外為法事前届出対象業種の追加に際し、ベンチャーキャピタルが主に行うべき対応について〜1. 制度の概要理解と、自社状況の確認編〜


0.記事の目的


まず、この記事の目的は、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」)について、2019年5月に「事前届出対象業種の追加等」が告示され、8月1日より適用されたことに伴い、まさに今さまざまな対応に奔走している国内VCの皆様と、それぞれが蓄積したナレッジを共有することで、少しでも関係者全員の実務効率を高めたいというものです。

すでに一度でも事前届出業務を行われた経験があるVC様の場合、おそらく日本銀行(以下「日銀」)様と何度かのドラフトチェックや質問のやりとりをされたかと思います。その内容はやがて日銀様が作成・公開されている「外為法Q&A」等に反映されるかとは思いますが、それまでの間は、こういったブログなどを通して相互に共有できればと考え、社内に蓄積した知識を本記事にまとめました。

そのため当記事では、法律についての説明は最低限にとどめ、あくまでベンチャーキャピタルが実務上行うべき対応について、実際に何をどう進めていくのがよいか?にフォーカスしています。

※なお、本記事の内容につきまして、一切の法的責任は負いかねます。あくまでインプットの一つや、参考資料程度とお考えください。
実際の届出の業務に際しましては、原則、法務ご担当者様、顧問弁護士様、日銀様、各省庁様など、各関係者と直接ご協議をされるようお願い申し上げます。

(省庁様には公開前に事前相談をいたしましたが、こういった記事等の内容確認については対応していらっしゃらないとのことでしたので、内容の正確性については担保できません…。そのため本記事も匿名公開となっております。合わせてご容赦いただけますと幸いですm(_ _)m)


また、この記事はあくまで公開当時の情報です。
10月18日には「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案」(外為法改正案)が閣議決定されるなど、ファンドにおいては事前届出の免除が拡大する方向で動いておりますので、当記事にあるような対応の必要性は減っていくかと存じます。



1.外為法対応にあたり、参考になるURL・ご連絡先


この記事ではかなりライトな記載をしております。正確な理解のためには、日銀様や各省庁が発表している最新情報を参照してください。

実際に届出書を書くなど、実務を行う際には、公開されているQ&Aをまず読んでみて、それでもわからない点があれば日銀様や各省庁様に直接質問してみるのが適切かと存じます。


参考URL:
日本銀行・外為法に関する手続きhttps://www.boj.or.jp/about/services/tame/index.htm/
日本銀行・外 為 法 Q & A(対内直接投資・特定取得編)https://www.boj.or.jp/about/services/tame/faq/data/t_naito.pdf

問合せ先:
・日本銀行(国際局国際収支課 外為法手続グループ)03-3277-2107
事業所管省庁連絡先一覧
・警察庁(生活安全局生活安全企画課犯罪抑止対策室)03-3581-0141(代)
(内 3022)
・金融庁(企画市場局総務課)03-3506-6000(代)、03-3506-6766(直)
・総務省(国際戦略局国際経済課多国間経済室) 03-5253-5111(代)、03-5253-5929(直)
・財務省(国際局調査課外国為替室) 03-3581-4111(代)、03-3581-8031(直)
・文部科学省(大臣官房政策課) 03-5253-4111(代)、03-6734-2468(直)
・厚生労働省(医政局経済課) 03-5253-1111(代)、03-3595-2421(直)
・農林水産省(食料産業局企画課) 03-3502-8111(代)、03-6744-2064(直)
・経済産業省(貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易管理政策課国
際投資管理室)03-3501-1511(代)、03-3501-1774(直)
・国土交通省(総合政策局国際政策課) 03-5253-8111(代)、03-5253-8312(直)
・環境省(大臣官房総務課) 03-3581-3351(代)、03-3580-1374(直)



2. そもそも外為法とか対内直接投資とか外国投資家とか…一体なに?


