外為法事前届出対象業種の追加に際し、ベンチャーキャピタルが行うべき対応について〜2. 事前届出編、記入例付き〜


0.記事の目的


今回は、おそらく一番多いであろう、LPに外国投資家が含まれている、日本のベンチャーキャピタルにおいて、「非上場の日本企業に対して、新しく出資(株式の取得)の予定がある」というケースを想定し、事前届出を書いてみる!という記事です。


実際に事前届出の作成から取引可能となるまでの実務を実際に何度かやってみたVCの皆様は痛感されていることと存じますが、一般的なベンチャー出資で起こりがちな、ギリギリまで条件交渉していたり、同じラウンドで複数の投資家が出資したりするようなケースにおいて、外為法の事前届出書は、なかなか手戻りが発生しやすい作業です。しかし、そのせいで出資金の払込期日に間に合わないのは大問題ですから、なんとか避けたいところですよね。


何度かの失敗を重ね(日銀様、各省庁様、大変お世話になりました…)「こうやればスムーズにいくのではないかな?」という、うちなりの答えが少しずつ見えてきましたので、その一例を載せたいと思います。

※しつこいですが…本記事の内容につきまして、弊社として一切の法的責任は負いかねます。財務省様には、公開前に内容の正確性についてご相談をさせていただいたのですが、こういった記事などの確認については、全て断っていらっしゃるとのことであり、そのため一切の確認が入っておりません。添付している事前届出書の見本を含め、すべて参考程度とお考えください。

実際の届出の業務に際しましては、原則、LP内の法務ご担当者様、顧問弁護士様、日銀様、各省庁様など、各関係者と直接ご協議をされるようお願い申し上げます。


1.いつまでに、なにをする必要がある?


前回の記事でも少し触れましたが、外国投資家が対内直接投資を行う場合は、手続不要の対内直接投資に定められた行為を除いて、日銀を経由して財務大臣および事業所管大臣に、
(1)取引または行為を実際に行なったあとで報告する(「事後報告」)か、
(2)取引または行為を行なう前に届け出る(「事前届出」)
必要があります。
規制該当行為が発生する際には、上記いずれにあたるのかを判断する必要があります。


(1)事後報告に該当する場合
→取引または行為を行った日の属する月の翌月 15 日まで(翌月 15 日が休日の場合は前営業日まで)に報告すればOK。
さらに出資比率が(特別の関係にある者と合わせて)10%未満であれば事後報告そのものが省略可能。
ファンドの場合、ファンドの投資先への出資比率×LPとしてのファンドへの出資比率 =該当外国投資家としての出資比率とみなされますので、おそらくほとんどのケースで10%未満となり、事後報告は必要ないかと存じます。
ですので、本記事では「事前届出」に焦点を当てたいと思います。

(2)事前届出に該当する場合
→取引または行為を行った日の前6ヶ月以内に届出を行います。(※日銀が届出書を受理した日から起算して30 日を経過するまでは、届け出た取引または行為を行うことはできないことに注意してください(以下、「禁止期間」)。]ただし、禁止期間(30 日間)は、財務大臣および事業所管大臣が審査の必要上、当該期間を短縮しない場合を除いて、通常 2 週間に短縮されます。
短縮される場合、日銀様から取引可能日について連絡が来ます。連絡を受けた後に、「届出受理証」を窓口(50 番窓口)まで持参し、禁止期間の短縮手続を行なえば、短縮手続き完了後から取引が可能になります。
なお、取引が完了したら、実行報告の提出も必要となってきますので、忘れないようにしましょう!



2. 事前届出に該当する場合:事前届出書を記入するために必要な準備とは?

投資実行までのステップの一例:
1. 投資委員会を開催、出資(株式取得)決定
2. Co-Investorがいる場合は、彼ら自身や彼らのLPなどに外国投資家がいるかどうかヒアリング。いる場合、事前届出の進め方についてあらかじめ議論する
3. 出資予定先の業種が、どの事前届出業種に該当するかを確認する(業種を定める告示別表を参照)
4. 事前届出書を作成する
5. ドラフトチェックを受ける(任意)
6. 事前届出書を提出する
7. 禁止期間の短縮手続きを行う
8. 取引実行後、実行報告書を提出する


各社によって進めやすいフローが異なるとは思いますが、行おうとしている対内直接投資が事前届出に該当する場合は、だいたいこの流れになるかと思います。ここでは、まず1〜3までの、事前届出書を書くために必要な事前準備についてご説明させていただきます。


2-1. 投資委員会を開催、出資(株式取得)決定

株式取得による投資を行うことが決まったら、すぐに事前届出の必要有無の確認を開始しましょう。

前述の通り、事前届出書に不備がなかったとしても、審査期間は通常2週間程度発生します。
資金繰りがギリギリな状態で資金調達を進めているスタートアップもいる中で、2週間手出しできないというのはなかなか焦燥感がありますよね…。

