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宇都宮LRT開通から1年 ~交通イノベーションと地域共創の未来について~

 栃木県宇都宮市のLRT(ライトライン)は、日本国内の地方都市で他都市に先駆けて採用されました。LRTを中心にした都市交通の再設計は、単なるインフラ整備を超え、地域経済の循環や産業活性化、環境負荷軽減を実現する共創型の都市戦略の一環として位置づけられています。

 LRTの開通から1年を迎え、その成果と今後の展望について、venture café tokyoでは、10月24日にトークセッションが企画されました。モデレーターの曽根圭輔さんの進行のもとに多角的な議論が行われました。

 交通イノベーションと地域共創の観点から、LRTがどのように同市に変化をもたらし、未来に貢献していくのかの議論が堀り下げられました。

 以下、セッション内容の聴講記録としてまとめます。

1.導入の経緯と目的

 森本章倫教授(早稲田大学社会環境工学課教授)が、LRT導入の背景とその意義についてご自身が委員として関与されていたところでの経緯等を解説しました。

 森本教授は、もともとLRT導入が宇都宮市の工業団地周辺の渋滞解消を目的としたものであったが、2000年代にコンパクトシティの構想が浮上し、都市機能を集約させる交通インフラとしての役割が強まったと説明しました。LRTは都市の背骨として、市民が『歩いて暮らせる街』を実現するための基盤として、LRTは街の構造を新たにし、住みやすさを向上させる鍵となってきました。

 森本教授からは、LRT沿線はマンション需要が急増し、人口が8%増加したこと、また、75億円の経済効果が市街地にもたらされ、交通量の削減にも寄与したこと、清原団地に1100億円の設備投資が呼び込めた等、導入から1年で都市に生まれた具体的な変化を説明されました。


2.LRTがもたらす共創の可能性
 
 宇都宮市の東京オフィス所長である馬場将広さんから、LRTがもたらす共創の可能性について解説いただきました。

 宇都宮市はスーパースマートシティを目指し、地域で生成された再生可能エネルギー100%の利用を目指しています。LRTと共に地域内のエネルギー循環を支え、脱炭素社会への転換を図ろうとしています。LRTが都市の交通インフラであるだけでなく、地域の持続可能性を高めるエコシステムの一環として機能していこうとしています。

 また、スポーツ資源の活用についても触れました。宇都宮にはバスケットボールやラグビーのプロチームがあり、LRT沿線での観光資源も豊富です。これらの資源を結びつけることで、宇都宮はさらに魅力的な都市になっていくことが期待されています。

 このように、LRTと都市の連携による観光振興の可能性が示されました。

 後半では、スタートアップ企業のLUUPの代表である岡井大輝さんと、UTSUNOMIYA BASEの服部竜大さん、ジャーナリストの平岡乾さんが登壇し、それぞれの視点からLRTと地域共創について語りました。

3.LUUPとマイクロモビリティ

 岡井さんからは、LUUPがLRT沿線に100のポートを設置し、電動キックボードや電動自転車を通じて、市民の短距離移動の利便性が向上している取り組みを紹介しました。宇都宮市は駅周辺だけでなく、駅から離れた地域でも街の『駅前化』が実現しつつあると述べ、モビリティの進化が地域生活に新たな価値をもたらしていることを説明しました。また、LUUPは将来的に高齢者も利用しやすい電動自転車を導入予定で、LRTと連携した多層的な交通インフラの構築を目指していく構想を発表しました。
 
 曽根さんからは、スタートアップが地方都市で根付くために、どのような支援や連携が必要だと感じるかと問いかけたところ、岡井さんからは、地元企業や自治体との密な連携が欠かせないこと、地域に溶け込むサービスとして、今後も共に成長していきたいと回答しました。地元の交通事情に合わせ、柔軟に対応する姿勢が感じられました。


4.UTSUNOMIYA BASEと農業を通じた地域活性

 服部竜大さんからは、UTSUNOMIYA BASEによる農業と地域共創の取り組みを紹介しました。服部さんは、食と農を通じたコミュニティの形成に取り組んでおり、地元の食材を活かした6次産業化を推進しています。体験型農業やイベントも通じて、宇都宮の新たな魅力を作り出しています。農業体験や収穫イベントなどを通じ、地元住民や観光客と地域のつながりを深める場を提供する等、農業を軸にした地域活性化への取り組みや意欲を語られました。

 曽根さんからは、農業と都市生活の結びつきについて、地域資源を生かした産業振興の可能性について質問したところ。服部さんからは、農業を通じた交流の場を作ることで、地元の価値を再発見してもらい、持続可能な地域社会を築いていきたいと回答し、また、今後の抱負を述べました。


5.宇都宮の産業の強みがLRTで発揮されていく可能性

 ジャーナリストの平岡乾さんは宇都宮の産業の強みを説明しました。

 宇都宮は全国でも有数の製造拠点であり、特に半導体製造装置などの産業で強固な基盤を築いていることを言及しました。また、宇都宮ほど産業が集積している県庁所在地は少なく、全国でも数少ない存在であること、ニッチでありながら高収益を上げている企業が多いことが、宇都宮の強みであるとも述べました。

 加えて、宇都宮の製造業が持つ可能性についても触れ、東京のIT産業やスタートアップとの協業によって、地元産業がさらに高度化・発展する余地が大きいとの見解を示しました。

 曽根さんはこれら説明を受け、宇都宮の製造業の強みをいかにして次の世代に繋げていくかが重要との指摘をし、平岡さんも従来型の大型企業誘致も効果的だが、宇都宮ならではのニッチトップ企業やスタートアップの誘致、さらには地元企業の後継者問題を解決する視点が今後の発展に繋がるとも述べ、地域に根付く産業の多様化と継続的な支援の重要性を挙げました。


6.今後の課題と展望
 

 LRTは、単なる交通インフラではなく、地域のエコシステムを支える重要な軸となろうとしています。これを活かし、継続的な発展をどう実現するかが継続の課題であると曽根さんから総括のコメントがありました。
 
 宇都宮市側も前広に協業のアイデアを求めています。多拠点生活なども進展する今日、宇都宮は新しい生活スタイルの実現の可能性が秘められていること、その実現するスタイルが全国のモデルになり得ていく可能性を感じました。
 
 なお、11月10日公示、17日投票の宇都宮市長選では争点として、LRTの西側延伸計画が注目されています。開業したLRTは、上記のような交通利便性の向上や市街地の活性化が期待される一方で、事業費が当初予定を上回り、延伸にはさらに約400億円が必要とされており、財政負担や延伸効果に対する市民の賛否の声があるようです。

 将来の都市構造や財政運営に関わる重要なテーマでもあり、私も注目したいです。

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