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現行の法制度は猫の「こっそり駆除」を促す

※本記事では、効果的な猫の駆除方法に関して言及していますが、背景事情を正確に説明するためであって、猫の駆除を推奨する目的は一切ありません。


保健所(動物愛護センター)は必ず猫を引き取ってくれるわけではない

警察官が近所の猫を遺棄するという事件が起きました。猫を含む愛護動物の遺棄は違法行為です。上記記事内の久田本部長が言っているように、保健所(「動物愛護センター」と呼ばれることもありますが、本記事では「保健所」に記述を統一します)に連れて行くのが筋です。

それでは保健所に持ち込めば本件も解決していたのでしょうか。残念ながら、そうでない可能性が高いです。

公益財団法人動物環境・福祉協会Evaが2015年11月に行ったアンケートによると、73.2% の自治体が「あらかじめ殺す処分や駆除を前提とし、捕獲や狩猟の方法によった者により、持ち込まれる猫」は自治体の引取対象外とされています(下記の画像は上記記事からの引用です)。

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猫の忌避剤は完璧な対策ではない

「そもそも忌避剤を撒いて対策すればいいのでは?」と思った方もいるかもしれませんが、忌避剤は完璧ではないことが知られています。

猫の忌避剤は色々ありますが(例えばこれ)、効果があるかどうかはまちまちで、また継続しないことも多いようです(上記のレビューを見てください)。一回撒けば猫が寄り付かなくなり、その後一生同じ猫が現れなければそれが一番なのですが、そのような完璧な忌避剤は今の時点では存在しません。効果があった場合も、その猫が死亡するか他所に移るまで継続的に撒き続ける必要があります。

効果がさほどない場合は忌避剤は使えませんし、効果があったとしても定期的に撒き続ける必要があるのなら、それは家主が継続的に金銭負担をしなければならないことを意味します。家主自ら飼っているのならともかく、どこかの他人が餌をあげている猫の対策の為にお金をかけ続けるというのは理不尽極まり無いことです。

従って「忌避剤を撒いたらすぐにどこかに行ってもう家には来なくなった」というレアケースを除き、根本的な解決にはさらなる行動が必要です。

糞尿被害があっても保健所に持ち込みにくい

多数の動物愛護団体の宣伝もあって、「保健所に動物を連れて行くと殺処分される可能性がある」ことを理解している国民がほとんどでしょう。しかし、上述の通り、殺処分を前提とした引き取りは受け付けていない保健所がほとんどです。上記の事件でも、たとえ警察官が保健所に猫を持ち込んだとしても、引取を拒否された可能性が高いです。

だとしたらどうすればいいのでしょうか。もし、猫がご近所さんの飼い猫であれば、糞尿被害が出ていることを伝えて室内飼い等の対策をとってもらうということが考えられます。しかし、ご近所さんが話を聞いてくれないケースも実際には多いと聞きます。そもそも「猫が外に出ればどこかで糞尿をしてその場所で被害が出る」ということは少し考えればわかることで、それすらも理解せずに外飼いをしている人が話が通じる相手かそもそも疑問です。

訴訟も効果が無いことがある

話を聞いてもらえない場合、最終的には訴訟で解決することになります。有名な例としては、上記の加藤一二三氏の事件があります。氏は実際に外で猫の餌をやり続けた問題で、東京地裁で敗訴し慰謝料の支払いを命じられています。しかし、氏は「これからも餌やりを続ける」と発言しており、問題の根本は当該判決においては解決しなかったようです。

加藤一二三氏に限らず、猫の餌やりや外飼いを何度注意されても続ける人は一定数おり、裁判をしても効果がない可能性もあります。これに関して、環境省等で構成される委員会の議事録にこんな言葉が残っています。

駆除の在り方の問題は、動物愛護が絡んできて非常に難しい。ノネコは非常に大きな重要な問題だが、ネコを飼っている方たちは狂信的な部分があるので、対応をどうしていくか、理論的に済ませておく必要がある。

加藤一二三氏は判決文で明確に猫の餌やりを禁止されているにもかかわらず、まだ餌やりを続けると宣言しています。これは狂信的な信念そのものです。私も動物の保護活動を過去にやっていましたが、何度か理不尽な脅迫を受けたことがあるので、上記は言い得て妙だと思います。

訴訟は手間もお金も非常にかかります。必ず勝てるとも限りません(実際に被害を受けていても証拠不足で負けることもあります)。勝訴したとしても、相手が無資力だったり、支払いを拒否した場合は、こちらに一円も入ってこない可能性もあります。誰にでも勧められる方法ではないことは明らかです。

