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愛人を殺し男性器を切り取った猟奇のヒロイン「阿部定はまだ生きている」【昭和の怪人】

昭和の猟奇殺人犯としてあまりにも有名な阿部定だが、その消息は不明。存命なら今年で118歳となるが、亡くなっていたとしても墓すら発見されていないのは不思議だ。訃報を載せたメディアはない。警察当局がその消息を知らないとも思えない。つまり、まだ生きている可能性もあるのだが……。
朝倉喬司・著、『昭和の怪人』より一話抜粋してお届けします。

逮捕の瞬間、「あたしがお探しの阿部定ですよ」と言い放った(東京朝日新聞1936年5月21日)

阿部定〝最後の地〟にて

「阿部定さん? ああ、たしかに一緒の店で働いてたことがあるよ。ただあの人は客寄せで雇われてたからな。店で注目の的になってんのが仕事で、こっちは板場だろ。だからあんまり話をしたこともなかったけどね」
内房・鋸南町の勝山海岸近く。砂浜へ向かう道沿いの小料理店「N」の主人の、打てば響くような返事に、私は、時代を半世紀ほどタイムスリップしたような気分になった。
 阿部定。彼女が男を殺してペニスを切断、それを帯の間にはさんで東京中を逃げまわり、新聞に
「いづこに彷徨ふ?妖婦〝血文字の定〟」
 などと書き立てられたのは昭利11(1936)年のことである。猟奇殺人のヒロインとして社会面にブレイク・スルーした定は、戦後になればなったで、「性解放の旗手」に見立てられたり、大島渚の映画や渡辺淳一の小説に〝登場〟してみたり、ずっと超有名人であり続けた。
 いってみれば歴史上の人物である。
 その定の身近にかつていた人が、いま目の前にいる事態そのものが、何だか夢みたいだった。
「そのころ彼女はもう50過ぎだったけどね、色白でキリッとしたいい女だった。で、憶えてんのはおカマといい仲でさ」
「おカマと!?」

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