また、事前届出は外国投資家が複数いるのであれば、全員からの届出が必要です。
うちの外国投資家LPには連絡したし、きっとみんな対応を進めてくださっているだろうと思っていたら、一社から「すみません手続き失念しておりました。あともう夏休みに入っていて法務部が動きません☆」なんていう恐怖のケースもあり得ます…。2週間あるから大丈夫と思わず、早め早めの動きが必要です。

スタートアップに対して、いつ資金がショートするか?もしっかり確認しておきましょう。


2-2. Co-Investorがいる場合は、彼らや彼らのLPなどに外国投資家がいるかどうかヒアリング。いる場合、事前届出の進め方についてあらかじめ議論する

ベンチャー投資でよくあるのが、複数のVCや事業会社が同ラウンドで出資を行うというケースです。
この場合、さらに届出を行うべき外国投資家の数が増えることが予想されますので、全体の数や出資比率をきちんと把握し、全員の足並みが揃うようにしましょう。また外国投資家の国籍または所在地が「外為法Q&Aの参考資料2 掲載国一覧」にない場合は業種に関係なく事前届出の対象です。


通常であれば、
1. Lead Investorが事前届出業種の確認を行う
→定款のチェック、出資予定のスタートアップに対してのヒアリング、別表参照
→必要であれば、各省庁への電話による照会
2. 事前届出業種に該当した場合、上記情報を各Co-Investorに共有
3. それぞれが届出書の作成プロセスを進め、提出

という形にするのが最もスムーズなのではないかと思います。


なぜかというと、事前届出業種を確認するための「業種を定める告示別表」の記載内容はかなりシンプルなので、事前届出業種に該当しているのかどうか、該当しているとしたらどれとどれなのか、判断に迷うケースが割と頻回に起こるからです。

そこで、VCとしては当然、スタートアップに対してヒアリングを行うと思います。しかし、スタートアップ側は普段、外為法も告示別表も意識していません。
それぞれのVCから来た質問が、同じことを聞いているのだと認識していなかったり、「社内展開用の情報として知りたいのかな?」くらいの軽さで考えていたりして、自身の回答の正確さの重要性を認識していなかった、ということも…。
(実際に弊社でも、他VCと弊社とで同じスタートアップがちがう業種番号を回答して来ていたというケースを実際に経験してしまいました。)


さらにVCとしては、各省庁の担当窓口への照会を行うかと思いますが、ここで同じスタートアップの事業内容を説明しても、やはりそこは今までにない新しいサービスを開発しているのがスタートアップというものです。
窓口のご担当者様が一発で事業を100%理解するというのはかなり難しいことと推察されますし、実際に担当者様ごとに少しずつ見解が異なり、ここでも問い合わせたVCごとに違う回答を得ているというケースも、実は発生しています。

そうなると、それぞれのVCが「これでOKだ!」と思って出した事前届出書の内容が、各省庁様が審査時に付き合わせたときに「同じ会社の話なのに違うぞ…」となります。

そうすると、どちらかの事前届出書が間違っていることになるので、財務省様からそれぞれに連絡・確認していただく手間が発生し、さらに間違っているとみなされた側は、取下げ書の提出と事前届出書の再提出が必要になってしまい、投資スケジュールに大きく影響してきます。
(ただ、同じ会社に同じラウンドで出資するケースにおいて、A社VCは3911受託開発ソフトウェア業として出したけど、B,C社VCは3913 パッケージソフトウェア業として出したという状況で、どちら側も修正を求められなかったケースもあったので、細かな違いであればケースバイケースの可能性もあります。)


「事前届出業種該当の有無と、具体的な該当業種の確認」は一社がまとめて行ってしまうのが、あとから手戻りが発生しないためには最も良いと思います。


2-3. 出資予定先の業種が、どの事前届出業種に該当するかを確認する

スタートアップ側へのヒアリングは欠かせませんが、丸投げするにはあまりにヘビーな作業なので、
まずはVC側が投資にあたってすでに手に入れているであろう情報を元に、「現在行っている事業内容」を確認しましょう。

参考にする情報ソース例:
・スタートアップの定款・履歴事項全部証明書に記載されている事業内容
・ホームページに記載のある事業内容
・その他Pitch Deckなどに記載のある事業内容


これらを参考に、ある程度該当業種の目星をつけます。
その上で、スタートアップへの確認をとりましょう。ヒアリングシートなどを作成して回答してもらうのがスムーズだと思います。

「定款上には定めてあるが、現在行っておらず、今後も行う予定がない事業内容」であれば事前届出書に記載の必要はありませんので、この点も確認しましょう。


回答を入手したらそれを参考に、報告対象の省庁を確認しましょう。
例えば、我々が出資するスタートアップで該当が多い「情報通信業」の例を挙げると、

・3700台 通信業→総務大臣所管事業
・3800台 放送業→総務大臣所管事業
・3900台 ソフトウェア業/情報処理・提供サービス業→経済産業大臣所管事業
・4000台 インターネット付随サービス業→総務大臣所管事業

という区分になっていますので、参考にして頂ければと思います。自分たちで導き出した業種に少し不安が残るのであれば、各省庁の担当窓口に電話相談をしましょう。 


2-4.事前届出に該当する場合:事前届出書を記入、提出する(記入例つき)

情報が揃ったところで、実際に事前届出書に記入してみましょう!