やむを得ず駆除を選択する人たち

保健所が引き取ってくれない。忌避剤は効かない。訴訟は手間とお金が非常にかかり、勝ちが保証されておらず、勝っても効果があるかは不明。糞尿被害に困った人は、何か手段がないかとネットで探します。そうすると「駆除すればいい」という情報が出てきます。

不凍液を猫の餌に混ぜ、それを敷地内に配置し食べさせて駆除するという方法がある、とネットで調べると出てきます。もともとは5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)の園芸板のスレッドで、庭が猫に荒らされて困っていた人が2000年頃に考え出したもので、俗に「埠頭駅定食」と呼ばれているそうです。インターネットで調べると、以下のような「レシピ」なるものが出回っています。

インターネットで公開されている効果的な猫の駆除方法

猫の餌となるネズミを駆除して猫の数を減らす方法があります。ターゲットはネズミです。

猫用の餌はネズミも食べるので、猫用の餌にエチレングリコール(以下EG)を混ぜ、
自宅敷地内のネズミが出そうな場所に設置する。(EGはネズミには有害な物質)
EGはクルマの冷却水用の不凍液にも含まれていますが、純度100%品が良いです。
また猫用の餌はコンビニでも販売されており、ネズミ用の餌より遥に入手性が高いです。

エチレングリコール(研究実験用)
https://www.monotaro.com/p/3141/9307/


【環境省】エチレングリコール
https://www.env.go.jp/chemi/report/h16-01/pdf/chap01/02_2_4.pdf
※致死量に関するデータは8ページ

上記の資料によると、ネズミ(表記は「ラット」)の半数致死量(LD50)は、4700mg(体重1Kgあたり)。
有害ネズミ3種の中で一番体重が重くなるのはクマネズミで340g(0.34Kg)。つまり純度100%品なら、
一匹当たり約1600mgで死に至らしめることができる。但しあくまで半数致死量なので、2000mgぐらいで
見込んだ方が良い。

なお、あの『ちゅーる』はネズミも食べるらしい。
https://lineblog.me/mejiro_19/archives/1246449.html

『ちゅーる』にエチレングリコールを混ぜネズミの通り道に設置すれば、猫の餌となるネズミが食いつきそうだ。

要は、エチレングリコールを購入して、猫用の餌に混入させれば、猫が駆除できるということです。猫の駆除というと聞こえが悪いので、建前としてネズミ駆除と言ってるに過ぎません。

不凍液の主成分であるエチレングリコールが哺乳類にとって有害であること、及び不凍液やエチレングリコールが安価であることが普及の原因のようです。

エチレングリコールは無色無臭であり、混ぜても見た目は普通の餌と見分けがつかず、匂いを気にする猫も問題なく食べるそうです。このため効率的な駆除方法であると評価されています。エチレングリコールに猫の好む餌を混ぜて手軽に毒餌が作れるということは、複数のサイトで言及されており、効果も絶大であることが伺えます。即死せずにしばらくしてから死ぬというのも、毒餌を仕掛けたことが事実上発覚しないため、駆除を強く望む人には重宝されているようです。

毒餌での猫の駆除は法律違反か

愛護動物をみだりに殺傷することは違法です(動物愛護管理法44条1項。以下、動物愛護管理法を「動管法」という)。

第四十四条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。

では、「糞尿被害に悩まされている人が、毒餌で駆除した」場合、「みだりに」に該当するのでしょうか。これに関しては判例がないので、意見が真っ二つに分かれています。犯罪成立肯定派も否定派もいます。

法律違反だと主張する記事

法律違反でないと主張する記事

なぜ自宅敷地内に毒餌を配置しても犯罪として摘発されないのか

「自宅の敷地内に毒餌を設置して猫を駆除した事件で、有罪判決はおろか逮捕されたケースすらこれまで一つもない」というのは事実です。猫の虐待や殺害で逮捕されるケースとして、公園で猫を叩きつけて殺害したり、猫の殺害の様子を動画で撮影して公開する等の事例はあっても、敷地内に毒餌を設置したケースはこれまで確認されていません。

なぜ毒餌の敷地内設置は逮捕事例すら無いのか。その理由はおそらく下記だと私は推測しています。

理由1 証拠が残りづらい

動管法44条1項違反の犯罪が成立するためには、故意が必要とされます。つまり「意図的にやろうとして、それを達成した」ということです。もっと具体的に言うと「猫をみだりに殺そうという意思で毒餌を設置し、それを猫が食して死亡した」となります。

