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【特別公開】一人暮らしの歳時記 3月

【注意】この記事は、自由炊事党機関誌「自炊のひろば」第3号に掲載されるはずだった(が諸々間に合わなくて発行中止になってしまった)記事を、特別に公開するものです。都合により予告なく公開範囲を変更しまたは公開を取りやめる場合がありますので、ご了承ください。

3月

菜の花

 3月になると、なんだか胸の奥からゾワッとする感じがする。気圧の変化なのか、気温の変化なのか、はたまた気づいていないだけで花粉症なのかはわからないが、春のあのムズムズソワソワする感じは身体的な感覚だ。
 スーパーに行くと、食材もなんだか春めいている。中でも春を実感するのは菜の花だ。2月ぐらいから出始め、旬が近づくにつれて値段が下がっていく。いつ「初菜の花」を買うか、売り場で見かけるたびに脳内会議がはじまる(298円くらいで手を打つことが多い)。
 菜の花はシンプルにおひたしにするのが好きだ。醤油や麺つゆ、辛子和えなんかも良いけど、僕は断然マヨネーズ派。
 例によってケトルで沸かした熱湯を菜の花の入ったボウルにぶっかける。魔法のように色が変わってから、さらに2分くらい待つ。アクが意外と出ているなぁ、と思いながら黄色みを帯びた茹で汁を捨てて、水の中でグイグイと絞る。しっかり水で〆めたつもりでも、茎の中に熱湯が蓄えられているから油断は禁物である。
 茹で上がった菜の花を半分に切って器に並べ、マヨネーズを添える。気分で七味を振る。
 これだけで立派な酒のつまみになるから、季節物の青菜は素晴らしい。夏に取れるつるむらさきなども、こうやって食べるのが好きだ。
 ほろ苦さを噛み締める頃には、脳内会議をしたときに「うーん、ちょっと高いよなぁ」なんて思っていたことをすっかり忘れている。
 マヨネーズに飽きたら、茹でておいた菜の花を使って色んな料理ができる。

菜の花

おわりに

 なんだかバタバタしていて、9月に書き始めてから11月上旬に書き終えるまでの間に、すっかり季節が変わってしまった。残暑厳しい日々は彼岸を境にガラリと秋模様に変わり、暑くなったり寒くなったりを繰り返しながら、もうすぐ冬といった状況である。
 例年にないじゃがいもと玉葱の不作と報じられていたが、今年も無事に北海道からじゃがいもと玉葱が届いた。天候だけでなく物価の高騰にも悩まされたであろう秋の恵みたちが、今年もこうして食卓にのぼることに心から感謝を示したい。
 通勤電車でふと顔を上げて窓を見ると、季節が移ろっているのに気づいて月日の経つ速さに驚かされる。スーパーに行けば、もうあの食材が並ぶのかと思う。旅先で個人経営の居酒屋に行けば、手書きのおすすめメニューでその土地の季節を感じる。
 あっという間に過ぎ去る時間の流れの中で、季節は巡り、来年も同じ季節が訪れる。そんな暮らしができることに感謝しながら、次の季節がちゃんと巡ってくれるよう願いを込めて、旬の食材をいただくのである。


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