着物の寿命

このところの不況で きもの業界はただでさえ厳しいのに
さらに激しい落ち込みで
閉店、廃業、倒産の声が続いています。
着物が売れない・・・と言われて久しいですが
街での着物姿は確実に増えているのを感じます。

一時のアンティーク、古着ブームはピークを過ぎたようですが
着物を気軽に手にする第一歩として
そして 着物を手に入れる選択の1つとして定着したようです。
しかし 元々着物には古着がつきものでした。

着物はスカート丈や袖の形、衿の形などが
毎年どころか春と秋では流行が変るような洋服と違い
形は100年以上 ほとんど変わっていません。 
とても長持ちのする衣服なのです。

江戸庶民は夏も冬も同じ着物を
夏は単衣で 冬には袷にしたり綿入れに仕立て直して着ていました。
絹が着られるのは豪商や武家だけで
一般庶民は 数枚の木綿を大切に仕立て直しては
ずぅっと着ていたのです。
継ぎを当てるのは当たり前のことで
色柄の全く異なる着物を繋ぎ合せることも普通にされていました。
今ではそれが端縫いとして 新鮮で面白いものに見えます。
当時は当たり前ですが 生地は全て手織りで
糸の生産も限られていましたら布そのものが貴重だったのです。
ですから 日常の衣服ではあっても
着物はとても大事に扱われ
汚さないための所作が身に付いていました。
新品を誂えるのはお金持ちのお内儀やお嬢様で
多くはお正月に古着の1枚も新調できれば上々とされました。
古着は江戸時代からの庶民の暮らしに欠かせないものだったのです。 

でも 江戸時代と現代では ものの価値も違いますから
いくら形は同じでも
古いものをそのままお召になるのではなく
せめて寸法をご自分に合うものに仕立直して
ついでに八卦を替えれば 
さらに自分らしい着物に生まれ変わります。

きちんと作られた着物の寿命は 
着る人より長かったりします。
結城紬は三代もつ、と言われますが
それは糸も染も織も丁寧に作られているからなのです。
(量産品のプリント生地はまだ歴史が浅いので
 いつまでもつかは 判りませんが・・・)
自分より年上の着物に出会ったら
敬意と優しさで接して上げてください。
そして 若い着物には愛情を一杯注いで
一枚の布が着物になって成長していくのを
手助けしてあげてください。

この頃は 成人式もママ振り(お母さんの着た振袖をお嬢さんが着る)も
多くなってきているそうです。
代々受け継がれる着物。
着物屋としては誇らしいのと同時に
ちょっと困った感もありますが。
今のものにはない重厚な加工はお祝いの席に相応しく感じます。

しかし、布そのものより 縫い糸の方が先に弱ることも多いですし
帯は捩じったり折り畳んだりで
着物より布をいじめるので寿命も短いです。
メンテナンスは必須ですので
時々傷みのチェックをしてあげてください。



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