【小説】自殺者の手記

 30分ほど前に服毒をした現在、私は死に向かっており、この文章は脳入力式ワードプロセッサにより生成されている。
 この報告書は死にゆく人間がどのように死を感知し死んでゆくのか、その意識の変遷を仔細に記したレポートであり、これを遺すことにより、死について考えるにあたり人類にとって重要な参考文献となることを期待する。
 
 現在、強い寒気と嘔吐感、動悸の乱れ、そして手足の痺れを感じている。
 毒がもたらす身体の異常は、苦痛ではなく、私にとっては薬といえるほどの安らぎを与えてくれている。自傷行為もこのような理由から行われるのだろう。
 
 痛みは罰だ。
 そして罰が下ることを私は望む。
 私のような人間は罰されなければいけない。
 それほどまでに私は罪深いのだ。
 取り柄と呼べるものは何ひとつなかった。頭が悪く、要領も悪い、その上根暗な私は周囲からずっと疎まれて生きてきた。
 当然だろう。
 こんな愛想もないただの無能を誰が好きになるだろう。
 他人に何も与えない、否、不快感ばかりを与え続ける私は、他人から蔑まれて然るべきであるし、何も与えないという意味では無視されるのはむしろ優しさの現れだとさえ言える。
 私はなんのために生まれてきたのか、これまでの決して短くない人生で何を為したか。
 何もしなかった。
 何もできなかった。
 人間は皆平等に生きる価値があるなどというのは幻想で、私のように何も生み出さない、ただ生み出すのは周囲の嫌悪感のみである私は、生まれてきてはいけない人間だった。
 そのことを、実際に今、死と直面して再確認できた。

 徐々に眠気が強くなってきた。
 眠りについたら、もう二度と目を覚ますことがないのだろう。
 このレポートもここらで終わる。謝辞を述べたりするべきだろうが、あいにく私にそのようなことをする相手などいない。
 誰もが私を嫌い、手を差し伸べてくれようとした数少ない人間の手すら振り払ってきた。
 誰も私からの言葉など欲さないだろう。
 眠気を我慢するにも限界が近づいてきたため、私はもう眠る。
 そして二度と目が覚めないことを祈る。
                        了

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