「家に毒餌をおけば成立しそうだな」と考える人も多いと思いますが、裁判でこれが認められるためには証拠が必要です。例えば「ネズミやゴキブリなど別の害獣・害虫を殺すつもりで設置した。猫を殺すつもりは無かった」と設置者が主張すれば、これを覆す証拠が必要となります。例えば「その家にはネズミもゴキブリも設置当時は存在せず、それらから被害を受けているという事実はない」等が考えられますが、そんなことの証明はほとんど不可能です。証拠不十分の実例としては、下記の「猫の島」での事件があります。

理由2 処罰の必要性が無いと考えられている

人の敷地内に入った猫は、糞尿や車等の家財を引っ掻くなど、許容限度を超えた害を与えることがあることは、上記の加藤一二三氏を被告とする判決で示したとおりです。遊びで猫を殺したのであればともかく、このような被害に苦しんでいる人が、自らの敷地内で猫を駆除する行為を罰することが、社会的に相当と言えるでしょうか? 動管法44条は「五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金」と重い罪です。狂信的な人ならともかく、通常の倫理観を持っている人はこのような駆除を処罰すべきとは思わないでしょう。

上述の警察官の罪状は殺傷(44条1項)ではなく遺棄(44条3項)ではありますが、この警察官も起訴猶予という扱いになっています。起訴猶予という制度ははまさにこのような「犯罪に該当する可能性はあるが処罰が社会的に相当でない」ときに用いられる制度で、本件もこれに従って起訴猶予となったと考えられます。

環境省の資料によると、平成30年の動管法違反での不起訴率は約76%で、29年が約67%、28年が約61%です。日本の不起訴率は6割程度と言われており、平成27年までの統計も概ね6割前後で推移しているので(30年度は少し不起訴率が高いですが)、動管法が特別扱いされているわけではないことがわかります。上記の警察官も、不起訴扱いとされた6割の中に入ったと言うだけでしょう。

そもそも、動管法44条は殺傷全般を禁じておらず、「みだりな殺傷」を禁じているに過ぎません。牛、豚、鶏は家畜として殺して食べていますし、保健所も必要に応じて犬や猫の殺処分をしていますが、それらが違法とならないのは(法律で認められている正当行為であると共に)「みだりな殺傷」に該当しないからです。

「確かに私は駆除したが、それは自身の財産を守るために行ったやむを得ない行為であるから、みだりな殺傷ではない」と駆除した人が主張したとすれば、果たして有罪判決が出るかどうかは怪しくなってきます。

警察も検察も無罪になる可能性が相当程度ある事件の検挙や起訴は避けるので、不起訴になるのはこのような事情も影響しているのだと予測されます。

理由3 警察が「民事不介入」でありたい

警察は個人間の争いごとに介入するのを嫌がります。そのときに方便として「民事不介入」を用いることがあります。場合によっては、刑事事件に該当するものでも「民事不介入」として対応を拒否することもあります。以下はそれを解説した弁護士のブログです。

猫は市街地では自立して生存するのは難しいです。ほとんどの自治体では害獣対策としてゴミは動物が荒らせないようにしているし、ゴミの他に市街地に猫の餌となる物は無いからです。従って市街地で糞尿に継続的に悩まされている人がいた場合、ほぼ間違いなくその猫に餌をあげている人がいます。

それは隣人かもしれませんし、数ブロック先の住民かもしれませんが、猫の行動範囲は概ね100m程度で、広くても1.65kmぐらいという研究結果があるので、餌やり人はそれほど遠くにはいないことがほとんどです。

放し飼いにされた動物が他人に被害を与えた場合、器物損壊等の刑事罰に問われる可能性があります(処罰事例はまだ無いようです)。また、動物の不適切給餌に対しては都道府県知事が是正勧告を出すことができ、それを無視すれば処罰対象となります。根拠法令を以下に挙げます。

第二十五条 都道府県知事は、動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水に起因した騒音又は悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等によつて周辺の生活環境が損なわれている事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、必要な指導又は助言をすることができる。

[第二十五条:引用者注]3 都道府県知事は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に係る措置をとらなかつた場合において、特に必要があると認めるときは、その者に対し、期限を定めて、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

第四十六条の二 第二十五条第三項又は第四項の規定による命令に違反した者は、五十万円以下の罰金に処する。

しかし、この勧告が出されたという例も、餌やり人が器物損壊で訴えられたという例も私は知りません。それは猫の敷地内駆除で述べた理由1(証拠不十分)と理由2(社会的に罰を与えるのが不相当)というのもあるでしょうが、警察がこのような猫トラブルに介入したくないという事情もあるでしょう。敷地内駆除はこのような猫トラブルの末に行われるものであるため、警察は同様に「民事不介入」として取り扱って来なかったと考えられます。

