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小樽新聞 大正13(1924)年12月28日 日曜日 その2

保険会社の支払い 

はないらしいが見舞金は出るだろう
 爆発現場付近には雑穀、密柑(みつかん)等を満載中の艀船が多数あった。これら艀船に対する積み荷の損害等は多額になるだろうがこの損害金を保険業者が支払うだろうか。海上保険証券の付則約款(契約内容をあらかじめ定めた条項のこと)には「海上に停止漂流または浮いて漂っている爆発物が原因となる損害は、その発生場所にかかわらず当社は責任を負わない」とある。
 また、火災および家屋の損壊の被害は火災保険証券約款中に「爆発物によって生ずる損害は保険証券に明記していなければ引き受けられない」とある。
 結局今回の損害は海上保険、火災保険ともに保険会社は損害金の支払いをおこなわないと考えるのが妥当であろう。
 ただし、見舞金その他の問題は当然起こることから、これらに関し保険業者の会合を注目すべきである。

肩から落としたくらいでは決して爆発しない

 三田銃砲店側の談
爆発事故の知らせを受け、札幌市南1条西4丁目にある三田銃砲店にむかった。社員の関氏は心痛に耐えながら話した。「今のところ詳細な知らせを受けておりませんが、とにかく原因調査のため、先ほど店員三人を現場に向かわせたところです。爆発の原因について、私どもからこのようなことを申し上げますが、ダイナマイトは肩から落とした程度では決して爆発するものではありません。艀にあった際に爆発したのか、それとも陸揚げしてからであるのか判明していませんが、いづれにしても申し訳ないことで、死傷者の方々に対しては誠にお気の毒に堪えません。このうえは一人でも死傷者が少ないことを祈るのみです」とのことだった。

まるで生き地獄のよう

 貨物列車5、6台横倒れ 線路は弓のように曲がる
 爆発は午後1時27分に起きた。黒煙が空一面に広がり凄まじい光景であった。記者が現場に到着したときは、海上の大艀が真っ赤な炎を噴き上げていた。警官や在郷軍人(軍を引退し、地元に帰ってきた者)が声をからして「爆発するぞ、危ないから立ち去れ」と時間がたつにつれ次々と詰めかける群衆を追い払っていた。船車連絡所の陸地約109m四方は陥没しており、そこには多数の作業員の手足や首がバラバラ浮かんでいた。
 「また遺体が上がったぞ、これで15体目だ」救護隊員はイカダのようなものに顔を半分つぶされた女の遺体を引き上げ、それを青竹とムシロで急ごしらえした担架に乗せて、手宮の済生会診療所に運んで行った。
 現場付近の建物のほとんどが全部屋根を飛ばされ、潰れるなどして満足なものは何一つない。その周りの雪には鮮血が飛び散り、見るからに恐ろしい。鉄道の線路は弓なりに曲がって、貨物列車が5、6台横倒しになっている。その側にゴム靴や犬の死体、血に染まった手ぬぐい、草わらじが散乱していて、眼もあてられぬ惨状であった。
 黒焦げになった「紫丸」や「千早丸」の残骸は特に目についた。そこには乗組員の家族が押しかけ、我が子や夫の無事を祈る姿が見る者を泣かせた。
 大艀に積んでいた揮発油はまだ燃え続けている。同日碇泊していた砕氷艦(水面の氷を割りながら進む船)「大泊」の水兵2、30人がその艀を中心に機敏に活動している姿は勇ましかった。
 沿岸に係留中であった大艀13、4隻が焼けたため、海面には正月も間近なことからミカン箱や菰包み(こもづづみ)がいっぱい浮かんでいた。それらが散乱した海面をかき分けて遺体を捜索していたが、爆発現場から2、300mも遠く離れた海中に飛んでしまっているため、見つけ出すには困難を極めた。
 作業員の家族が眼を腫らして集まってきた。その中には行方不明の巡査の妻も加わっていた。
 爆発の振動で手宮市街では火災が起きていた。その中を一つ一つの血みどろの遺体はさ迷いながら病院に向かっていた。まるで戦場のようであった。

物凄い火の海

海面に漂う揮発油が燃え火の海となった
 火の衰えを見据えて遺体捜索を始める

 小樽水上署は事故発生と同時に三井、三菱、大倉、吉田、山下の各社にそれぞれ百人分の食料の配給を依頼するとともに、船舶荷役用のガス燈を持ち寄って、明かりの消えた現場での発火の警戒に役立てた。
 また、今だ海面に残る揮発油も燃え続けていることから、延焼を防ぐために水上署員および水難救済会員が警備と防火につとめて夜を明かし、火の衰えを見据えて遺体収容捜査を始めることとなった。

三菱会社小樽出張所埋没

 社員負傷者収容
三菱会社出張所は爆音とともに倒壊し、同社員の田中勝吉は手首一本を折り、両目に大けがをしたため鎌倉病院に入院した。
 また、福島熊太郎、下出亀造、菊池喜三郎の三名は軽症にて瀬戸病院へ。島田清作は小樽病院に収容された。その他同社小蒸気船の巴丸船長も火傷を負った。

21名の遺体発見

 氏名判明は7名
 午後6時までに21名の遺体が発見された。その中で氏名が判明したのは次の7名である。
高島町三 高島彌太郎(43)手宮駅員 山形両槌(26)末廣町四六 谷内助九郎(40)富岡町一丁目 道場政則(44)石山町 坂敬義(?)豊川町五九 横井?(30)祝津町 上野久蔵(不詳)
*「?」は新聞の文字が読めない

硝子相場の値上げの噂

 商店は打ち消す
小樽市内中の窓ガラスのほとんどが破壊されたが、市内の小売店には,3、4百枚程度しかなく、保管しているものを倉庫から出し、店頭に並べ始めた。  
 これによってガラス商の間で相場の値上がりの噂が起こった。それは大手ガラス会社の旭硝子会社の小樽出張所が在庫不足を理由に価格を引き上げるという怪しい話である。
 早速、同出張所に問い合わせたところ「とんでもありません」と次の様に語った「今はガラスの不需要期でありますが、半紙判(縦24.3㎝、横33.3㎝)の在庫は豊富であり、美濃判(縦28.2㎝、横40.9㎝)は少ないですが、これも近いうちに入荷します。当方としては絶対に値上げをしないだけでなく各取扱店にも値上げさせないように伝えるつもりですのでご安心ください。なお、これまでの小売の価格は半紙判17、8銭、美濃判24、5銭です。一方、札幌、旭川方面のガラスは注文のため、既に品切れとなった訳ですが、警察が暴利の取り締まりを厳しくするはずです」

錦町で火事

 十二戸焼く
 この爆破騒ぎの最中、錦町五二の寺井方から火災が起きて12戸が全焼した。原因は爆発の振動で棚にあった揮発油がストーブの上に落下し、発火したもので、損害は3、4千円の見込みである。
 各消防隊は2時過ぎ一度引き揚げたが、この日は通常以外の予備の隊員も各消防番屋に待機していた。警戒の任に当たっていた高島消防組員10名が応援に駆け付け、爆発や火災の現場で目覚ましい働きをしていた。

その3に続く


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