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【参加レポ】語彙・辞書研究会 第64回研究発表会

秋をすっ飛ばして冬が始まり、辞書界も盛り上がってまいりました。みなさんいかがお過ごしでしょうか。Lakka26です。

今回は、11月19日に新宿NSビルで行われた語彙・辞書研究会のレポート記事をお届けします。
辞書尚友からは2名が参加しました。

語彙・辞書研究会とは

本研究会は、日本語の意味・用法を、より厳密に分析し記述することをめざすとともに、広く言葉にかかわる諸分野をも含めて、語彙・辞書研究の進展をはかることを目的とし、原則として年2回の研究発表会・講演会の開催、機関誌の発行、その他必要な活動を行っています。

語彙・辞書研究会ホームページ

第1回研究発表会が行われたのは1992年6月27日。現在、運営委員の代表は沖森卓也先生、事務局は三省堂出版局内に置かれています。

プログラム

[シンポジウム]「生成AI・大規模言語モデルの現状と日本語の辞書」

※敬称略
〔司会〕山崎誠(国立国語研究所客員教授)

〔パネリスト〕
古宮嘉那子(東京農工大学准教授)
「語義曖昧性解消 コーパスへの意味タグの付与システム」

・近藤泰弘(青山学院大学名誉教授)
「大規模言語モデルを用いた意味分析による辞書記述への応用」


・石黒圭(国立国語研究所教授)
「日本語学習者によるオンライン辞書活用の可能性」

・飯間浩明(『三省堂国語辞典』編集委員)
「AIと協力して辞書を作ろう」

感想

ふずく

やあやあどうもふずくです• ᴥ •
語彙・辞書研究会はこれまでオンラインでの参加でして、対面では初めて。
有名な先生方と同じ空間にいるという状態に大興奮でした。

さて、生成AIと辞書、あるいは生成AIと言語(学)というのは、昨今いろんなところで話題に上がっています。

大学生としていちばん身近なところでは、レポートや試験などで生成AIのガイドラインが示されていますね。

ちなみに弊学はかなり寛容な気がしますが、なぜ使用してはいけないのか?という生成AIの性格に関する説明がやや足りないと感じます。
(大学生は大学が思っている以上に賢くないので、そこまで説明してほしい)

個人的に、ChatGPTは「古文作って」的な遊び相手になってもらったことはあるものの、生産性のあることに使ったことがなく……。
辞書の世界でどのような可能性を秘めているのか、非常に興味深いテーマでした。

すべてのご発表を受けての全体的な感想としては、
現時点で、生成AIはよき助手として運用されていくのがよい
ということです。
(そりゃそーだろ、という感想で申し訳ない)

石黒先生の辞書活用に関するご発表にしても、飯間先生の辞書製作のご発表にしても、最終的な判断を下すのは人間です。

100点満点の回答を得ることができない、あるいは確実性がないとするならば、やはり人間が検討する必要があります。
生成AIの回答をそのままファイナルアンサーにしてしまうのは、かなりリスクのあることです。
(まあこれが大学のレポートや試験で多々あるので、先生方が嘆いているわけですが)

しかしながら、生成AIの提供する情報を検討することにより、人間が想定していない問題点や新たな視点が生まれ、よりよいものを生み出すことができるようになります。

近藤先生のご発表にあった、質問文「カメラ」に対して、「見ていると反射する」という観点からの類推で「鏡」を導くというのは、その最たる例だと思います。

なお「現時点で」としたのは、これからより精度が向上するのであれば、すべてをAIに委ねる時代が来る(分業という選択肢が生まれる)かもという期待です。
まあ私はかなりの心配性なので、結局自分で二重に作業してしまいそうですが……笑

辞書への応用としては、
使用者へのアプローチ
辞書製作者へのアプローチ
の二つがありますが、いずれにせよ、
辞書のデータを食わせたAIによる学習サポートを可能にすることで、
「辞書のような、辞書ではない何か」
を生み出せる可能性を感じます。

私もいろいろ勉強して、ChatGPTをいじってみようと思いました。

Lakka26

前回はオンラインで参加しており、対面では初めての参加でした。
初めにテーマ「生成AI・大規模言語モデルの現状と日本語の辞書」について山崎先生から説明があり、その後4名のパネリストによる発表が行われました。

古宮先生の「語義曖昧性解消 コーパスへの意味タグの付与システム」の発表は、今まで全く触れたことのない理系的なお話で衝撃を受けました。質疑応答の際に「どれだけAIを人間に寄せられるか考えている」という趣旨のことをおっしゃっていたのが印象に残っています。
近藤先生の「大規模言語モデルを用いた意味分析による辞書記述への応用」では、OpenAIの埋め込みベクトルの能力について興味深い説明がありました。埋め込みベクトルを活用することで、言語を越えて類似性をはかることができるというものです。個人的には、絵文字の意味も理解していたのが驚きでした。

⚠️ここまでベクトルの話が中心でレジュメに大量の数字が出てきたため、かなり混乱していた可能性があります(数弱)。理解に誤りがあればご指摘いただけますと幸いです。

石黒先生の「日本語学習者によるオンライン辞書活用の可能性」では、日本語学習者110名を対象に行った”辞書ツール使用調査”についての報告がありました。学習者が漢字を調べる際の画録からは、その書き順やバランスにとても苦労している様子が伝わってきました。そして、紙の辞書を使っている学生が非常に少ないこともわかりました。
私自身は他言語を学習する際、電子辞書かアプリ(物書堂)を使用しています。手書き入力の機能があり、無料のサイトよりも信憑性が高いと考えるからです。正直、他言語の学習において紙の辞書はかなり不便が多いと感じます。例えば中国語は、ピンイン(発音)がわからなければ辞書を引くのに苦労します。画数で引くのは時間がかかるので、手書き入力の機能があるもので調べたほうが効率的なのです。日本語も漢字の読みを知らないと調べることが難しいため、学習者の間でデジタルデバイスが主流になっているのではないでしょうか。今後辞書アプリの普及、またそれにお金を払う価値があることを利用者に知ってもらうことが大切なのではないかと考えました。

飯間先生の「AIと協力して辞書を作ろう」は、辞書編纂者の立場からAIをどのように活用していくか模索したものでした。語釈を書く作業を任せるにはまだ不十分という結果となりましたが、辞書編纂者がAIに辞書コンテンツを供給し、AIがその情報をもとにユーザーに回答するシステムの構築が提案されました。提供される情報の信頼性が確保されるだけでなく、より踏み込んだ解説をデータに付け加えることも可能です。しかしこのシステムを「辞書」という名で呼ぶのが適切かどうかは分からない、と締めくくられていたのが印象に残りました。
中型国語辞典が百科事典的な要素も強くなっているように、辞書は進化しようとすればするほどその形を失っていくのかもしれません。

おわりに

今回の研究会は、辞書の今後を考えるよいきっかけとなりました。今後も様々な研究会に積極的に参加していきたいと思います。
また、方向音痴の私たちを新宿NSビルまで連れて行ってくださった皆様に心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

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