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恐怖のマインドコントロール「娘が殺人に手を染めた」と一家を追い詰め、拷問し、お互いに殺し合わせた|北九州連続監禁殺人事件・松永太、緒方純子

2002年3月、北九州市内で発覚した連続監禁殺人事件。松永と緒方は共謀して被害者を監禁・電気ショックで拷問し奴隷状態にするなどして金を巻き上げ、計7人を殺害したーー。
週刊誌記者として殺人現場を東へ西へ。事件一筋40年のベテラン記者が掴んだもうひとつの事件の真相。報道の裏で見た、あの凶悪犯の素顔とは。

「電気ショック」で奴隷状態に

 2012年、テレビのワイドショーを連日騒がせた兵庫県尼崎市の連続変死事件。鬼女・角田美代子(64)の自殺で呆気なく収束した。その原型とさえ思わせる殺人事件が、2002年3月に北九州市で発覚した。端緒は、監禁されていた17歳の少女が、市内門司区に住む祖父母に助けを求め、逃げ込んだことによる。祖父が語った。
「体中にひどい痣があって、しかも『足の爪を自分で剥いだ』と言うのです。何で、と聞くと『電気が怖い』。スタンガンで脅されていたのでしょう」
 監禁致傷で逮捕されたのは松永太(40・当時)と内縁の緒方純子(40・同)だった。当時10歳だった少女と父親の4人で小倉北区のワンルームマンションで同居を始めたのは94年10月。元不動産会社員の父親は、松永から約1100万円を巻き上げられていた。
「お父さんはあの人たちに殺されて海に捨てられた」
 保護された少女は、捜査員にこう呟いた。この少女監禁事件は、その後明らかさになるおぞましい殺人事件の序章に過ぎなかったのだ。調べが進むと緒方純子の両親、妹夫妻と2人の子供の計6人も忽然と消えていた。

 松永と緒方は同じ福岡県立高校の同級生。松永は実家の布団販売業を継ぎ、柳川市に有限会社を設立する。知人の話。
「一時は羽振りが良く青年実業家を気取っていたが、多額の負債を抱えて夜逃げした」
 緒方は短大を卒業後に久留米市内の幼稚園で保母として勤務したものの3年で退職。その後、愛人関係にあった松永の会社で働くが、詐欺罪で指名手配され2人は逃亡する。無職だった2人の生活を社会部記者が解説する。
「口の上手い松永は結婚詐欺を繰り返し93年には1400万円、96年には結婚準備金名目で35歳の女性から360万円巻き上げています。97年には別の女性に通電を繰り返して虐待、200万円を脅し取っています」
 通電とは、スタンガンのことではなく電線を剥き出しにしてクリップを装着、身体に送電してショックを与えることである。松永は会社設立時にこの方法を考案し、社員を恐怖に陥れ支配下に置いた。虐待されれば、その相手から逃れれば済むことだが、それをさせなかったのが松永の特異な才能だった。司法担当記者の話。
「逃亡中のアパートを仲介したのが少女の父親で、過去に会社の金を使い込んだことを聞き出すと執拗に責め立て奴隷状態にしたのです。スノコで囲った檻に入れそんきょの姿勢を取らされ通電。大便を漏らすとそれを食わされた。衰弱した父親は96年2月に34歳で死亡しました」
 少女に、歯形がつくほど父親を噛ませた松永は「お前が殺したことが分かり警察に捕まる」と脅迫、意のままに従わせた。緒方と少女に遺体処理をさせ、内臓はミキサーで液状化にされ下水や便所に流された。肉片や骨は鍋で煮込み海に投棄させた。

2011年末、松永には死刑が、緒方には無期懲役が確定している

 生活に窮迫した松永が次に狙いを定めたのは資産家だった緒方の実家だった。司法記者が続ける。
「『純子が殺人に手を染めた』と家族に吹き込み、緒方一家を追い詰めたのです。『殺人者の純子の面倒を見るため』と8ヶ月間で6300万円を巻き上げた。搾り切った挙げ句、一家7人を監禁、通電の恐怖で支配しました」
 通電に序列を作り、最下位の者に行う。通電を避けたい心理から家族は疑心暗鬼になり崩壊していく。そして殺戮へと突き進む。
「松永は純子に父親(61)の乳首に通電を命令、その時のショックで死亡します。遺体を家族に処理させました。奇声を発するようになった母親(58)の陰部に通電、浴室に閉じ込め妹夫婦が電気コードで首を絞めました。こうして、わずか半年で6人が殺害されたのです」
 残った家族が包丁や鋸で遺体を解体。下水や海に捨てられた。緒方家は純子を除き、この世から消滅した。
 松永は純子の母親とも肉体関係にあり、性愛と暴力で支配していた。人間はどこまで落ちていけるのか。松永太の深淵に底はない。

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小林俊之(こばやし・としゆき)
1953年、北海道生まれ。30歳を機に脱サラし、週刊誌記者となる。以降現在まで、殺人事件を中心に取材・執筆。帝銀事件・平沢貞通氏の再審請求活動に長年関わる。

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