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29.喪服の誤算と笑いの結末 〜入院奮闘記〜

我が家での生活も落ち着いてきた頃、手術を受けた背中に激痛が走るようになった。眠れない日が続き、様々な痛み止めを試したがどれも効果が薄く、急遽入院することになった。

一通り検査を行ったが、心配していた病気の進行はなく、しかし、激痛を和らげるためにモルヒネの24時間点滴が始まった。

すると眠気が襲い一日中寝たり起きたりを繰り返すようになった。医師からは「もし脳へ転移すると容体が急変することも…」とちょっと怖いことを言われた。

夢と現実を行ったり来たりで、寝言のように訳の分からないことを言うようになった。自分では夢の中で話しているつもりだが、実際には寝言のようにボソボソというより、ハッキリと話していたらしい。ただ言っていることは意味不明???

時々、自分がしゃべっていることに気づいて

「今のは夢だから。」
「自分で分かっているから大丈夫!」

と言っていたのを覚えている。
全然、大丈夫じゃないよね。

側から見れば三途の川を行ったり来たりしているように見えたのだろう。そんな私を見て家族はもう長くはないと思ったようだ。

そこで子供達は夫に言われ、慌てて喪服を買いにお店へ走った。

「急げ!Go‼︎ 」

しかし、当の本人はそんな心配はまったくしていない。痛みさえコントロールされていれば、体調の悪さは全くなかった。ただ薬の副作用だと気づかないくらい、正常な判断ができなくなっていたのは確かだと思う。

そこであまりにも意識に異常があったので、家族がその状況を医師に伝えると、すぐに減薬が始まった。

するとみるみる意識もハッキリして現実に戻ってきた。

「ただいま自分!」
「お帰り自分!」

よくぞご無事で、って感じ。

今でもあの痛みの原因は何だったのか疑問だが、一月ほどでモルヒネは錠剤に減り、退院できるまでに回復した。


後日談
今となっては笑い話だが、慌てて買ってしまった喪服の行方はというと、まさか喪服まで用意したとは私に言えず、気づかれまいと車椅子では手の届かない、クローゼットの奥深〜くに隠ぺいされた。そして数年後、祖父の葬儀でお目見えするまで、密かに息を潜めることになった。

子供達も言うに言えなかったのだろうが、それにしても失礼な話だ。早とちりにもほどかある。まだまだ元気な母を勝手にあの世へ送ろうとするとは…ハハハ。

30話目へ続く…



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