見出し画像

夫殺害に失敗した後は整形し風俗で荒稼ぎ…偽りの結婚生活はカネだけがすべてだった|中国人妻インスリン殺人未遂事件・鈴木詩織

中国から嫁いだ若い女は、生命保険目当てに夫殺害を計画。睡眠薬で眠らせてインスリンを注射すると、意識不明になった夫は脳に障害が残り、植物状態となった。不審に思った親族の依頼により捜査が始まったーー。
週刊誌記者として殺人現場を東へ西へ。事件一筋40年のベテラン記者が掴んだもうひとつの事件の真相。報道の裏で見た、あの凶悪犯の素顔とは。

そして謎だけが残った

 豊満なバストを、これ見よがしに両手で持ち上げる風俗嬢さくら。彼女は、都内・浅草で中国エステ「メサイア」を経営、自ら客を取るプレイングマネージャーでもあった。店のホームページには身長158、B、スリーサイズを「88(D)-59-88」と記し、年齢は25歳。一千万円を掛け改造した肢体、8歳もさばを読んでいた年齢も、コケティシュに微笑むさくらを疑う男はいなかった。風俗店関係者の話。

「8人の中国人女性が在籍して、前立腺を刺激する性感マッサージ『アナル性感コース』など独自色を出し人気があった。噂では、本番行為もあったようだ」

 多額の金を手に我が世の春を謳歌していたさくらに、捜査の手が伸びていることをこの時知る由もなかった。
 06年3月10日、千葉県警と匝瑳署はさくらこと鈴木詩織(33)と知人の女性を殺人未遂容疑で逮捕した。容疑は2年前の4月、夫の鈴木茂さん(54)に糖尿病治療薬・インスリンを多量に投与した疑いだった。

「知人から譲り受けたインスリンを、詩織は睡眠薬で眠らせた茂さんに注射したのです。血糖値低下による脳障害で意識不明の重体です。茂さんには5千万円の保険金が掛けられていて、警察は保険金目的の殺人未遂事件と見ています」(県警担当記者)

  中国人風俗嬢の夫殺害未遂ーー衆人注目のネタにわたしは千葉県光町(現・横芝光町)に飛んだ。都内から車で2時間、九十九里浜が近い。茂さんと詩織が生活していた集落は小高い丘の窪地にあった。
 主人のいない家は荒れ果てていた。窓からは、長男を抱く笑顔の詩織、茂さんの家族写真が丸見えだった。奥の敷地には柱や材木が散乱していた。近所の主婦が声を潜めて話す。

「11年前(95年)の12月28日朝6時頃、茂さんの両親が住んでいた家から火の手が上がったのです。焼け跡から殺された2人が見つかりました。飼っていた犬が吠えなかったので、おかしいと集落の噂になりました。火事の第一発見者が秋子でした」

 秋子とは詩織の日本名で、秋に来日したからつけられたという。旧名・史艶秋は中国黒竜江省で5人兄弟の3女として生まれ、93年10月中国でのお見合いツアーで茂さんと知り合った。翌年に2人は結婚する。先の主婦が続ける。

「茂さんはバツイチで子供はいませんでした。秋子は愛想がよく、日本語も上手かったのでみんなに可愛がられていましたね」

 その頃、秋子は近所の工場へパートに出る。アイドル扱いの秋子は、社員旅行で引っ張りだこだったという。その笑顔とは裏腹に、金銭に対する執着は只ならぬものだった。茂さんが通っていた飲食店の話。

「茂さんは『買い物で1万円渡すと釣り銭をよこさない。あいつは中国に家を建てた』と嘆いていましたから、相当な金額を送金していたようです」

エステ店での源氏名は 「さくら」。
傷害・殺人未遂で懲役15年の判決が下った

 言ってしまえば、それが史艶秋のお見合い結婚の目的であり、成長著しい中国という国家の格差の具現ではなかったのか。
 実は殺人未遂は再逮捕で、最初の逮捕容疑は茂さんに対する熱湯を掛けた傷害事件だった。茂さんの知人が語る。

「当時、茂には2人の息子がいて、秋子が中国に連れて行ったきり日本に戻さなかった。2人に喧嘩が絶えず、そこに熱湯事件が起きたのです。不思議なのは、全治5ヶ月という重篤な火傷なのに秋子は救急車も呼ばず、茂は自分で運転して病院に行ったのです」

 詩織は、茂さんが入院した病院で知り合った女からインスリンを入手、殺人未遂事件に発展する。知人が続ける。

「もっと不思議なのは『俺は殺されるかもしれない。死んだら解剖してくれ』と区会でみんなの前で言っているのに『秋子は悪くない』と庇うんだよ。あの火事で支払われた保険金のうち400万円が秋子に渡っているらしい」

 インスリンを注射されてから5年後の09年7月、意識を取り戻すことなく茂さんは入院先で息を引き取った。何故、火傷を負わされても詩織を庇ったのか。茂さんの両親を殺害、放火した犯人は誰なのか。茂さん亡き後、謎だけが残った。

好評発売中!

小林俊之(こばやし・としゆき)
1953年、北海道生まれ。30歳を機に脱サラし、週刊誌記者となる。以降現在まで、殺人事件を中心に取材・執筆。帝銀事件・平沢貞通氏の再審請求活動に長年関わる。