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【特別公開】一人暮らしの歳時記 12月

【注意】この記事は、自由炊事党機関誌「自炊のひろば」第3号に掲載されるはずだった(が諸々間に合わなくて発行中止になってしまった)記事を、特別に公開するものです。都合により予告なく公開範囲を変更しまたは公開を取りやめる場合がありますので、ご了承ください。

12月

じゃがいも

 北海道から届く食材で、もう一つ食べきるのに工夫がいるのがじゃがいもだ。カレーや肉じゃがなど、家庭料理には欠かせない食材だが、一人暮らしではたくさんの材料が必要な煮込み料理はあまり作らない。
 じゃがいもをなんとか消費し、芽が伸びるまでに食べつくすのが、ひと冬の楽しみであり挑戦でもある。
 最近のお気に入りは居酒屋風ポテトサラダで、ほんの少しの工夫で格段に美味くなる。
 じゃがいも4個はよく水洗いして、皮つきのままチンする。ラップで包んで5分チンして、裏返してラップの上に載せる格好で5分チンすると中までホクホクになる。少しでも加熱できていない部分があると、ガリッとした不快な食感になるから、加熱の時間は長めの方が良い。
 人参1/4本を2mmくらいの厚さのいちょう切りにして、軽くチンする。玉葱1/4個はごく薄くスライスして多めの塩をよくもみ込み、時間が経ったら手でグイグイと握って水気をよく絞り、水につけておいてからまた水気をよく絞る。順番としては玉葱の塩もみがじゃがいもをチンしている時間でできていると効率的だ。
 きゅうり1/2本は5mmくらいの厚さで小口切りにして、軽く塩もみしてなるべく水気を絞る。人参と玉葱はじゃがいもの予熱で火が通っても良いが、きゅうりはなるべく生の食感を残したい。しかし、生のまま入れるとサラダの塩分で水が出てしまう。そこで、塩もみしてなるべく水気を切り、最後に加えるのだ。
 ベーコンブロックは適当にぶつ切りして平皿に並べてチンする。脂に火が入りすぎると爆発のもとだから、30秒くらいで様子を見ながら慎重に。余裕があればフライパンに油を敷かずにこんがり焼くのが良い。
 さて、じゃがいもの粗熱がとれたところで、皮をむいていく。指でつまむとピーッと皮がはがれていくから、熱さに耐えながら皮を全てむく。このときに加熱ムラがあると皮がむけないので、やはり熱すぎるくらいに加熱しておくのが良いのだ。
 ボウルに皮をむいたじゃがいもをゴロゴロと入れて、人参・玉葱・マヨネーズ・粒マスタードとともに、じゃがいもを潰すようにフォークで混ぜる。ここで粒マスタードを使うと、一気に大人の味になる(なくてもよい)。じゃがいもの予熱でマスタードやマヨネーズの酸味が飛んで、まろやかな味になるのも良い。
 ベーコンときゅうりを入れて、マヨネーズを足してよく混ぜる。マヨネーズの量をケチると美味しくないから、容器からキャップ全体を外して太い口からドバドバ入れるのがポイントだ。
 最後に粗挽き胡椒を軽く散らせば、あたたかいままでも、冷めても美味しいポテトサラダの出来上がりだ。

 もう一つよく作るのがニョッキで、おしゃれなイメージの割には手軽に作れる。
 じゃがいもを長めにチンして皮をむくところまでは同じ。それをよく潰し、1/3量の強力粉と混ぜる。じゃがいもの持つ水分が粉と混ざって団子状になっていく。ダマが残っていると崩れやすくなるので、念入りに潰してから団子に丸めていく。生地を棒状に伸ばし、1cmくらいの厚さに切り分けて、親指で全体を軽く伸ばす。どうせ伸ばしてしまうから、包丁で切り分けなくても良い。じゃがいもを潰すために使ったフォークで切ればよいから、ニョッキは包丁いらずなのだ。
 本当は熱湯で軽く茹でてからソースに絡ませるのだが、洗い物を増やしたくないし、生クリームをソースで使い切るのは難しいから、ソースで煮込んでしまおう。スパゲッティと違って、麺にはもう火が入っている。
 牛乳をフツフツと煮立たせてニョッキを茹で、多少煮詰まったところでブルーチーズ1かけとコンソメ少々を加えてよく混ぜる。
 あまり茹ですぎるとニョッキが煮溶けて崩れるから、加熱はほどほどに。茹でたてのニョッキのぷるんとした食感と、濃厚でもったりしたクリームソースが理想だが、さらっとしたソースで食べる武骨なニョッキも決して悪くない。
 その他にもじゃがいもを使った料理はたくさん作るが、すべて挙げるのはキリがないので2つだけ紹介した。今年はじゃがいもが不作で、夏の間ほとんど料理に使わなかった。ようやくじゃがいもをたくさん食べられる季節が訪れることが、楽しみでもあり、使い切りのプレッシャーでもある。
 なんだかんだで冬を越して、多少芽が出たじゃがいももなんとか食べきれば、春はもうすぐそこだ。