不適切給餌やそれに伴う器物損壊が都道府県や警察に取り合ってもらえないのとと同様、猫の被害者の敷地内駆除にも警察は取り合ってないのでしょう。

前述の「猫の島」の事件も、このような猫トラブルの知識があれば、見方が変わってくると思います。島民の中には以下のような意見もあったようです。

「もともと、島全体として『地域猫』を認めているわけではありません。Aさんが小さい頃に猫を飼い始めて、それがどんどん増えたのでは。なかには野良猫化した猫もいて、畑が荒らされるなど、迷惑を被ってきた島民もいるんです。

テレビでは『急激に減った』と言うけれど、そもそも去勢・不妊手術を施したのは、数を減らすためのはず。それに小さな島内で近親交配を繰り返した結果、体が弱く寿命の短い猫も多かったから、猫の数が減るのは当たり前のことでしょう。『SCAT』には“島外で猫を保護しなくては”と言われましたが、われわれとしてはむしろ“お願いします”と言いたいですよ」

この事件は、単純な善悪二元論では語れないのではないでしょうか。皆さんももし自分が当事者ならどうしたか、どうすべきだったかを、それぞれの当事者の事情も鑑みた上でよく考えてみてほしいです。

駆除を合理的な選択にしない為には

以上より、糞尿等猫の被害に悩まされている人にとっての最適解が、敷地内の毒餌駆除となりえることがわかっていただけたと思います。このような猫にとっても人にとっても理不尽な状況を解決するにはどうしたらいいでしょうか。

解決策1 地域猫の条件を法律や条例で定め、それに従い適正に飼育する

猫トラブルに関して「地域猫だから合法だ」という意味不明な主張をする方がたまにいますが、そもそも上述の通り、近隣住民への被害が伴う不適切給餌は最終的には犯罪に該当しうる違法行為であり、被害者がいる時点で地域猫活動は成立しません。近隣住民への配慮を伴った、被害が存在しない適切給餌であれば地域猫活動として認められる余地がありますが、「猫の為に人の被害は許容しろ」という精神は明らかに動管法の趣旨(1条)に反します。

第一条 この法律は、動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱いその他動物の健康及び安全の保持等の動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵かん養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害並びに生活環境の保全上の支障を防止(太字引用者)し、もつて人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とする。

適正な地域猫活動であれば解決策として有効ですが、地域猫を猫への餌やりの方便にしたり、管理者や責任者が曖昧で事実上地域猫活動として機能していなかったりと、活動の趣旨を曲解している場所も多いと聞きます。前述の「猫の島」のように、事実上猫の被害者への泣き寝入りを強いるために「地域猫活動」と称していたのではないかという疑いのある事例も散見されます。

私は新宿区に以前住んでいましたが、近所での不適切給餌がありました。餌は乱雑に撒かれており、ハエがよくたかっていました。水やりの容器も放置されており不潔でした。猫は耳がカット(避妊去勢の印)されていない個体もおり、適正に管理されていないことは明らかでした。その場所の近隣住民の中には、ペットボトルを大量に並べて猫よけとしているところもあり、私以外にも明らかに猫の存在を歓迎していない人がいました。

このような「地域猫活動もどき」が各所で蔓延っているので、地域猫活動を解決策とする場合にも法令によるルールづくりは必須だと考えます。地域猫活動が、責任を放棄して好きなように餌をやるための方便であってはなりません。

解決策2 不適切給餌や外飼いを違法化する

そもそも猫被害の元凶は猫ではなく、猫に給餌する人にあります。その人が給餌をやめるなり、猫を室内で飼うなりすれば問題は解決します。「餌やりをやめたくないが、室内飼いもしたくない/できない」という態度は、社会人として責任あるものとは到底言えないでしょう。

不適切給餌や外飼いを原則禁止とし、1で述べた法に従った適正な地域猫活動と認められる場合に限って外飼いや給餌を合法化すれば、駆除という最終手段を取る人も激減するでしょう。

解決策3 糞尿被害を与えた猫を保健所が引き取るようにする

そもそも、前述の「あらかじめ殺す処分や駆除を前提とし、捕獲や狩猟の方法によった者により、持ち込まれる猫」に「糞尿被害を受けてやむなく捕獲した猫」を含むことの相当性に疑問があります。前提として猫による被害が存在する場合は、保健所は引き取りの義務が法的に存在すると私は考えます。以下に関連法令を挙げます。