まずは日銀様のサイトに行き、事前届出書をDLしましょう。
https://www.boj.or.jp/about/services/tame/t-down.htm/
対内直接投資であれば、様式1の「株式・持分(及び議決権)の取得等に関する届出書」です。

なおファンドの場合は、GPが代理人として一枚の届出書で全外国投資家LP分をまとめて事前届出を行うことも可能となっています。
今回はそのケースを想定した記載例を掲載しておきます。

さて、いよいよ事前届出書が完成しました。

早速届け出るぞ!と思われた方、ちょっとストップ…!

特に、事前届出書を初めて作成したなどの場合は、ぜひ日銀様によるドラフトチェックを受けましょう。



2-5.ドラフトチェックを受ける(任意)

ドラフトチェックとは、事前届出書の内容について、明らかな間違いがないかを、日銀の担当者様が事前に確認してくださるという制度です。
実際に、ドラフトチェックなしで事前届出書を持ち込むVCで、書き方や内容などが間違っていたというケースは割と多いようです。
そうなると完全な無駄足になってしまいますので、積極的にドラフトチェックを利用するようにしましょう。

ドラフトチェックを受けたい場合、日本銀行国際局国際収支課外為法手続グループ宛に電話するか、メールで連絡しましょう。連絡先はこちらに記載されています。



2-6. 事前届出書を提出する

ドラフトチェックで指摘を受けた箇所の修正が終わったら、いよいよ届出です。
提出部数は【財務大臣+事業所管大臣数+日銀+自社控え分】です。

必要な部数を印刷し、すべてに押印をしましょう。コピーは不可です。
提出先は、日本銀行国際局国際収支課外為法手続グループ(50番窓口)への提出または直接郵送がベターです。
東京以外に拠点があるVCの方以外は、直接窓口に持っていくのがよいかと。ミスがあった場合にそこでも指摘してくださるのでより安心です。

弊社は窓口提出の方法を取っているのですが、その場合ですと、事前届出書が受理されると、自社控え分が「届出受理証」として当日中に窓口で交付されます。

そこにJDからはじまる番号と、目安の取引可能日が印字されています。
「JD***」という番号は届出書を特定するための情報となるので、どこかに記録しておきましょう。万が一届出受理証を紛失してしまった場合も、この番号がわかれば問題ないとのことでした。(とはいえキチンと保管するのが原則です!)


2-7. 禁止期間の短縮手続きを行う

無事に各省庁様の審査が完了したら、日銀様より電話にて取引可能日の連絡があります。その連絡を受けたら、取引可能日以降に届出受理証を持って日銀本店の50番窓口へ行くと、禁止期間短縮手続きを行っていただけます。この手続きが完了次第、対内直接投資が可能となります
(これをしないと、たとえ事前届出書が受理されていても、30日間の禁止期間中は取引を行うことはできません。)



2-8.取引実行後、実行報告書を提出する

実際に対内直接投資が実行されたら、30 日以内に実行報告書の提出も忘れずに…。こちらも日銀様のサイトに雛形がありますので、DLして記入しましょう。
※今回の記事ではこちらの書き方は割愛させていただきます。



3. 番外編:こんな時はどうしたらいい?


・事前届出書の内容に不備があり、取下げと事前届出書の再提出が必要になった。
→取下げ書に決まった様式はありませんので、必要な情報が記載されていればそれで大丈夫ですが、参考として弊社の雛形を公開いたします。


・届出を出したけども、ここから審査に2週間以上かかったら、スタートアップの資金がショートしてしまう!
→まず大前提として、早め早めに事前届出プロセスを進めることが重要ですが、それでも様々な事象によって、こういったケースに陥る可能性もゼロではないと思います。
その場合は、届出先の各省庁様に直接電話連絡し、事情説明の上、審査期間を短縮して欲しい旨をご相談しましょう。
通常であれば、日銀様での受理後、翌日午後以降には各省庁様の元に事前届出書が届いているので、翌日午後以降に連絡するのがベターかと思います。



以上が、外為法事前届出対象業種の追加に際し、ベンチャーキャピタルが行うべき対応について、弊社ナレッジの共有でした。皆様の実務において、すこしでもお役に立てる部分があれば幸いです。

なお、本記事に記載の内容は2019年10月時点のものであり、今後も外為法とそれに伴って必要な対応は常に更新されていきます。日銀様や各省庁様ホームページ等で、常に最新情報を確認して頂ければと思います。

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