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古代からの布。シナ布。

先日ご来店のお客様がシナ布の帯をお召でした。
シナ布。
木綿や絹が庶民に流通する以前には
着るものも袋や敷物などの生活用品にも活用されていた
原始布とも呼ばれる樹皮や蔓から取った繊維の布の1つです。

シナ布の素材はシナの木の樹皮です。
新潟県と山形県の県境で今でも受け継がれている昔ながらの織物です。
梅雨の晴れ間の一日、部落の男性が山に入って
その年の必要量だけを採取します。
決められたその日だけでその年に使う分以外の量は採りません。
それが長年山で生計を立ててきた人たちの知恵でもあるのです。
採ってこられたシナの皮はその場で外皮と中皮に分け
中皮だけを持ち帰り、外皮は後日乾燥させて薪にします。

お盆が過ぎた今頃にシナの木の中皮を
一日川に漬けておきます。
水でふやけて柔らかくなったところで木灰をまぶして
ドラム缶で水と共に一昼夜煮続けます。
これは村の女性が付きっ切りであたります。
煮上がったら まだ熱い内に手で揉んで
皮を薄く剥いでいきます。
灰汁が強く手の荒れる作業です。
剥いだ皮は川の流れに晒して
しごきながら汚れや樹脂を落とします。
最後は糠水に2,3日漬け込んで漂白し
陰干しするまでが 夏場の仕事です。

雪が降り始め、家に閉じ込められる前に
乾燥したシナの皮をお湯で戻して柔らかくします。
これを指で細かく裂いて細くしていきます。
細く細く裂いて繊維にしたものを引き出して
さらに裂け目を入れてその裂け目に
次に引き出した繊維を繋いで撚りをかけることを繰り返し
1本の長い糸にしてゆきます。
継ぎ目にコブが出来ないよう、均一な糸にするのが熟練の技です。
単純ですが細かく根の居る作業が炉辺で続きます。

雪が積もり、外の仕事が出来なくなる頃には
すっかり糸が出来ていますので
いざり機で織り上げます。
乾燥を嫌うのは越後上布と同じですが
この地方の雪はずっしりと水分を含む重い雪です。
シナの糸を水で湿らせながら
かじかむ手で冬中織り続けられるのがシナ布なのです。

かつて木綿や絹が無かった時代には
一年中、シナ布や葛布、藤布などが使われていました。
今の時代には様々な選択肢がありますので
野趣に富み、通気性の優れたこれらの布は
冬場以外の単衣~夏物~単衣の時期に最適とされています。

重労働ゆえに後継者がなく、
近い将来消えてしまうだろう原始布。
お手元にありましたら大事に受け継いでいってください。

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