第三十五条 都道府県等(都道府県及び指定都市、地方自治法第二百五十二条の二十二第一項の中核市(以下「中核市」という。)その他政令で定める市(特別区を含む。以下同じ。)をいう。以下同じ。)は、犬又は猫の引取りをその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない。ただし、犬猫等販売業者から引取りを求められた場合その他の第七条第四項の規定の趣旨に照らして引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として環境省令で定める場合には、その引取りを拒否することができる。

(以下は動管法ではなく、上記の「環境省令」に該当する法令です)

第二十一条の二 法第三十五条第一項ただし書の環境省令で定める場合は、次のいずれかに該当する場合とする。ただし、次のいずれかに該当する場合であっても、生活環境の保全上の支障を防止するために必要と認められる場合については、この限りでない。
一 犬猫等販売業者から引取りを求められた場合
二 引取りを繰り返し求められた場合
三 子犬又は子猫の引取りを求められた場合であって、当該引取りを求める者が都道府県等からの繁殖を制限するための措置に関する指示に従っていない場合
四 犬又は猫の老齢又は疾病を理由として引取りを求められた場合
五 引取りを求める犬又は猫の飼養が困難であるとは認められない理由により引取りを求められた場合
六 あらかじめ引取りを求める犬又は猫の譲渡先を見つけるための取組を行っていない場合
七 前各号に掲げるもののほか、法第七条第四項の規定の趣旨に照らして引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として都道府県等の条例、規則等に定める場合

ただ、上記環境省令の第二十一条の二の二号や五号、六号に該当するとして保健所が引き取り拒否する可能性もあるので、法改正が必要になる可能性もあります。

「保健所が引き取る=殺処分」ではありません。地域によっては、保健所と動物愛護団体が連携して、保健所に連れ込まれた猫の飼い主を動物愛護団体が代わりに探すという活動もやっています。

保健所に連れて行かれた全頭を救うことは難しく、殺処分される猫も出てきてしまうかもしれません。だからといって何の関係もない人に被害を許容し続けろというのは深刻な人権侵害であり、前述の通り動管法の趣旨に反します。それに、保健所に連れて行かないのは問題の先送りにしか過ぎず、毒餌で駆除されたり、事故にあって死亡したりと悲惨な末路を迎える猫も少なくないでしょう。地域猫として適正に飼育できない限り、外にいる猫が捕獲されて保健所行きになるのは、捕獲者が猫による被害者である限りやむを得ない措置でしょう。

外で無責任に飼っている人も、「駆除の可能性があるのなら室内飼いにする」という判断をする可能性は十分あります。何を言っても他人の迷惑を顧みない人には、負のインセンティブを与え行動を促すほかありません。

狩猟を解決策にしている国もある

その他「外猫の狩猟を自由化すべきだ」という意見もあります。実際に動物愛護の先進国と言われるドイツでは狩猟が許可されています。

自宅の敷地内で罠や毒餌を使っての駆除は合法化する、というのも一つのやり方です(かなり大きな反発が予想されますが)。なお、日本においても、猟区における猟期内の猫の狩猟は狩猟免許さえあれば合法です。

「自治体や国で全部面倒を見る」も非現実的

たまに「国や自治体が全部面倒を見ればいい」という人がいますが、流石にこれは馬鹿馬鹿しすぎて詳細を語る気も起きません。小学校卒業レベルの算数ができれば、これがいかに経済的に非現実的なことかはすぐわかるはずです。もしこんなことを主張する人がいたら、その人は間違いなくこの問題を真面目に考えていません。

おわりに

猫の遺棄事件や殺傷事件が起こると、いつも決まって「猫が可愛そう」「信じられないことをする」「なぜ逮捕されない」という発言がSNS等で頻発します。しかし、それが起った背景まで考慮できる人はごく僅かです。私が知る比較的賢い人も、背景の考慮が(知らなかったので)できず、妥当性の欠ける発言をしているのが何度か見受けられました。「このまま多くの人が猫トラブルの背景を知らないのは良くない」と考え、問題の本質は個人の気質ではなく、現行制度にあるとした当記事を執筆しました。

残念なことに、動物が絡むと非論理的な発言をしたり、明らかに人権軽視な態度をとったり、あろうことか脅迫や誹謗中傷を行う人もSNSでは少なくありません。暴力的な発言は民主主義の敵であり、人の自由や人権を侵害するものです。動物の可愛さを理由として、人の尊厳を踏みにじるような言動が許される世の中であってはなりません。

当記事を見て、多くの人が動物行政について様々な情報を調べるきっかけとしていただき、誤った前提から議論する人が少しでも多く減り、冷静で建設的な議論が広まることによって、不幸な動物が一匹でも多く減るよう願ってます。

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