先日、多くのVC・CVCが所属しているJVCAでも、外為法における事前届出関連のセミナーが開催されたことで、「よく分かんないけど、うちも対応しないといけないかも」と認識されたVCは多いかと思います。日銀様が詳細な説明を「外為法Q&A(体内直接・特定取得編)」に記載してくださっていますが、まずはざっくりと理解していただければと思います。

規制の概要を改めて簡単に説明すると、「外国投資家」が「対内直接投資等」に該当する行為を、「業種一覧」に定められている日本の会社に対して行う場合には、外為法上、原則として、「外国投資家本人または代理人」から、日本銀行を経由して財務大臣+事業所間大臣宛に事前届出又は事後報告が必要となるというものです。

・対内直接投資とは?
対内直接投資とは、外国投資家が行う、いくつかの取引または行為のことを言います。詳しくは外為法Q&Aなどを参照いただきたいですが、ざっくり言えば「外国投資家が日本の会社にお金を入れたり経営に関与したりすること」です。

そのうち、事前届出の対象となる行為は、VCの実務上想定されるケースだと主に以下の4つかと思います。

(1)投資先事業者等の株式もしくは持分の取得又は処分
→国内の非上場会社の株式または持分を取得すること。ただし、発行済み株式または持分を他の外国投資家からの譲り受けにより取得する場合は除く※。
※ 国内の非上場会社の株式または持分を外国投資家が他の外国投資家からの譲受けによって取得する場合は、「対内直接投資」ではなく、「特定取得」として規定されており、全く別の届出対応が必要になります。この形での出資は珍しいケースだと思いますが、シリーズB以降などに全くないわけではないと思うので、発生した場合は留意が必要です。

(2)投資先事業者等が発行する新株予約権等の行使(=株式への転換)
→SAFEやJ-KISSなどで出資した会社が新たに資金調達を行うことになり、保有する新株予約権が転換されることになった場合には株式の取得にあたるので、たとえ追加出資しない場合でも転換前に事前届出が必要になります。シード投資の件数が多い+あまりUpdate MTGなどをしないVCなどは注意が必要ですね。

(3)投資先事業者等による事業内容の変更
→新たに追加する事業内容が事前届出業種に該当する場合に必要です。ただし、これに関しては株式会社の場合だと、総議決権の1/3以上を有することになる外国投資家が存在していて、当該外国投資家が行う同意のみが届出対象となります。VCの場合、このような出資比率になることはほぼないと思いますので、あまり気にしなくて大丈夫です。ただ条件が改正される可能性もゼロではないので、この行為も該当するのだなというのだけは覚えておきましょう。


(4)投資先事業者等による日本国内における非上場会社の株式若しくは持分の取得又は処分
→投資先事業者が買収を行ったり、子会社を設立したりするとなると、これも会社の事業目的の変更に関わってきます。(間接的に外国投資家による株式の取得をみなされることにもなるのでしょうか?その場合は加筆しますのでご指摘ください)


・事前届出業種とは?
これも外為法Q&Aに記載がありますが、「業種を定める告示別表第一および別表第二に掲載されている業種に該当する業種」か「別表第三、第一、第二のいずれにも掲載されていない業種」などです。定款にはないが実際には行っている業務があればそれも業種の確認対象です。

また、事前届出の対象となる要件として、業種の他に「出資比率」というものがあります。上場会社への出資の場合、発行済株式数のうち10%以上の取得(2020年には1%に引き下げのようです。)が対象ですが、我々VCが主に取り扱う非上場株式の場合だと、1株からとなっています。つまり、事前届出業種に該当する企業に出資して株式を取得する場合は、すべて事前届出の対象となります。


・外国投資家とは?
こちらも詳しくは外為法Q&Aに記載がありますが、
(1)非居住者である個人
(2)外国法令に基づいて設立された法人・団体
(3)上記の二つが過半数の議決権を保有する会社
(4)非居住者である個人が役員の過半数を占める日本の会社
などがあります。

ファンドの場合は、例えば国内のVC企業であり、ファンドのLPに外国投資家がいた場合だと、ファンドを経由して法人会社の株式を取得したと見做されます。そのため、投資実行による株式取得にあたっては、各外国投資家より個別に届出が必要となる場合があります。

