屈辱でおわる。『投了図』はシャッターをおろしておわる。『孤独な容疑者』は本人でおわる。『推理研VSパズル研』は報告でおわる。『2020年のロマンス詐欺』は和やかにおわる。

各短編の内容を思い出しながら、各作品の始まりと終わりに注目してみると、それぞれの世界観が表れていておもしろいと思った。本書のような短編集ならではの楽しみなのかもしれない。

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各作品について内容の核心にふれない程度に感想を書いてみる。

『夫の余命』(乾くるみ 著)は、病気進行の表現が印象的であり、最愛の人が病気で徐々に弱っていく痛々しい姿を思い描くことができた。新型コロナの影響で人工呼吸器が不足するという記載は昨今の状況を反映していると思うとともに、新型コロナが他の治療に与える影響について考えるきっかけとなった。

『崖の下』(米澤穂信 著)は、事件を捜査する刑事を疑似体験することができた。情報を取捨選択して”真実”に到達するのは容易なことではないと思いつつも、刑事たちの活躍が頼もしく感じられた。凶器は私の予想は遥かに超えるものだった。作者の発想力の豊かさに驚かされた。

『投了図』(芦沢央 著)は、将棋と事件との混ざり具合が絶妙であった。コロナ禍の自粛要請に起因する日本全体の閉塞感を思い出した。身近な人が事件に関係していると思うと、精神的にかなり辛くなるということを疑似的に体験できた。「投了」に込められた想いが素敵であった。

『孤独な容疑者』(大山誠一郎 著)は、「お金」の怖さを改めて思い知らせてくれた。徐々に物語の核心に迫っていく展開は目が離せなかった。「データとQRコードを紐付けする作業」は、私も過去に経験したことがあるので、何となくその部分にも共感を持ってしまった。

『推理研VSパズル研』(有栖川有栖 著)は、知的好奇心の満たし方を知ることができた。意見をぶつけ合いながら内容を深めていく様子は鮮やかであった。議論し合える相手というのは大切だと感じた。とりあえず、「青い目」がしばらく頭から離れなくなってしまった。

『2020年のロマンス詐欺』(辻村深月 著)は、徐々に加害者になっていく姿に胸を痛めつつも、あのコロナ禍の状況では本当にあったかもしれない物語の展開に感慨深い気持ちになった。SNSの個人情報の公開に関して怖さを味わうことができた。ITの進展で加害者と被害者は紙一重なんだとしみじみと感じた。また、バーチャル世界で利用者が一種の夢に浸っていく過程も体験できた。SNSの先には「人」がいることを改めて認識することができた。

ところで、本書の題名である『神様の罠』の『神様』とはいったい何を指すのだろうか?。作者のことだろうか?しかし作者が神様だとすると、本書は作者が6人いるので題名は『神々の罠』となってしまうのではないだろうか。もしかしたら、『コロナ禍』が『神様の罠』と捉えることもできるのではないだろうか。または、各作品に共通項があると考えること自体が『罠』なのかもしれない、、、。そんなことを考えながら、本書を読み終えた。

最後に、極上のミステリーを体験させて頂いた作者の皆様(辻村深月先生・乾くるみ先生・米澤穂信先生・芦沢央先生・大山誠一郎先生・有栖川有栖先生)に感謝致します。また、本書を生み出して頂いた編集者の方々に感謝致します。ありがとうございました。

ミステリー小説の世界では「罠」にハマっても、現実世界では「罠」にハマらないように気をつけたいと思います。とくに、『2020年のロマンス詐欺』のような身近な危険には気をつけたいなぁ、、、。

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#読書の秋2021 #神様の罠

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