日々是暴食★トラウマめし【第12食】福井のソースカツ丼とストリップ劇場と
2020年の年末、北陸へ
福井県には中々行く機会がなかったので、コロナ禍の年末年始に青春18きっぷを利用して旅行へ行くことにした。見てみたいところはたくさんあったので憧れの場所でもあった。
超個人的な福井のイメージといえば、東映実録映画の最終作となった『北陸代理戦争』。映画が原因でモデルとなった組長が射殺されるという陰惨な事件が起き、以後東映は実録路線から手を引いた。しかし作品自体は傑作であり、手負の松方弘樹がカニを殻ごとバリバリ食べて生気を復活させるシーンと、浜辺に首から下を埋められたチンピラ3人が轢き殺されるラストシーンは個人的に特にお気に入りだ。
あの3人が殺された浜に行ってみたい。
早朝に東京を出て、列車を乗り継ぐこと約11時間。大垣から米原を通過し、敦賀経由で福井駅に到着した。ひとまず駅前の居酒屋でビールと焼き鳥を引っ掛け、今日の疲れを流した。のだが、なにか体調がおかしい。前日の夜くらいから目の調子が悪く、電車に乗っている間に悪化したような気がする。
名物・永平寺のおろしそば
翌朝、午前中から永平寺に行く予定だった。しかし左目がやはりおかしい。気になっていた黒いモヤっとした影が大きくなり、視界が塞がったような気がする。福井駅前の目医者を探したが、開くにはまだ時間がある。仕方ないので先に寺へ向かう。
えちぜん鉄道とバスを乗り継ぎ、山を登って曹洞宗の総本山へ。曹洞宗はストイックな禅宗で〝只管打坐〟という、ただたひたすらに座禅する修行を行う。座禅という行為そのものにすべての意味がある、という大変に難解で、変わった宗派だ。
異端児だった開祖道元さんは京を追われるように出て、この福井の辺鄙な山奥に修行道場・永平寺を建立した。確かに、この寺の門を一度くぐれば悟りを開くまで座禅するしかない、という気分になるだろう。体重100キロ超級の私では5分と座禅することができない。雲水さんたちのキビキビとした動きに頭が下がる。合掌。
永平寺はそばが有名らしい。冬期なので店はそんなに空いていなかったが、美味しいおろしそばとごま豆腐をいただくことができた。
観光客はもちろん、寺でもそばは食うはずだが、修行中の坊さんたちにとって、こんなに美味しいそばは贅沢品なのだろうか。しかし寒いのでカロリーは取らねばならず、肉は食さないが粥などご飯はしっかり食べるそう。その食べ方から器の洗い方まで道元さんが決めたルールを何百年も続けてるというんだからやばい。ぐうたらな自分が曹洞宗で出家するのは無理に違いない。
山を降り目医者へ行った。診断の結果は網膜裂肛で、網膜が破けて出血しているため、その血が眼球に広がり黒いもやのようになっていたらしい。しかも「ほっとくと破れ目が大きくなり網膜剥離へ移行するかもしれない」とのことで、その場で緊急手術となった。オーマイガ! レーザーで目の奥を焼いてふさぐのだが、先生の適切な処置で無事に終わった。
飛び込みで行ったのにもかかわらず、先生と看護師の方が本当に親切で助かった。しかし手術代が思ったより高く、保険適用でも5万円以上かかったのと、しばらく酒と運動は控えるようにという指示は痛かった。福井の後、京都から九州へ渡り遊びまくる計画は断念した。
老舗洋食屋で食うソースカツ丼
トンボ帰りはあまりにもったいないので、せめて福井だけは観光することにした。ソースカツ丼が有名だそうで、元祖であるヨーロッパ軒の総本店を訪れた。定番のソースカツ丼と冬だけというカキフライを頼んだ。美味い…サクッと揚がったカツにサラッとしたウスターソースのような、洋風のタレが絡まっている。まさに洋食の特上な食い物だ。ビールが飲めないなんて地獄だよ…。
翌日、『北陸代理戦争』の舞台である三国へ移動した。丘の上の昭和風味なホテルから冬の日本海がよく見えて美しい。
東尋坊で海鮮丼めぐり
自殺の名所、東尋坊は意外にも江ノ島のような観光地だった。言い過ぎか。ちょっと寂れた感じが心地よく、自殺する気に全くならない。
せっかくなので海鮮丼や蟹を食べたいがけっこう高く3千円をこえてくる。悩んだ末に、ちょっと安い甘エビ丼とカニ汁をいただいた。うーん、悪くはないけど金をけちらず色々入ってるのを食べればよかったな。最新の東尋坊の海鮮丼情報に関してはユーチューバーのトミックさんの動画を観てほしい。
北陸のソウルフードラーメン
夜はあわら温泉のストリップを観に行った。北陸地方どころか、日本海側で営業しているストリップ劇場はここだけではないだろうか? 外は寒かったが、ストーブがたかれ中は暖かい。この日はお客さんが多く、大変に賑わっていた。劇場の方によれば、踊り子より客の方が少ない日もあるそうで、中々厳しいようだ。なくなる前にみんなで応援すべし!
踊り子さんの熱量で病み上がりの自分も元気が出てきた。しかし酒が飲めないため、小屋の近くの酒場はどうにも具合が悪い。ラーメン屋を検索すると、ちょっと遠いが8番らーめんがあるじゃないか。石川県出身のパイセン曰く、北陸地方のソウルフードらしい。タクシーに乗り、野菜らーめんを食べに行った。これだよ、これ。体が芯から温まり、日本海から吹き付ける北風にも負けない力がついた。
映画のナレーションにも出てくるが、北陸3県の県民性を示す言葉に「越中強盗、加賀乞食、越前詐欺」というのがあるらしい。福井の人は詐欺を働いてでも生き抜くしたたかさと力強さがあるらしい。あのストリップ小屋はそんな感じだな。しぶとく営業を続けてほしい。
来年3月には北陸新幹線が敦賀まで延びる。前回は行けなかった、あのチンピラたちが轢き殺された浜へ今度こそは行ってみたい。
福井編〈了〉