VCで想定される届出のパターンを改めて整理すると以下の通りです。
(1)海外VCがGPで、一部のLPが外国投資家=GP、一部のLP共に外国投資家に該当。届出が必要な場合は、GP・LPそれぞれの名前で行う必要あり
(2)海外VCがGPで、LPは全員日本法人or 個人=GPのみ届出対応が必要
(3)海外VCがGPで、LPは全員外国投資家=GPのみ届出対応が必要
(4)日本VCがGPで、一部のLPが外国投資家=一部のLPのみ届出対応が必要
(5)日本VCがGPで、LPも全員日本法人or 個人=必要なし


・LPの中に、外国投資家に該当する方がいらっしゃるかどうか再確認しましょう!
LPの中に、明らかな外国人や外国法人の人がいないからと安心するのはやや早計です。
日本法人または日本人だったり、法人の場合は代表・役員人が日本人ばかりだから大丈夫だろう…と思っていたら、実は節税のために海外に拠点をうつされていたりして、「非居住者である個人が役員の過半数を占める日本の会社」であり、外国投資家に該当していた!というパターンは割と起こり得るものと考えられます。
そしてその場合、LP様ご本人も、自身が日本人なために、外国投資家に該当すると自覚されていない可能性もあります。GP側で自己判断をせず、答えていただける範囲で、LP様に改めて確認を取るのがベターです。


3. なぜいま、我々VCは外為法事前届出の対応が必要になったのか?
なお、ここまでに行った説明は、従前の外為法から特に変わっていません。つまり、外為法への対応は8月から必要になったのではなく、ずっと前から「事前届出要件に該当すれば」これらの対応は必要でした。

ただ、これまではドローンや衛星などのスタートアップに多く出資を行なっていたVCならともかく、ほとんどのVCは外国投資家がファンドにいたとしても、出資先が事前届出対象業種にあたらないケースが多かったために、届出について特に意識しないでここまで来たというVCが多かったのでは、と思います。(我々もそうでした)

しかし、以下のリンクの通り、2019年5月に「事前届出対象業種の追加等」が告示され、IT分野の技術流出防止の観点から、新たに情報処理関連の業種の多く(①「受託開発ソフトウェア業」、②「組込みソフトウェア業」、③「パッケージソフトウェア業」、④「情報処理サービス業」、⑤「インターネット利用サポート業」など)が事前届出対象業種に含められることになりました。これにより、外為法上の届出が必要になってしまうケースが大幅に増加するという現象が起きたことが、最近になって話題となった理由のひとつです。
https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/gaitame/recent_revised/20190527.htm


・既存投資支援先のなかに、従前からの事前届出対象業種が含まれていないか確認しましょう!
改正前の業種を定める告示別表を参考にして、すでに株式を保有している投資先の中に事前届出の対象となる企業が含まれていないかを確認しましょう。定款にはないが実際には行っている業務があればそれも業種の確認対象ですし、投資したスタートアップ本体がやっていなくても、子会社等が提供している事業があればそれも確認対象です。
https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/gaitame/recent_revised/kokuji_01.pdf


5.対応漏れが発覚したら、どうしたらいい?
もし、これを機に行った社内調査の結果、

「うちのLPには外国投資家がいないと思っていたけど、再確認したらいた…」
「出資先の業種を改めて確認したら、対象業種拡大前から外為法の事前届出業種に該当していたスタートアップの株式、すでに保有してしまっている…」

という事象が判明した場合は、速やかに財務省様(国際局調査課外国為替室 直接投資係)に相談しましょう。故意ではなく、単なる法律の理解不足であれば、基本的には遅延理由書の提出と届出書の提出で済むかと思います。

届出の義務があり、懲罰の対象となるのはあくまで外国投資家本人ですが、ファンドのLPという立場では、届出に必要な様々な情報をご本人が取得するのはかなり難しいと思われるものが含まれています。出資金をお預かりしている立場として、外国投資家に該当するLPの法対応を積極的にサポートしていく必要があると思います。
実際に、外国投資家が代理人を通じて事前届出を行うというケースにおいては、GPが外国投資家LPの分をまとめて届出を出すことも許容しているとのことです。



と、前置きが大変長くなってしまいましたが、次回記事にて事前届出の書き方について、私が日銀様や各省庁様にドラフトチェック時に教えていただいた内容をまとめたいと思います。



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