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ここが変だよ『バチェラー5』②恋活・婚活の場で「家族のこと」を話すのは絶対にNGです!という話【中村淳彦の名前のないコラム】

『バチェラー5』、最終回を前にして気になることがひとつ。まだお互いに深く知らないパートナー候補を前にして「家族の話」をすることがどういう意味を持つのか、本当にわかっていますか? ……当然ネタバレありなので、まだ観ていない方は観てから、どうぞ。

 ノンフィクションライターの中村淳彦です。
『バチェラー5』について一部の人が、家族のことを相手に話しすぎてるんじゃないかなっていうのが、めちゃめちゃ気になったんですよね。
 女性たちが長谷川さんに家族の話をしまくるようなことがありました。僕の記憶によると、周典さんは兄弟がたくさんいて、家族がものすごく仲良いみたいな話をしていた。あと杤木愛シャさんがすごく親から愛情を受けて育ったみたいなことを、長谷川さんに熱弁されていた。女性たちの親に会いに行く回はある程度やむを得ないけど、大内さんが母親との仲の良さをかなり執拗に喋っていたし、長谷川さんにも喋っていた。
 今日言いたいのは、恋愛とか婚活の場面で、まだあんまり信頼関係がない間に、家族の話をするのはどうなんですかね?っていう疑問です。
 僕はこれマイナスしかないと思うので、やめたほうがいいかなと思っていて。家族の話をして、相手がどう思うと思いますか? あなたのこともよくわかってないのに、家族と仲良いとか、家族に対して大切に思っているみたいな話は、聞いているほうは、どうでもいい話なんですよね。相手から首をかしげられる可能性があるので、どっちかって言うとマイナスが大きい。家族の話はよっぽど仲良くなった後からで、十分なんじゃないかってことなんですね。

 人を変えれば分かりやすいと思うけど、例えば45歳以上の、アラフィフのおじさんが婚活の場面で、自分は親を大切にしていて、家族が大好きで、家族に大切に育てられてみたいな。そんなことをジジイが喋りだしたら、女性は嫌な予感しますよね。ああ、おじさんなのにマザコンなんじゃないかとか、介護要員として嫁に期待されているんじゃないかとか。そういうことを思って、必ず首かしげるはずなのです。
 どうして女性が首かしげるのって、当たり前ですよね。婚活の最中だからあなたのことは気になっていても、親との関係とか親のことは、あなたのことを知らないのに、そんなこと言われても困るわけですよね。

『バチェラー5』の長谷川さんは、親の話をすれば「素敵な家族ですね」って返していたけど、「素敵な家族ですね」以外は言ってない。杤木愛シャさんにも大内さんにも周典さんにも、家族の話をされた時に、「素敵な家族ですね」「素敵ですね」しか言ってないと思うんですね。そう言うしかないじゃないですか。
 第三者はあなたより一歩引いているので、いくら自分は親を大切にして、親に大切にされてとか言っても、親子関係のことなんてわからないから、言っている本人が大切にしてるのは尊重するけど、実際に親に大切にされた事実みたいなのはわからない。育てられた子供は大切にされたと言っていても、それが家父長制の権化みたいな親で、親は大切にするのが当然で、年功序列とか、そういうことを全部注ぎ込んで、敬老の意識みたいなことを植え付けて、目上の人は尊敬しなさい、みたいなことを教えられているだけの可能性もあるわけだし。
 ポエム漬けにされてる介護職員は、人生の先輩は敬いなさいみたいなことを産業として言われてるから、高齢者のことを、敬意を払って介護しなさいって教えられてるからやってるけど、尊敬しなさい、敬意払いなさいなんて言われても、実際にはロクでもないジジイは山ほどいる。こんな奴をどうして尊敬してなきゃいけないんだ、っていうのはもう日常茶飯事でしょう。

親の話をしてもプラスになることなんて何もない

 話がちょっとズレたけど、親を大切にしたい、それはいいですよ。でも、その個人的な文脈を、婚活中とか恋活中の相手に自分の特殊な気持ちを伝えて、同調圧力みたいなのを要求するじゃないけど、そういう発言するっていうのは、良くないんですよ。
 長谷川さんも「素敵ですね」でなんとか切り抜けていたけど、「素敵です」以外言いようがないし、親が大切なことを尊重していても、じゃあこの人と結婚するんだったら、義理の父親とか義理の母親を自分も大切に思うまではいいけど、大切な先があるじゃないですか。お前は夫(妻)なんだから俺たちの介護しろみたいなこと言い出したら、大切にするって言ったら、そんなことまでやらなきゃいけないんですか?というリスクもある。
 団塊の世代がこれから介護となる2025年問題がはじまります。そこで団塊ジュニア世代がこんなボロボロの中で親を大切に思って、団塊の世代の介護を全身全霊でやってしまったら、そこでもう団塊ジュニアの人の人生はほぼほぼ終わり。そういう人も続出する。人生、そんなことでいいんですか?ということなんですね。
 厳然たる世代格差が存在して、団塊の世代は恵まれて、団塊ジュニア世代は悲惨な結末を迎えた。今までひどい目にあったけど、最後に2025年問題の介護が残されているんだったら、団塊ジュニア世代は、もう介護を放棄して、「親を大切に」とは思っていても、申し訳ないけど我々はもう死にそうなのでってことで、あなた方の介護は放棄すると、一切やりませんと。それで死んじゃったら自己責任でいいですよってことで収めたら、今までの悲惨な世代格差で苦しかったものが少しは縮まるっていうことなんですよ。
 話はあちこち行ったけど、この『バチェラー』とか、婚活の場とかで、相手とかなりの信頼関係ができるまでは、親を大切に思っているとか、親との関係なんていうのは、相手に聞かれない限り自分から言わない方がいい。全くプラスになることじゃないから。

 最後にちょっと付け加えると、このバチェラーに出ている美人女性たちは、親を大切にして、相手にも同じぐらい大切にしてくれる人を選びたいみたいなのは、まあ許される。でも、中年オヤジが同じことを言って、親を大切にしたい。母親を大切にしたいみたいなことを、婚活の女性に求めても、そんなこと本当に女性たちはどうでもいい。だから、絶対言っちゃだめですよね。
 親を大切にしたいなんて優先順位が後のことを、全面的に条件に持ってくると、そんなことしていたら誰もいなくなってしまう。特に中年男性の婚活では親の話は気をつけて欲しいです、ってことでした。

<著者プロフィール>
中村淳彦(なかむら・あつひこ)
ノンフィクションライター。無名AV女優インタビュー『名前のない女たち』シリーズ、『東京貧困女子。: 彼女たちはなぜ躓いたのか』、『悪魔の傾聴』などヒット作多数。花房観音との共著『ルポ池袋 アンダーワールド』(大洋図書)が絶賛発売中。Voicy「名前のない女たちの話」日々更新中!https://voicy.jp/channel/2962