リンゴ

 ふるさと納税の返礼品を調べていて、「自分では買わないけどあるとうれしいもの」にしようと思い立った。それで目をつけたのがリンゴである。
 リンゴがあると小腹が空いたときに食べられるが、わざわざ自分では買わないような気がする。青森県や福島県では、1万円のふるさと納税に対して10kgのりんごがもらえるプランもある。返礼品は寄付額の3割以内とされているから、10kgで3,000円と思えばリンゴ農家の苦労が忍ばれる。多少形が悪かったり色ムラがあったりするだけで、甘い香りを放つ素晴らしい蜜リンゴに、そんな値段がつけられてしまうのだ。
 ずっしりと2段にリンゴが積まれた箱を開けると、確かに見た目はあまりよくない。左右非対称だったり、色が薄かったり、黒いかすり傷のようなものがついていたり。でも、口に入れてしまえば全部一緒。東京のスーパーではめったにお目にかかれないような、ジューシーで甘いリンゴたちだ。
 冬になると毎日1個リンゴ生活を送る。朝ごはんはリンゴ1個とコーヒー、時々ヨーグルト。お湯を沸かす間にリンゴを切り分け、お湯が沸いたらコーヒーを淹れ、抽出が終わるまでの間、残ったリンゴを切る。これで5分くらい。忙しい朝には悪くない。
 前にテレビで見た、青森県民ならできるというリンゴの空中切りを使えば、まな板いらずで場所を取らないから、コーヒーを淹れている横でリンゴを切れる。
 洗ったリンゴを、ヘタとお尻の部分を縦に持って、芯を外すように縦に刃を入れる。普段のリンゴより平たい切り身になる。リンゴを回しながら繰り返していくと、最後は芯だけが残るというしくみだ。
 普通の切り方と違って、芯の上下に実が残るから、芯の周りの食べられる部分をかじってから捨てるようにしている。
 ならば丸かじりで良いのでは、と思われるかもしれないが、そういうわけにはいかない。ジューシーな完熟リンゴはいきなりかぶりつくと汁が飛ぶし、僕の前歯は弱いから無理をしたくない。
 顎自体は頑丈な方だと思っているから、大きめにカットしたリンゴをバリバリと食べる。
 ホットコーヒーで胃をあたため、口の周りを拭いてシャキッとしたところで家を出る。
 毎日リンゴ生活とは言ったものの、実際には出かけていたり、ご飯を食べたくなったりして、リンゴを食べない日もまあまあある。リンゴは保存性に優れており、涼しいところに置いておけば2〜3ヵ月くらいはもつが、ブヨブヨになってきたリンゴは美味しくない。
 生食にも飽きてきた頃に、余ったリンゴを全部使ってリンゴジャムを作る。毎年アップルパイのフィリングにするつもりで厚切りのリンゴジャムも作るが、結局パイシートを買うだけの手間を惜しんで、フィリング単体でむしゃむしゃ食べてしまう。だから、作るものはリンゴジャムと呼んでおこう。
 ジャムと言っても甘ったるくないからそのまま食べても美味しい。おばあちゃん直伝のヘルシージャムだ。
 と前置きがながくなったが、要するにリンゴを切って煮込んだだけ。蜜入りの甘いリンゴに砂糖はいらない。無心になってリンゴの皮をむいて切り分け、フライパンに山盛りに積み上げる。レモン1個分を絞ってからごくとろ火にして、焦げ付かないように混ぜながら煮込む。はじめはちょっと動かせば崩れるほどの山盛りリンゴも、時間が経つと水分が抜けて形が崩れ、いつの間にかフライパンにおさまっている。水が出てきたらシナモンスティックを入れておくと、華やかな香りが加わって食欲をそそる。
 一度電子レンジでやったこともあるが、フライパンでないと煮詰められないので面倒でも火を使うのが良い。水が出てくるまでは焦げ付きやすく、水が出てからもちょっとでも混ぜきれていないところがあるとすぐに焦げてしまうから、鍋から目を離せない。

 好きな音楽をかけて、たまった洗い物を片付けながら、のんびりリンゴを煮詰める。甘い香りに包まれて、幸福な日曜の昼下がりの台所である。


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